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公園にて

夜も深まった頃、一度寝たらそれはぐっすりの維月を置いて、有は廊下へと出た。そして、維月の部屋の戸の前で声を掛けた。

「炎託様。」

すると、炎託の声が答えた。

「誰か?」

有は、慎重に言った。

「はい。有でございます。あの、先ほど二人の神に会って、炎託様にお会いしたいと。探しておられるようでした。でも、未来が変わってしまってはいけないので、密かに炎託様にご連絡するように言われたのです。」

すると、戸は、驚くほどすぐに開いた。だが、炎託がそれに触れた様子はなく、戸はひとりでに開いたようだった。有が驚いていると、炎託が言った。

「二人と申したか。未来から来たと。どこに居る?」

有は、頷いて窓を指した。

「窓の外の道を真っ直ぐに東に向かった位置に、月がよく見える公園があります。そこで待っていると伝えて欲しいと。」

炎託は、窓を振り返った。そして、窓を開くと、そこに足を掛けた。

「行って参る。もしも戻らなくとも、維月殿には我に構うなと伝えて欲しい。我は我で、戻る道を探すゆえと。」

有は、頷いた。

「はい。お気をつけて。」

炎託は頷くと、すぐにそこから飛び立って行った。有は、人の形のものが飛ぶのを初めて見て驚いたが、蒼と十六夜が同じように宙に浮かんでいたのを思い出して、納得していた。蒼は、月になるのだ。きっと、これから大変なことがたくさん起こる。それを乗り越えたのが、あの蒼だったのだ。

有は、未来を垣間見れたことを、嬉しく思った。そうして、これで元へ戻ってくれたらと、本当に心から思った。


蒼は、十六夜の声を聞いた始めを思い出していた。

あの頃、まだ人だった。そして、十六夜すら信じられずに、猜疑的な言葉を投げかけた。

そして、信じてからは、ここで月の力を使う訓練をしたものだった。そのたびに、維月にたくさんの大福やらハンバーガーやら持たされて、すぐに空腹になるのを何とかしなければと特訓していた。

十六夜が、懐かしそうにベンチを見た。

「懐かしい。オレは、ここで初めて地上に降り立った。お前が、オレを人型にして…。思えば、あれも運命だったんだな。」

蒼は、ふふんと笑った。

「人型になってすぐの頃は、まだ母さんともベタベタしたりなかったのにな。」

十六夜は、横を向いた。

「そりゃあお前、どうしたらいいのか、オレも維月も分からなかったんだよ。今まで面と向かって話したこと無かったし、オレは人がどうやって愛情表現するのかも分からなかったし、しなきゃならないってことも分からなかった。そんなことをしてる間に、維月と触れ合うことも無く、あいつはオレが封じた祟り神に殺されちまうんだがな。オレは…あの時ほど、後悔したことは無かった。本気で、死にたいと思ったよ。維月を追って行きたくて。」

すると、月から声がした。

《…あの祟り神が、維月を殺すって?!どういうことだ、お前は誰だ!》

蒼は、ヤバイ、と、空を見上げた。この時代の十六夜は、月から見ているのだ。こっちの十六夜は、ちっと舌打ちをした。

「妨害してるつもりだったのに。」と、空を見上げた。「オレはお前。未来から来た…気を読んだら分かるだろうが。こっちは蒼だ。」

十六夜の声は、戸惑ったようだった。

《お前の気がオレと一緒なのが気になってたんだ。そっちの歳食った蒼は、オレの気が混じってる。だが、オレ達はここに居るのに。なんだってお前達はここへ来た?維月が死ぬってどういうことだ。まさか…まさか未来には、維月が居なくなるっていうのか?》

こっちの十六夜が、息をついた。

「分かってるだろうが。人のままなら、維月は死ぬ。寿命を迎えてな。」と、蒼を見た。「よく聞け。そして、それを現実にしたかったら、決してそれを誰にも言うんじゃねぇぞ。蒼は、オレと維月の間の命が宿った月だ。維月は死ぬ。死んで月になって生まれ変わる。そして、オレ達は陰陽の月として、結婚して命を作るんだ。明日から旅行へ行ったら、何事も起こるがままに見てるんだ。それで全てが進んで行く。維月が殺されて、それは苦しいかもしれねぇ。でも、維月は復活する。きっとだ。」

十六夜の声は、震えていた。

《そ…それは、あの炎託のせいか?炎託が来たのが、何か意味があるのか?》

それには、蒼が答えた。

「炎託が来たから、その未来が崩れそうになってる。炎託には悪気はないが、未来が変わってしまって母さんは寿命で死んで、そのまま復活して来ないんだ。十六夜、今十六夜はたった一人で神世を統治させられてる。オレ達は、そんな未来を元へ戻すために、こうして来た。炎託を連れて帰って、元へと戻したいんだ。だが、時間が無いんだ。」

十六夜は、じっと黙った。そして、返って来た声は、予想以上に動揺していた。

《維月と、オレが…。蒼が、オレの息子になるのか。オレは、維月と未来永劫一緒に居られるようになるのか。》

こっちの十六夜は、頷いた。

「そうだ。それからだって、子供を生む。ずっと一緒だ。だが、今度の旅行に行って神達との交流を始めて、それから維月が死なないと人のままになってしまう。月になるには、一度死なないといけないんだ。だが、未来が変わるようなことは、本当は知らせることが出来ない。分かるだろう…お前は、これを絶対に他の奴らにばらしちゃダメだ。その時点で、未来が変わっちまう。もしかしたら、ここでお前がこれを知ることで未来が変わるのかもしれねぇ。だから、これ以上詳しいことは言えないが、とにかくお前は、流れに身を任せておけということだ。」

十六夜の声が、震えたままで言った。

《…維月が死ぬことを思うと、オレは怖くてならなかったんだ。だが、お前達は維月が死ぬからこそ月になるというんだな。維月は、オレと…。》

蒼が、言った。

「そうだよ、十六夜!この時代のオレは、十六夜と母さんの気持ちなんて知らないけど、二人が本当に愛し合ってるのは、今のオレは知ってる。黙って見ててくれ。炎託が来たことで、ややこしくなってしまった未来を正すから。」

十六夜の声が、戸惑った。

《…気は嘘を付けない。お前達の綺麗な気を信じるしかない。なら、さっきお前達が言っていた、もう二人ってのは誰だ?ここにもう来てるのか。》

蒼は、首を振った。

「分からないんだ。どの時間に落ちたのか…炎託はこの時間に落ちた。だが、他の二人は二年後かも、十年後かも、もしくは明日かもしれないんだ。どの時間に到着するのかが分からない。」

十六夜は、答えた。

《なら、オレが見張ってる。その二人のことも、連れ戻さなきゃならないんだろう。》

蒼は、頷いた。

「そうだ。この時代に干渉しちゃいけないんだ。本当なら、誰かと話したりするだけでなく、水を飲んだり空気を消費するだけでも変わるかもしれないって思われてるのに。現れたら、誰と話す間もなくすぐにあっちへ連れて帰らないと。」

十六夜は、頷いたようだった。

《わかった。オレが見張ってる。それから、決してこのことを口外しない。未来を変えたくはないからな。》

そして、ちょっと口をつぐんでから、続けた。《炎託が来た。ここへ呼んだのか?》

十六夜と蒼は、振り返った。炎託の気が近付いて来る…有は、うまく言ってくれたのだ。

蒼は、気配を消して脇へと入った。十六夜も、同じように気配を隠して遊具の後ろに立つ。

炎託は、その公園へ降り立って回りを見回した。

「慶?修?居らぬか。」

蒼が、後ろから進み出て言った。

「炎託。」

炎託は、びくっとして振り返った。

「…蒼殿!」

炎託は、慌てて飛び立とうとした。しかし、後ろから何かに羽交い絞めにされ、その場に倒された。

「炎託!とにかく話を聞け!お前、えらいことしちまったんだぞ!」

炎託は、十六夜を目だけで振り返りながら、苦しげに言った。

「何のことぞ…我は、瑞姫を助けたいだけぞ!我が、病を見つけられなんだばっかりに…」

蒼は、十六夜に羽交い絞めにされたままの炎託を見下ろした。

「オレだって、娘のことなんだからどうにかしてやりたいよ。だが、あれは寿命だ。オレには見えている。もしもお前が病の治療に成功してたとしても、別の病で瑞姫はあの同じ時に死んでいる。寿命とは、そういうものだ。不自然なことをして、命を留めようなんて間違ってる。」

炎託は、蒼を見上げた。

「それでも…それでも我は、瑞姫を助けてやりたかったのだ。」炎託は、涙で曇って来る視界を、目を瞬かせてはっきりさせた。「じっと死ぬのを待つことなど…何か手立てがあるのなら、何とか…。」

蒼は、視線を落とした。炎託の気持ちは、痛いほど分かった。自分だって、娘の命が消えて行くのに、平気なわけではない。だが、命とはそういうもの。それを、ここまで生きて来て、知ってしまったのだ。

「…お前を責めようなんて、誰も思っちゃいない。だが、お前は帰るんだ。ここに来て維月達に接してしまったせいで、未来が変わった…オレ達は意識だけ、別次元に何とか逃れたが、お前が干渉したせいで、世が大きく変わってしまっている。オレも維月も人として死んで世に居ない。龍王も死んで血筋が絶えてしまった。もちろんのこと、オレが死んで居ないんだから、瑞姫だって生まれてもないし、月の宮は存在しないことになってしまっている。」

炎託は、それを聞いてびっくりしたように蒼を見た。

「何だって…我が維月殿達と、接してしもうたから?」

蒼は、頷いた。

「旅行の話をしていただろう。あれに行かない事になって、未来が変わってしまっていた。だが、オレ達が有に話して何とか行く事になった。この旅行が、運命の分岐だったからな。さ、とにかく主だけでも!慶と脩は、まだこの時間には居ないようだ。来たらすぐに回収する!」

炎託は、がっくりと膝をついた。瑞姫を助けたいだけだった。なのに、そんなに大きな事になってしまったのか。

「…分かった。」

十六夜の声が言った。

《オレは戻る。蒼に気になることがあるから少しだけだと月に戻ったから、あいつに怪しまれる。明日から、流れに身を任せて旅行に行って来るよ。お前達を信じてる。》

蒼は、頷いて空を見上げた。

「大丈夫だ。たくさんの事が起こるけど、流れに身を任せていたら大丈夫だから。十六夜…一人にしない。絶対に。」

十六夜の声は、震えた。

《蒼…。分かったよ。》

そうして、十六夜の気配は月から消えた。

蒼と十六夜は、炎託と共にそこから消えた。

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