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分岐

碧黎は、急に目を開いた。

「炎託ぞ!」

回りの三人が仰天して碧黎を見る。碧黎が集中していたので、邪魔をしてならないとそれぞれ部屋のあちこちで考え事をしていたのだ。

維心が、言った。

「接触した時がわかったか?」

碧黎は、頷いた。

「分かった。だが、何か変化があるか、我には分からぬ。この頃の主らを知らぬからだ。」と、十六夜を見た。「恐らく記憶は遠いだろうが、思い出せ。蒼と維月が人の頃ぞ。闇を倒した後のようだ…気が穏やかになっておった。温泉に行くと。あー、有、涼、恒、遙と、裕馬と共に。」

蒼が先に頷いた。

「よく覚えています。炎嘉様の領地にある旅館に泊まって、観光に維心様の領地の滝へ行きました。そこで、初めて維心様に会った。」

維心が、言った。

「若月の事を頼んだ時か。覚えておる。」

碧黎は、蒼を見た。

「ならばそこで、主らは維心に出会えぬ。炎託が来て、維月は世話をすることにした。美月の屋敷へ向かったぞ。旅館にとやらには、行かなかった。」

蒼が、口を押さえた。十六夜が、深刻な顔をした。

「…それだけじゃねぇ。若月に絡んで祟り神が出て来て、そこで維月は命を落とした。若月を助けたから、その陰の月の命をもらって、維月は復活したんだ。維心の、黄泉がえりの術で。」

蒼は、言った。

「つまり…オレ達が旅行に行かなかったから、何も始まらないということなんだ。」

碧黎は、頷いた。

「運命とは、僅かなところで分岐する。主らが維心に会わず、若月に関わらず、祟り神にも会わずに居たから人のまま寿命を迎えて死んで行った。そこで、大きく主らの運命が変わってしもうたのだ。」

十六夜が、立ち上がった。

「じゃあ、炎託を連れ戻したらいいんだな。親父、炎託が落下した時間へ飛ばしてくれ。」

碧黎は、眉を寄せて十六夜を見た。

「時を特定するのは難しいと申したの。我も上達して参ったとはいえ、その時ずばりに主らを送ることなど困難ぞ。それに」と、また手を見た。「…我の力もあまりない。意識であるから、本体がない。気を供給するものがないゆえ、今我が持っておる気を使いきったら最後ぞ。主らも同じ。常それを念頭に置いて、無駄な気を使うでないぞ。」

十六夜は、さっきよりも心もとなくなって来ている指先を見た。蒼も、薄くなって来ている指に、言った。

「碧黎様、消えたらどうなるのですか?この意識は、本体へ戻るのでしょうか。」

碧黎は、首を振った。

「消滅する。今の時点では我らは無いはずの意識。本来ならばあるはずなどないのだ。無理に引き離して来たゆえここに存在するだけであって、本体は我らを呼ぶことはないだろう。つまりは、我らは己で未来を正し、然る後に己で戻らねばならぬ。」

維心は、頷いた。

「つまりは、それだけの力を残しておかねばならぬということか。」

碧黎は、頷いた。

「その通りぞ。しかし主と蒼には戻る術が分かるまい。我と十六夜が力を残し、主らを戻す。」と、息をついた。「それを計算すると、我が主らをあちらへ送れる回数は限られている。不足の事態を考えても二回。万が一の時にこちらへ引き戻す力と、不測の事態が起きてもう一度時間を選んで飛ぶことを考えて、まず決めて飛べるのは二回だと心得よ。」

十六夜は、頷いた。

「失敗は許されないってことだな。」

碧黎は、頷いた。

「そうだ。それから炎託を連れ戻して終わりだと思うておるやもしれぬが、そう簡単には行かぬぞ。」蒼も、維心も十六夜も驚いた顔をして碧黎を見た。碧黎は続けた。「あれは実体がある。本体があれなのだ。力が強い。我らの姿を見れば、連れ戻しに来たと思うて逃げる可能性がある。理由を話せば分かるであろうが、維月達の前でそれは出来ぬ。この時代の維月が知らぬことを知ってしまえば、それだけでまた時が変わる可能性がある。あくまで密かに炎託に接触せねばならぬのだ。その時代の十六夜も居るのだから難しいことぞ。」

維心は、息をついた。

「確かに難しい。姿を見れば逃げるだろうしな。」

蒼が、頷いて不安げに維心を見た。

「確か、人の母さんには神を見ることは出来なかったけど、声は聴こえたんです。オレには、姿も見えた。」

十六夜が、頷いた。

「そうだ。維月は声は聴こえてた。側に居る時に、話しかけることは出来ねぇ。」十六夜は、息をついた。「とにかく、時間との戦いなんだ。出来るだけ近い時間に送ってくれねぇか。炎託が居ても、旅行にさえ行けばいいんだろう。そっちの方から考える。未来のことを話さなきゃ、維月や蒼に接触しても大丈夫だろうから。」

蒼が、言った。

「だったら、有がいいよ!有がまだ生きてるんだ。有は兄弟姉妹で一番口が堅くて、発言力がある。穏やかでおっとりしてるけど、怒ったら怖かったから。」

十六夜は、頷いた。

「よし。もし話せたら、有に話そう。」と、維心を見た。「行くぞ、維心。」

すると、維心は首を振った。

「我は残る。」それを聞いた十六夜も蒼も、驚いた顔をした。維心は言った。「他の二人も居るのだ。その二人がどこに居るのかまだ定かでないのに、そちらで何か起こったら何とする。我は残って、何かあった時の対処をする。主らは行け。どちらにしろ我は、この時代の主らのことを深く知らぬ。」

十六夜と蒼は、碧黎を見た。碧黎は、頷いた。

「維心の言う通りよ。主らがもしもあちらで力尽きたらどうする。維心を後に残した置いた方が良い。」

十六夜は、頷いて構えた。

「分かった。だが力尽きるなんて縁起でもないこと言うな。」

碧黎は、手を上げてまた、あの鏡を作り出した。

「力尽きる前に、我がこちらへ強制的に引きずり戻す。意識の欠片でも残っておったら、本体に戻れさえしたら復活するからの。案じるでないわ。」と、眉を寄せた。意識を集中している。「…送る。構えよ。」

蒼と十六夜は、しっかりとお互いの手を握った。向こうで、離れ離れになってしまったら、策がうまく行かなくなる可能性があるからだ。僅かでも、二日三日のずれを起こして到着するようなことがあると聞く。

「よし」碧黎は叫んだ。「行け!」

二人は、鏡の中へと飛び込んだ。鏡は波打って、二人の姿を飲み込んだ。

維心と碧黎は、その表面が凪ぐのを待って、そこを覗き込んだ。


蒼は、夢を見ているようだった。

自分はまだ行ったことのない黄泉で、有や涼、恒や遙、それに維月と楽しく話している。

維心が近付く…維月の肩を抱いている。いつも見ていたように、維心は維月に頬を寄せて、それは仲睦まじげだ。そして、維心が手を翳すと、現世の様子が見えた。蒼達と維月、維心はそれを覗き込み、心配そうに十六夜や他の神達を見ている…。

気がつくと、十六夜が必死に自分の体を揺すっていた。

「蒼?ああ、良かった。一瞬全体的に薄れてよ…消えちまうのかと。」

蒼は、起き上がった。

「全体的に?オレの体、十六夜よりやばいのかな。」

十六夜は、首を振った。

「お前もオレも月なんだから、同じだろう。気を強く持つか持たねぇかで大分違うと思うぞ。」

蒼は、額に手をやった。

「夢を見た。黄泉の夢だ…オレは一度も行ったことがないのに。有も涼も、恒も遙も居た。母さんも…維心様と仲が良さそうで、その維心様が映し出してくれる現世のことを、皆で心配そうに見てるんだ。十六夜とか、他の神達をすごく心配しているみたいだった。」

十六夜は、眉を寄せた。 黙って蒼に手を貸すと、立ち上がらせて言った。

「…きっと、それは真実だ。お前は黄泉を覗き見て来たんだろう。維心と維月は、黄泉で出逢ったんだ。維心はオレのことを、維月に伝えに行ってくれただろうから。維心が維月を愛さないはずはない。それで二人で、オレを心配してるんだろうな。」

蒼は、変わってしまった世での十六夜の孤独さを思った。蒼は、死ぬ前に維心を十六夜に残した。だが、維心が残したのは、神世での王座。友と言われるような話し相手も、今は完全にいないのだ。

蒼は、十六夜を見た。

「さあ、元に戻すんだろう。今はどうなってる?月は使えるか。見えるか?」

十六夜は、空を見上げた。

「少しなら見えるんだ。断片的なんだが、なんとか。ここに着いてすぐに見たのが、維月が炎託を連れて、タクシーを拾った姿。今は家まで30分といったところか。」

蒼は、力強く頷いた。

「よし!じゃあ有だ!有に先回りして話をしよう。有は、最後まで神世に関わらなかった。何かを知っても、未来が変わる危険は少ない。それに口が堅いから、母さんに伝わるはずもない。早く行こう!」

そうして、蒼と十六夜は、気配を消しながら懐かしいあの頃の家を目指して飛んだのだった。

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