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鳥の宮2

皆と離れた炎嘉は、一人昔の自分の部屋へと向かった。すると、父王にこっぴどく叱られた炎嘉は、乳母に抱きついて、その膝元で泣いていた。炎嘉は、それを見て苦笑した…良かった、あやつらに見られたら、何を言われたか分からぬわ。

「炎嘉様…おいたが過ぎたのでございまするわ。さあさあ、父王は、とても案じてらしたのですよ。だからつい、そのように申されたのでしょう。お気持ちを沈めて、そうして、教育の鳥の話に耳を傾けてやってくださいませ。」

炎嘉は、涙に濡れた顔を上げた。

「だが、父上は一方的でいらっしゃるのだ。我だって、外の世界へ行きたいのに。少しも連れて出てくれぬではないか。」

乳母は、困ったように笑いながら、炎嘉の髪を撫でた。

「はい。ですから、父上を見返しておしまいになられたら良いのですわ。我は、炎嘉様がどれほどに利口なお子様でいらっしゃるのか、知っておりまする。炎嘉様がどれほどにお利口で、どれほどにお一人で何でもできるのかお示しになられたら、きっと何もおっしゃらなくなりまする。」

炎嘉は、それを聞いてぱっと目を開いた。何かを悟ったような顔つきだ。

「…主の言う通りやもしれぬ。父上は、我を知らぬから。何でも己で出来るのに。」

乳母は、微笑んで頷いた。

「はい。わかりやすい形でなければ、父上にはお分かりにならぬのですわ。」

炎嘉は、涙を着物の袖で拭うと、立ち上がった。

「分かった。学んでみせようぞ。我は、父上を見返してやるのだ。」と、さっさと走り出した。「教育の鳥!どこぞ!参れ、話を聞いてやるゆえ!」

バタバタと音が聴こえる。

乳母は、袖で口元を押さえて、ゆったりと笑ってそれを見送っていた。


炎嘉は、そんな乳母の姿をじっと見つめた。これは映像なので、乳母には自分が分からない。だが、それでも懐かしかった。神の王族の常で、母は妃であって父王の世話しかしなかった。なので、あまり顔を見ることもなくて、顔を見ることがあっても、母は王になるだろう第一皇子の炎鴎にばかり構っていたので、炎嘉は面白くなかった。

しかし、そんな炎嘉を優しく見守ってくれていたのは、この乳母の姪朋(めいほう)だった。おっとりと優しくて、穏やかな気を持つ美しい女だった。母よりも若く、父の寵愛も時に受けていたと後に聞いたが、それでも姪朋は自分をそれは大切に包み込むように育ててくれた。だが、自分が王座に就くと決まった時、母が強引に姪朋を宮から出して里へ帰してしまった…恐らくは、姪朋の発言力が自分よりも上がると恐れてのことだろうが、炎嘉にはそれが許せなかった。戻してくれるよう父に願い出たが、もう乳母など要らぬだろうと言われて聞いてはもらえなかった。正妃である母には、父もあまり恨まれなくなかったのだろう。

母は、炎嘉が皇太子になってから、よく炎嘉を自分の部屋へ呼んで茶をなどと言って来たが、炎嘉はそんな母を疎ましく思い、頭ごなしに断って一切行くことはなかった。次の王である炎嘉は、もう既に母よりも、ずっと高い地位にあったからだ。

父王が亡くなって王座に就いてすぐに姪朋を宮へ召そうとしたが、その時既に、姪朋はこの世になかった…。

母は、父が亡くなった後も王の母として宮へ残ることを当然の事と望んだが、炎嘉はそれを許さず父の妃は全て、有無を言わさず里へと帰したのだった。

「あんな子供に、つき合わせてしもうてすまぬな。」炎嘉は、聴こえないと知っていながら姪朋に話し掛けた。「そうして、最後まで守ってやれずにすまぬ。」

姪朋は、そんな炎嘉に気付かず、ゆったりと手にした扇を振っている。

炎嘉は、流れて来る涙を拭いながら、せめて姪朋の最後に立ち会いたかった、と心から望んだのだった。


その頃、庭では焔が歩きながら話していた。

「どこの宮でも、王座のことについてはいろいろあるのだ。」焔は、蒼を見ていた。「龍の宮などは代々皇子が極端に少なかったし、なので子が出来たら大喜びで跡継ぎとされて龍王となって繋がって来ておるが、我ら鳥の種族の仲間は、子が多くての。まあ性質もあるのだ。龍は禁欲的であまり女遊びなどせぬが、鳥は享楽的でその場限りなども平気で相手をしたりする。なので子が多くて、逆にそれで揉める元になる。炎真にも正妃との間は五人であったが、その他妃が産んだ子や庶出の子が10人は居ったのではないかの。炎嘉は、妃は多かったが子自体は少ない方だったと、我は歴史を見ておって思うた。」

蒼は、仰天した。炎真様も、女好きだったのか。

維心が言った。

「子が多いと、何かと揉める。我も将維を生まれてすぐに跡継ぎに決めたのは、そういった後の揉め事を避けるため。結果的に後に三人の皇子が生まれて、やはり良かったと思うたものよ。」

焔は、維心を振り返った。

「珍しいのだ、龍がそのようにポンポン生まれるのは。龍の王族がそんなに増えては、世も龍には逆らう気がなくなるであろうがの。それでも、同じ妃から生まれておったからまるく収まったというのもある。」と、焔は険しい顔をした。「困ったことに、煽が妃を5人持っておって、我はその五番目の妃から生まれたことぞ。一番上の兄は正妃から、二番目の兄は三番目の妃から生まれておってな。普通なら、正妃から、しかも最初に生まれたのだから兄の(りん)が継ぐだろうと誰もが信じて疑わなかった。それなのに、その燐から100年遅れて生まれた我が、いきなり生まれた当日に跡継ぎと定められ…今や鷲の中では絶対的な王の扱いであった焔という名を与えられた。母は、他の妃から執拗な嫌がらせを受けて心労で早くに亡くなった。我が宮の中では、我を王にすることに反対である勢力もあるのだ。ま、我は父の妃は全て宮から出したゆえ、影響力は全くないが、それでもやりにくいことこの上ないわな。」

蒼は、龍の宮も月の宮も、そんなことには全く縁がなかったので、神世ではそんなことは起こらないのだと思っていたのに、実際にはこうやって、争いがあるのだと知って、ショックだった。なので、素直にそれを言った。

「オレには妃が、最高で三人居たのですが、皆とても仲が良くて穏やかに過ごしておりました。皆普通に寿命で亡くなったので…。」

焔は、蒼に頷いた。

「主が不死で、跡取り争いとかないしの。それに主は誰を正妃にとか順番をつけておらなんだであろう?妃同士というのは、そんな序列争いをするのよ。正妃は絶対であるが、王の気持ち次第では下ろされて別の妃が正妃になる可能性もあるゆえに、正妃ですら妃達には牽制するのだ。そんな大騒ぎの後宮が忘れられなくての…我は今生、まだ一人の妃も娶っておらぬのだ。」

維心が、同情したような顔をして焔を見た。

「我の父が同じようなことを。我は女など面倒だし、加減次第で殺してしまう可能性もあったしの。前世は維月に出会うまで、全く女などは興味もなく来た。臣下達はうるさかったが…あれらは王をなんだと思うておるのかと思うたものよ。」

焔は、それに何度も頷いた。

「そうなのだ。何を考えておるのかと思うわ。跡継ぎがどうの…我だって生きておるのに。前世それでエラいことになっておって、宮で寛ぐことも出来なんだし、今生ぐらい静かに暮らしたいのだ。」

維心は、本当に分かるという風に、焔を見た。

「分かるぞ。放って置いて欲しいわな。己らは勝手に婚姻したり離縁したりするくせに、我らのことは勝手に決めて参って。腹が立つよの。一度斬ってしもうてやれば良いのだ。我はそれでいきなり誰も連れて来れなくなったぞ。話は持って参ったがの。」

焔は、仰天したような顔をした。

「なんと?斬ったのか?それは…その、そこまでは我は良いと思うのだが…。」

蒼が、慌てて割り込んだ。

「あの!」二人が何事かと蒼を振り返る。蒼は、頭をフルに回転させて話題を変えた。「炎嘉様…は今部屋にいらっしゃるのでしょうか?」

焔は、急だったので首をかしげた。

「炎嘉?ああ…そうであろうの。」と、何かを探るような顔をした。「…いや、そうか気を探れぬのだな。ここは映像の中であるし。どこに居るのか、気取れぬのだが。」

維心は、同じように宮の方を見た。

「…おかしいの。炎嘉の気配、近くなら気取れたのだ。さっきも、あやつが子供の頃の自分の部屋らしい場所へ向かったのが辿れたので、安堵しておったのだが。いつの間にか、気取れなくなっておる。」

焔は、驚いたような顔をした。

「主、最初に気取れぬと話したのに、試しておったのか?」

維心は、頷いた。

「気を使えぬというて、飛ぶことは出来るのだから、ある程度は出来るのだろうと思うての。いろいろと試しておるぞ?例えば、瞬間移動は出来そうな気がする。」

蒼が、びっくりして目を丸くした。

「え、あれはかなり難しい技ですのに?!」

維心は、頷いた。

「主らより、少し遅れて飛んで、主らの気を頼りにやってみたら、真後ろに移動した。だから、炎嘉が気取れぬのなら、炎嘉の気を辿ってそこへ向かって瞬間移動をすれば、いけるはず。」

焔が、顔をしかめた。

「我はあの瞬間移動が嫌いでの。上手く行った例がない。一度岩の中へ実体化しそうになって、かなり痛い思いをしたのだ。あれから、しとうない。」

蒼も、頷いた。

「オレは瞬間移動自体をしたことがなかったんですから!」

維心は、ため息をついて両手を差し出した。

「わかったわかった。我が連れて参るわ。怖ければ主らは、目をつぶって掴まっておれ。」

そうして、本当に焔と蒼の二人は維心の手を握って、目を閉じた。

維心は、それを見て微かにため息をついたが、次の瞬間、スッと飛んだのだった。

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