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変わった世界

十六夜が、始めはぶっきら棒ながらも維心と交流し始めて、段々にいろいろな力を使えるようになって来た。

維心は、退屈だったからといろいろと丁寧に教えてくれた。自分で人型も取って地上へ降りて来ることが出来るようになり、十六夜は維心と共に、神世というのを知って、神世がどう動いているのか知るようになった。

人型の十六夜は、時に庭で何か遠くを見るような時があった。維心は、今日も一人、ぽつんと庭で佇んでいる十六夜に話し掛けた。

「何ぞ?主はようそうやって一人で居るの。何を考えておる。」

すると、十六夜は答えた。

「…オレは、長いこと月の力を使える人を守って生きて来た。皆先に死んで逝く…それが当然だと、寂しいと思いながらもそれほど悲しむこともなく、皆を見送って来たもんだ。それなのに、どうしても忘れられない人が居る。」

維心は、首をかしげた。

「それは、我に主のことを頼みに来た男か?」

十六夜は、弱々しく笑った。

「ああ、あいつは蒼という名だ。蒼も好きだった。オレを人型にして地上へ下ろしてくれた初めて人だったからな。だが、オレが忘れられないのは、たった一人。蒼を生んだ、維月という女だ。」

維心は、その名を復唱した。

「維月…。」

何か、懐かしいような。

維心は、そう思っていたが、十六夜は頷いた。

「そう。オレが愛した、たった一人の女だ。他の女には持たなかった思いを、維月には持っていた。維月もオレを愛してくれていた。それなのに…とうとう、オレは維月が生きている間、自分でこうして人型をとって側に行くことが出来なかった。蒼の力を借りなきゃならなかったんだ。今、維月が居たら…。いつもそう思ってる。」

維心は、ため息をついた。

「我にはそれだけは分からぬの。女など、面倒で鬱陶しいとしか思うて見ておらぬ。特別な者など一人も居なかった。これからも、きっと我はあれらを娶ることはないだろう。そういった思いを知っておる、主が羨ましいというべきか。しかし我は、少なくとも忘れられぬと苦しむ材料はない。」

十六夜は、苦笑した。

「そうかもしれねぇ。お前にも、会わせてやりたかった。綺麗な男が好きなヤツだったから。きっと大騒ぎだったぞ。」

維心は、顔をしかめた。

「見た目のことか?よう分からぬが、我も主がそれほどに思うという女、見てみたかったの。」

「いつかお前が死んで黄泉へ行ったら、会えるかもな。その時は維月によろしく言っといてくれ。」

そうして、二人はそのまままた語らった。


十六夜は、めきめきと神世を学んで、王と言われても遜色ないほどの知識と、判断力を身に付けた。維心は、それを眩しげに見ていたが、ある日突然、まるでそれを待っていたかのように、老いが始まった。

臣下達は、維心の老いがあまりにも早く進むので、最後になんとしても妃をと言いたいが、とても無理なことだった。

もう、誰かと婚姻など考えられないほどに老いの速度は速かったのだ。

「我は、逝く。」維心は、十六夜に言った。「後の世、恐らく荒れるであろう。我は子を残さなかった。龍王の血筋が絶たれ、ここまで神世を力で押さえつけて来た龍族が衰退する。次に台頭するのは、炎嘉の子の炎翔が統べる鳥と、虎。世はこの二つが争うゆえに荒れるだろう。主が、何とか月として地を統べよ。それしか、戦国を避ける手立てはない。」

十六夜は、頷いた。

「オレが押さえる。今までお前がたった一人で背負って来たこと、オレが天上から見張って背負おう。だが、龍族だけを庇うわけにはいかない。分かるだろう…それをしたら、不公平になっちまう。」

維心は、もはや老いて皺だらけになった顔で、頷いた。

「分かっておるよ。主はあくまで公平に、地を押さえて統率せよ。」と、深く息を吐いた。「…時ぞ。あちらで、主の想う女に、主の想いを伝えよう。」

十六夜は、涙ぐんで頷いた。

「ああ。頼んだぞ。」

そうして、第五代龍王である維心は、世を去った。

そうして、太古から続いた龍王の血筋は絶たれ、世は龍王不在となったのだった。


龍族は、鳥と虎に侵攻され、様々な場へ逃れて散り散りになった。

鳥と虎は戦を繰り返し、それぞれに着く宮の王と大きな戦争に突入しようとしていた。しかし、そこへ十六夜が介入し、あっけなく炎翔と虎の王が滅しられ、戦は起こらなかった。

月の力により、世は押さえられることとなった。

鳥族は炎翔の弟を王へと据えた。虎も、その王の弟を王へと据え、月には絶対服従するということで皆殺しは免れた。

そうして、世は月の世となったのだった。



鏡が、真っ白になった。

維心と十六夜と蒼は、ハッと我に返った…これが、変わってしまった世。維月も蒼も人のまま死に、維心と十六夜が出会ったのは維月が死んだ50年も後だった。

「…これならば、我は十六夜を己の思うように育ったのを満足しておるだろう。主らの前に、姿を現すこともない。」

碧黎は、言った。これは、碧黎がまだ地で誰とも交流していなかった時に思い描いていた未来。地の王として君臨させている維心に、十六夜を育てさせ、そうして十六夜が育った後は維心を黄泉へと向かわせ、十六夜を次の地上の王として据える。思うようになったのなら、わざわざ皆の前に出て来ることもないからだ。

維心が、言った。

「龍族がバラバラになっておった…龍の宮が、廃れた様子になったのは、そのせいか。今は誰も居らぬ宮なのだ。」

蒼は、頷いた。これが、王をなくした宮の末路なのだ。維心にまだ妃が居ない頃、臣下達が妃を妃をとうるさかったのも、道理だった。龍王の血筋が絶えること、つまりは龍族の繁栄の終わりなのだ。

「月の宮も、無くなって当然でした。あの宮は、維心様がオレ達のために建ててくれた宮だったから。皆、消えて…。」

十六夜は、じっと黙って聞いている。碧黎が、十六夜の顔を覗き込んだ。

「十六夜?主、大丈夫か。」

十六夜は、我に返って頷いた。

「ああ…大丈夫だ。ようは、これを元へ戻すように頑張ればいいんだろう。本当の世じゃねぇ。」

蒼は、十六夜の肩に手を置いた。

「十六夜…母さんか。」

十六夜は、蒼を見た。

「維月が死んだ。あのままなら、ああなっていただろう。お前も死んだ…オレは、お前達を忘れられないまま、維心のように死ぬことも出来ず、世を守って行くしかねぇなんて。地獄だよ…本物の、地獄だ。あんなオレを、助けてやりたい。」

維心は、頷いた。

「ああ。我もああして、我が一族を失意のまま放って置くような、無責任な王でありたくない。黄泉で維月に会っておるのか…分からぬが、どうあってもこんな未来は納得できぬ。」

碧黎は、頷いた。

「では、更に遡ろうぞ。維月と蒼が、なぜに普通に人として死ぬ世になっておったのか。あれらの先に、何かあるのだ。我らの記憶と、違った場所を特定しよう。その時間に、恐らく炎託かあの男達が居るはずぞ。あやつらの干渉を、止めねばならぬ。」

十六夜は、碧黎を見た。

「干渉して、どうするつもりだったんだ?あいつの望みは、瑞姫を助ける事だったんじゃねぇのか。こんな風に、世を変えるなんて。」

碧黎は、首を振った。

「恐らくは、望む時間にたどり着けなんだのだ。そうして、そこで行動しておるうちに、何か未来が変わるようなことをして、未来が変わった。あやつらの望んだことではないはずぞ。それを、探さねばならぬ。我は少し集中する…主らに見せておっては、時をとって仕方がないからの。」と、自分の手を見た。「…時はあまりない。」

言われて碧黎の手を見ると、それはうっすらと実体を失っているようだった。慌てて皆、自分の腕を見ると、皆一様に透けて来ていた。

「どういうことだ?!意識を逃れさせたんじゃなかったのか!」

十六夜が言うと、碧黎は首を振った。

「あくまでこれは幻のようなもの。本当の我らは、今は元の次元に、今見た状態でそれを誠と生きている。つまりは、我らは存在しないもの。消えるのも時間の問題ぞ。」

維心も、自分の手を見つめながら言った。

「我など、黄泉にいるはずなのだ。消えて当然ぞ。」

蒼も、言った。

「オレもそうです。まして、人だったのに。」

碧黎は、目を閉じた。

「ではの。しばらく話し掛けるでないぞ。」

そうして、三人が見守る中碧黎は原因を探るべく集中し始めた。

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