怪しい子、かわいい子
題名でセンスのなさが露見しましたね、はい。
・・・ここは、小学校だ。山崎小学校。
ジャングルジム。そこに、よっかかるように死んでいる。
額からは大量に血がでている。
俺はむくりと起き上がりゆっくりと窓の外をみた。まだ日は上っていない。
俺は葵を起こさないよう部屋を出て、静かに静かに家をでた。山小は・・・ここから少しあるな。まぁいい。歩いて行こう。
学校の門を無理やり超えて敷地内に入る。校庭を見ると、夢の通り、ジャングルジムによっかかって死んでいる吉高がいた。近づいてみると血まみれで角がつぶれてボロボロになった教科書がそばに置いてあった。すこし離れた場所に吉高のバッグも置いてある。
某月某日。吉高が教科書の角で頭を殴られ死んでいた。
「起きろ吉高。」
いつもと同じように、吉高はゆっくりと目を開けた。
俺がたてる音ぐらいしか
「おはよう!いい朝だな!!」
「この光景でそれが言えるのはお前だけだ」
溜息をつきながら言った。
「ところで鎌地君。今日はどう感じた?昨日の会話を参考にしてみたのだが!」
「あぁ。忠実すぎる再現度に昨日の俺を殺したくなるぜ」
「はっはっは!そうだろうそうだろう!もっと褒めてもよいぞ!」
コイツの耳は本当におめでたいな。
「さっさと頭ふけよ。いつまで血垂らしてるつもりだ」
「お、そうだな!見つかる前に早く証拠を隠滅しないと!」
俺は吉高が掃除をしている間、吉高の死体の近くに会った教科書を拾ってみた。無残な姿の教科書の裏を見てみる。そこにはどう読んでも俺の名前が書かれていた。
「オイ、吉高この野郎。これ俺の教科書じゃねぇか」
「あぁ!昨日私に投げてきた教科書だぞ!」
「ちくしょう根にもってたのか」
「ははは!昨日の会話を再現したかっただけだ!」
「・・・いつ盗んだ」
「それを言ったら次盗めなくなるではないか!」
「次も盗むつもりかよ殺すぞ」
「本当か!!」
しまった。こいつにとっての殺すぞは最上級にもらって嬉しい言葉だった。
「鎌地君が殺してくれるならまたレパートリーが増えるな!いや!起こしてくれる人がいるのなら一日何回も死ねるのではないか!!」
「俺からしたら損しかねーよ」
明らかに異常な話をしながら俺と吉高はこの場を離れようとした。
その時、俺の服が裾から引っ張られた。
「あ?なんだよよした・・・」
ゆそう言いながら振り返ると、引っ張る手は吉高のものではなかった。
そこには、明らかにこの惨状に場違いな小学生ぐらいの少女の姿があった。
俺の服をつかむ小さな手、子供らしく高く透き通った声、フランス人形のように美しい金色の髪。それをロングヘアとツインテールを足したような髪型、緑色のビー玉のような瞳。白い無地のワンピースに、花の形をしたポーチ。まるで二次元から三次元にやってきたような少女だ。
五秒ほどのフリーズから俺達は声も出せぬまま目を合わせた。
「と、とりあえず話しかけてみろよ。」と目で訴えかけた。それが伝わったのか、吉高は「ははっ何キョドってるんだ頼りにならないな!」とでも言いたげに鼻で笑った。鼻で笑っただけでここまで伝えるとはアイツすごいな。
吉高は少女の背丈にあわせてしゃがみこんだ。
「こんにちはお嬢さん。お名前は?」
少女は不思議とおびえ様子は全くなく、年相応の高く透き通った声で言った。
「くうだよ」
「それは名前か?」
「うん。空っていうんだ。」
「小学生で間違いないよな?」
「小学四年生!」
無邪気に答える。この異常な光景を見て、この態度?
「私は吉高光輝。空ちゃんに質問があるのだがいいかな?」
「いいよ」
「いつからこの校庭に?」
空と名乗った少女はさらりと恐ろしい事を言った。
「お兄さんがここに侵入するところから」
吉高の笑顔が引きつった。
「割と最初からいるじゃねぇか。って大問題じゃねーか!こんないたいけな女の子に何て現場見せてるんだ俺達は!!」
「落ち着け!らしくないぞ鎌地君!」
取り乱す俺を諌め、吉高は再び少女に向き直った。
「怖い思いをさせて悪いな」
「ううん!大丈夫だよー」
少女は笑顔で答える。しかし、大丈夫なのか。最近の子は神経が図太いな。
「えっと空ちゃんは何をしにここに?」
そうだ。今の時刻は午前三時。こんな小学四年生ぐらいの小さな女の子が外出していい時間ではない。親が許可をだすとも思えないし、起きるのもキツイ時間帯だ。
しかし、少女は吉高の質問には答えなかった。
「へぇー不死の呪いかぁ珍しいね」
にこりと少女が笑った。背筋に寒気が走る。思わず一歩後ずさった。
この少女は普通じゃない。頭の中で注意報が鳴り響く。
「あぁ、怖がらないで。お姉さんもお兄さんも」
笑顔のままとてとてと近づいてきた。
「怖がるというか、お前の口からそのハリーポッターの題名みたいな言葉がでてきた事に驚いてるんだ。」
「お姉さんより君の方が食いつくとは思わなかったよ。」
少女はポシェットから受験生がもってそうなポケットサイズながら熱い本のようなものを取り出した。
「お姉さんその腕についているミサンガ。切れたことある?」
「?ミサンガは切れて願いがかなうまではとってはいけないものだろう?」
そう言って腕時計をみるようにミサンガをした腕をだした。色があせていてかなり前からしているものだと一目でわかる。
「じゃあ単純だよ!よかったね」
少女は無邪気に笑った。
「そのミサンガが切れればその呪いはとけるよ。」
吉高の細い目が二回り大きくなった。
「ミサンガに何を願ったか知らないけど、たまにあるんだ。願いが強すぎて呪いとなること。」
「呪い?何を言ってるんだこの子は」「それよりこの少女は何者だ?」思う事はたくさんあったが、実際俺目の前には数分前まで死んでいた女がいる。それと比べたら余程現実的に感じた。
俺は吉高をまっすぐ見つめて言った。
「吉高そのミサンガを斬るぞ」
「なななな、何を言ってるのだ鎌地君!!」
猫が人間から逃げるように、すごい勢いで俺から離れていった。
「よくわからないがそのミサンガを切ればお前は不死じゃなくなるんだろ?」
「そんなの嫌だ!絶対嫌だぞ!普通の体になるなんて嫌だ!!」
子供のようにわめく吉高を見て少女わけがわからないとでも言いたげな顔をした。
「呪いを解きたくないみたいだ」
「私は全く呪いだなんて思っていないぞ!確かに私のような趣味じゃなければ呪いにしか思えないかもしれないが、生憎私は死ぬのが趣味なのだ!」
5m程離れた場所から謎の変態宣言を行った。
「・・・え」
少女は呆気にとられた顔で吉高を見つけた。
「普通の体では感じることができない快感だからな!この体でよかったと思うよ!」
やけに興奮しながら吉高は語る。
「記憶が無くなるほど強い衝撃!!嫌な事全部ふっとぶぐらいの刺激!あのくらくらする感覚と激しい痛みがたまらないんだ!!」
少女は完全に引いている。いや、こんな趣味きいてひかない奴はいないだろう。実際、毎日のようにその趣味に付き合ってる俺だって改めて引いているからな。
「その辺にしとけバカ。トラウマになるぞ」
「はっ私としたことが自分の世界に入ってしまった!すまんな!」
「いや、びっくりしただけだから・・・」
少女はドン引きした顔のまま俺の方をむいた
「お、俺にそんな趣味はないからな!俺はこの呪い嫌いだぞ!毎朝コイツの死体見なくちゃいけねぇから」
失礼なとぶーたれる吉高は置いておいて、少女の誤解を解いておいた。
それにしてもあのミサンガか・・・あのミサンガが切れれば俺がこんな苦労することもない・・・?
いやしかし、この少女もっと大人の姿をしていたら少しは信じてはいたのだろうが、何せ相手は小学生ぐらいのどこか胡散臭い少女で「おつかいできるよ!」のノリで言っているのである。本当に信じていいのだろうか。
「待て、吉高の不死が呪いだというなら俺の毎朝吉高の死体を見る夢も呪いか?得方法はあるのか」
少女は俺をみて目をぱちくりさせた。
「君も呪いにかかっていたの?」
そういいながらもパラパラ漫画をめくるように手にもった本のページをめくった。とても読んでいるようには見えない
「予知夢?」
「いや、吉高が死んでる夢しかみたことない」
「えーどれだろなぁ」
もう一度本をパラパラとめくる。
「それいつから?」
「コイツに出会ってからだ」
「新種の呪い・・・?」
「待て!!そいつが私の夢を見れなくなったら私が困るな!」
吉高がやたら大きい声で割って入ってきた。
「私の死体を見つけて生き返らせてくれる人がいないじゃないか!いつのまにか殺人事件として扱われていたらどうするんだ!」
俺が怒鳴った瞬間。学校のすぐ隣の家からスパーンと思い切り窓が開く音がした。
「誰だぁ!!こんな時間にギャーギャー騒いでいるのは!!!!」
「しまった!逃げるぞ」
そう叫んで二人を確認する間もなく走りだした。後ろから走る音が聞こえる。ちゃんとついてきているのだろう。
「よし、時間も時間だ。私はこのまま家に帰る!」
「おぉ!」
学校から離れたらもう走る必要もないのだろうが、あの空とかいう謎の少女のおかげで長居していたようだ。・・・あの少女は・・・?
まずい!おいてきてしまった!!慌てて方向転換しようとすると
「置いてくなんてひどいよー!!」
そう叫びながら、先ほどの少女がものすごい速さで俺に追いついてきた。
「はぁー!!?」
思わず進行方向を元に戻し少女から逃げるように走り出した。
「何でにげるのー!?」
「うおぉ!!」
「そんなお化けみたみたいな顔しなくてもー」
あっという間に少女が並走してきた。並の速さじゃねぇ!
「えっと、空ちゃん?おうちに帰らなくていいのかな!?」
「気持ち悪いからちゃんつけないで!」
すごく切実にいわれた。こんなに小さい子から気持ち悪いといわれるのは中々心に突き刺さる。
「えっとじゃあ空」
「なれなれしいけど許す」
「突然辛辣になったなお前!」
「男の人には気を付けろって言われてるもん」
「そりゃあ随分教育が行き届いてるな」
「それに、空の事見捨てたから」
「さてはそれが本音だな!?」
「むしろ九割ぐらいはこっちかな!幼気な少女を見捨てて逃げるなんて男として最低だと思うんだ!」
「だってお前い幼気じゃないんだもん!」
「失礼な!360度どの角度から見てもかわいらしい小学生だよ!」
「見た目だけな!」
「言動だってかわいいよ?」
「自分の言動をかわいいと思ってる小学生いねーよ!さてはお前、かなり年齢詐欺してるだろ!」
「説明が早くて助かるよーそれが空の呪い」
丁度家の前につき足を止めた。
俺が息を乱しているのに対して、空は平然としている。
「・・・吉高や俺の呪いの前にお前の呪いを解いたらどうだ」
「そんなのとけてたら苦労しないよー」
「とけないのか」
「うん。っていうか、ここが君の家なら早く家に入らない?また近所迷惑になっちゃうよ」
「な、図々しいなお前」
そう言いながらも俺は静かに家の中に入った。
「頼むから静かにしてくれよ。弟と妹がいるんだ」
「うん!ってもう、無邪気を装う必要ないか」
なんかものすごく聞きたくない言葉が最後に聞こえたのだが。俺はリビングのソファーに空を座らせその向かい側に座った。
「随分と悪い待遇だね。ジュースぐらいだしたら?」
「本当に図々しいなお前。校庭での無邪気でミステリアスなキャラはどうした」
「なんかめんどくさくなった」
「やっぱり聞き間違いじゃないかったか。」
「だってそっちの方が警戒しないじゃん。」
「いや、正直あの時も警戒してた」
「えぇ!あんなかわいいかったのに!?」
「覚えておけ。いくらかわいくても死体を見て動じない小学生がいたら大抵の人は警戒する。」
「むー」
口をとがらせるそれもかわいこぶりっ子か
「っつーかよぉお前は何がしたかったんだよ」
「いやぁたまたま君たちを見かけたからねぇ、せっかくだから呪い解いてあげようと思って」
・・・胡散臭すぎるだろ
「自分の呪いもとけないのに他人の呪い解けるのかよ」
「解けるよ」
「じゃあさっさと解いて帰ってくれよ」
「それが人にもの頼む態度!?そんなんじゃ呪い解いてあげないんだからねーっ!!」
足をバタバタ上下させながら文句を言いだした。
「勝手にしろ」そう言いかけたが、ちょっと待て、落ち着け。この少女を逃したら一生この呪いとやらは解けないのかもしれない。これからも毎朝吉高の死体を見なくちゃいけないかもしれない。
悔しいが俺は言った。
「・・・何が望みだ」
にやり。いたずらが成功したような笑みをみせた空は。わざとらしくかんがえr
「うーん、2週間程君の家に住まわせてよ」
「はァ?おまえ、自分の親どうしたよ」
「子供扱いしないでよ。空は呪いでこの姿でいるだけだよ。元の姿に戻ったらピッチピッチのお姉さんなんだから!」
「説得力ねぇな」
そうはいいながらも確かにこのまま成長したら大層な美少女になることは良いに想像がつく。しかし、中身までこのままだったら嫌だなぁ・・・
「あの名探偵と同じだよ!頭脳は大人、体は子供!」
「いや、やたら子供っぽいところばっかり目立つんだが」
「本当は君なんかよりも全然大人だもん!吉高はともかく君のことお兄さんってよぶのすごく鳥肌たったよ!」
「うわっ忘れさりたい!正直お兄さんって呼ばれてキュンってきてたのに!」
「気持ち悪い!気持ち悪い!吐くほど気持ち悪い!死んだほうがいいほど気持ち悪い」
「気持ち悪い言い過ぎだ。」
「何なのロリコンなの」
「違う。どちらかというと妹萌えに近いな」
「気持ち悪い!吐き気、頭痛、悪寒、腹痛を催す程気持ち悪い」
「そんな具体的な症状が出てくるほどに気持ち悪かったか」
「何なの妹萌えだったのうわあ」
「安心しろ。本性をだしたお前には一切萌えない」
「本性を出す前は萌えたんだね気持ち悪い。」
「さっきはお前が不気味すぎて自分でもびっくりするほど萌えなかった。」
「吉高なんかよりも君の方が気持ち悪いよ。どうしよう、この家に泊めてもらうのやめようかな・・・」
「いや、俺はこの呪いを解いてもらわないと困る。いろ。」
「じゃあさっさと解いちゃおう!君の呪いは吉高の死体姿が夢にでることで間違いないね」
「あぁ。」
空はポシェットから先ほどの本をとりだした。
「一番近いのはこの呪いかな?」
「うん。その人がちょっとでも移っている写真を裏替えしにして枕の下にはさめばその人の夢はみないよ」
「そんな小学生のおまじないみたいなので解けるのか!?」
「なんなの!空の呪いにいちゃもんつける気!?これで解けたらずっとこの家に居座り続けてやるんだから!」
その時、思い切りドアが開いた。
「兄ちゃんうるさいー誰か女の子でも連れ込んでるのー」
眠たげながらもそう叫んで立つ葵の姿が入ってきた。葵が入ってきた。・・・あれ、よくよく考えたら、この口うるさい弟、最悪なタイミングで入ってきたんじゃ・・・