吉高光輝は今日も死んでる
残酷までは行かないと思いますが、少しだけ血の表現があります。
四月一日 吉高光輝が路地裏で首にナイフが刺さった状態で死んでいた。
俺の前で死んでいるクラスメイト、吉高光輝は絵にかいたような美人だ。
腰までまっすぐに伸びた長くて艶やかな黒い髪が特徴的でかなり整った顔立ち。
全体的に細身であまり焼けていない肌。
いかにもクールビューティーな外見だ。
外見はな。
俺は一つ溜息をついてから、眠ったようにブロック壁によっかかっている吉高に近づいて首に刺さっているナイフを抜いた。赤黒い液体がだらりと垂れる。
「吉高」
俺は少し乱暴に吉高を足蹴する。すると、ぴくりと長めのまつ毛が動いた。
「起きろ吉高」
一、二、三。
ぴったり三秒で、ゆっくりと黒曜石のような瞳が露わになっていった。
「・・・」
切れ長な目がしばらく宙をさまよってから、俺をとらえる。
無表情で瞬きをしてから、口角がにっと上がって、大きく息を吸う音がした。
「おはよう雪路君!!爽やかな朝だな!」
・・・いったい何軒先までこの大声は聞こえただろうか。周りの住民から見つかって困るのはお前だぞ。
「声デケぇよバカ。今何時だと思ってんだ。」
「あっはっは!相変わらず口が悪いな!」
吉高は何事もなかったかのように大口を開けて笑った。体中にはまだ血がべっとりとついている。
「今日も起こしてくれて感謝しているぞ!」
「あぁあぁ俺も毎日刺激的な朝にしてくれて感謝してる」
もちろん皮肉のつもりで言ったのだが、やはり吉高には伝わらない。
「雪路君が感謝をするなんて珍しいな!明日はもっと刺激的になるように頑張るぞ!」
「頑張らなくていい。毎日お前の死体を見つける俺の身にもなってみろ」
「いや、こちらだってお前のために頑張って色々なバリエーションを考えて死んでいるのだぞ!」
そういいながら隣にきた吉高の姿は、血だらけな制服を着ながらも体は無傷という奇妙なものだった。
「ありがた迷惑だ。あー生き返らせなければよかった」
「あっはっは!そういいながらも鎌地君は結局生き返らせてくれるからな!!」
「毎日胸糞悪い死体の夢みせられちゃ無視するわけにはいかねーだろ」
さっきまでのおとなしい吉高が恋しい。本当にうるさい。
俺と吉高のこの奇妙で異常な関係は、そろそろ二年目に突入する。
数分前まで確かに吉高は死んでいた。脈もないし心臓も止まっていた。
しかし、今、吉高は間違いなく生きている。血も全身に流れている呼吸もしている。
端的に言おう。吉高は死なない。
どんなに強く首をしめても、どんなに高いところから飛び降りても、どんなに苦しくても、どんなに痛くても死ぬことができないのだ。そんな体で生まれてしまったら、普通の人なら長生きができると喜ぶだろう。
しかし、吉高はやはり普通と違った。
なんせ彼女にとって死ぬことは苦痛ではない。死ぬことが趣味なのだ。死性愛。タナトファリアとか言うらしい。究極のマゾヒストとでも言うべきか。
理解できないって?俺だってできねーよ。
そして、奇妙な体質は吉高だけではない。
俺にも奇妙な体質があった。
夢を見るのだ。吉高の死ぬ夢。おかげで俺の朝は早いしこんな面倒臭い役を引き受けざるを得ないのだ。
「胸糞悪いとは失礼な!私は死体でも美人だろう!」
「自惚れんなナルシスト俺に死体を愛好する趣味はない」
「それもそうだな。死体を見て美しいなどと言う人に毎日来てもらうのは私だって気持ちが悪い。」
「へぇ、お前にも気持ち悪いとかあるんだな」
「その言い方だと私が気持ち悪いみたいじゃないか」
「そう言ってるんだ。」
「お前だけだぞ。私にそんな事いうの」
吉高が拗ねるが、それもそうだろう。学校の奴らは、ちょっとかわった美人ぐらいの認識だ。誰も吉高にこんな趣味があるとは思わないだろう。
「まぁこの行為が異常だという自覚はしているな!毛頭やめるつもりはないがな!」
「そこはそんなに自信満々に言う事でもないぞ。」
「変態性についても自信がある!君の兄妹にもひけをとらないつもりだ!」
「いや。ひけをとらないどころかお前の方がダントツでお前の方がおかしい」
「褒めるなよ照れるじゃないか」
「今の会話のどこで俺がお前を褒めた」
「鎌地君は照れ屋だなぁ」
「頼むから話を噛み合わせようぜ」
こいつの話のかみ合わなさは半端ない。ストレスがたまる。
さらにイラつくのはこの謎のポジティブ思考だ。いかにも無口な優等生みたいな外見をしているくせに中身はただのうるさいバカだからな。
「知っているぞ!なんやかんやで雪路君は明日も明後日も起こしに来てくれる!」
「うるせぇ」
そう言って吉高にげんこつをした。
「何をする!どうせやるなら撲殺してくれよ!!なんだその中途半端さは!!」
非難を受けるどころかダメ出しをされてしまったぞ。コイツ、もう色々と手遅れだな。
「そうだな、今度お前を殴るような事があったら英語のドリルにしとく」
「わざわざ一番薄いドリルを選ぶあたり、雪路君は人が悪いな!どうせだったら英和辞典にしてくれよ!」
「嫌に決まってるだろ。バカ」
「お前はやはりサドスティックの気があるな。」
「お前がマゾなのは確実だけどな」
「む、勘違いをしてはならんよ!私は死ぬのが趣味なのであって中途半端に痛めつけられるのは趣味ではない!殺すぐらい刺激的でないと痛めつけられた気がせんのだ!」
「勘違いも何も何一つとして理解ができない。」
「確かに不死でない人にこの快感を伝えるのは難しいな!雪路君は死んだことがないのか!?」
「あったら今ここにいねぇよ」
「ならまだ不死ではないと確定できないではないか!よかったら一度死んでみないか!心中はまだやったことがないからな!やってみたかったのだ!新しい扉が開けるかもしれないぞ!」
「やるわけねぇだろ。高確率で天国の扉が開くだろうが」
「そうか・・・やはり心中とやらを実現するには難しそうだな!」
「あぁ間違っても一般人をまきこむんじゃねぇぞ」
こんな異常な会話朝っぱらからするのもどうかと思う。
「はっはっは!殺人犯になるのを恐れているなら安心しろ!最近、ここら辺の地域では自殺者が多いからな!」
「笑いごとじゃねぇよ・・・」
俺は重い頭を抱えた。
「ふむ、私もストレスはためないようにせんとな」
「お前程ストレスと無縁に生きてきてるなら心配ねーよ。それにお前、毎日自殺してるだろうが」
「ははっもっと褒めてくれてもよいのだぞ!」
「あぁ、大丈夫だ。今のセリフを褒められてると思えるなら、お前にストレスはたまらない。」
「そうかそうか」
吉高は自慢げに笑った。
・・・正直、一番変態なのは、この笑顔を写真に納めたかったと後悔している俺なのかもしれない。・・・今日は、路地裏か
俺は頭をボリボリとかきながら家を出た。
初投稿でした。
何かとよろしくお願いいたします!
誤字脱字等あったら指摘してくれるとありがたいです。