序章 ≪ダブル・イレブン≫
だから私は遠くへ行くつもりだ
11月11日のその日。
それはなんの前触れもなく現れた。
国籍不明の未確認航空戦闘機が五機。
極寒の北極海より突然現れると沈黙を保ったまま瞬く間にユーラシア大陸の北岸へ侵入、対応の間に合わないロシア連邦の国境を抜けウクライナはチェルノブイリへと南下した。
常軌を逸したこの事態に完全に虚を突かれたロシア空軍の航空管制は直ちに緊急出撃を実行するものの国籍不明機五機も同時点ですでにチェルノブイリに到達。
さらに到達後なんの武力行使も行わないまま即座に東へ三機、西に二機へと展開してそのまま航行を続行した。
二手に別れた国籍不明機のうち、東へ向かった三機は再びロシア圏内に突入すると残りの原発群も経由し大陸を横断、オホーツク海を通過したところで一機が南下し日本の領空へと侵入した。
日本に侵入した不明機は青森の六ヶ所村、新潟柏崎原発、静岡の浜岡原発、福井の若狭湾上空を次々と通過、さらに広島、長崎の上空も通過して機首を変えると韓国、中国大陸の原発群も経由し南の空へと消えていった。
一方、オホーツク海からさらに東へ向かった残りの二機も同じく、日付変更線を越えて西海岸と東海岸から北米大陸を縦断、侵行方向上に位置する数々の原発上空を通過点に南下を継続。
それに呼応するかのように西へ向かった別の二機も西欧諸国、中東アジアから主要な原発上空を通過しつつ、双方ともアフリカ大陸と南米大陸の南端からそれぞれ外洋へ抜けて雲におおわれる南極大陸へとその姿を消していった。
あとを追う領空侵犯された国家たちの戦闘機は何もできないまま帰路につく。
圧倒的な敵の機動力の前に追撃することも出来ずに全機をそこでロストした。
世界は為す術もなく呆然となる。
たったものの数分の混乱劇。
唐突に始まった事件は一方的に終わりを告げた。後に残されたのは通常の戦闘機では説明できない機動力と錯綜する情報。
そして幾度としれない世界が終わっただろう原発がロックオンされた回数だけだった。
しかし事はそれだけに留まらなかった。
一週間後、世界は戦慄する。
国籍不明機の動力源について各国が一致した見解を発表した為だ。
国籍不明機が各国の上空を通過していったときに下界の人々が見た噴出ノズルから放たれる紫色の光。
それはある動力源の証明だった。
世界は答えを出す。
小型核融合炉搭載型の航空戦闘機。
さながら紫の尾をひく流星となって大国の空の殆んどを侵した侵犯機は、未だ何処の国も手に入れていない強力な科学技術を有していた。
航空機の型も他に類するものは無く全くの新型であることも判明する。
世界はおののく。
大国ではなくどこかの一組織が握っているかも知れない未知の核兵器の存在に。
そして一ヶ月後、世界は何かの始まりを予感する。
最後の舞台となった南極大陸の中央、その南極点付近の山岳地帯にて先の国籍不明機五機の残骸が発見される。
それも肝心の小型核融合炉は見事に取り除かれた状態で。
……しかもその内の一機には、同タイプと思われる戦闘機との戦闘の痕跡があった。