ニート16歳がVRMMOでネカマはじめました(仮)
勢いです。すべて勢いです。
現実の自分が、大嫌いだった。
特に目立つ点のない肩にかかるかかからないか程度の黒髪に、釣り気味のキツイ印象を与える猫目は片方が失明しており白濁としている。中学生の頃はオッドアイかっこいい!!オッドアイになってみたい!!なんて馬鹿げたことを考えていたが実際片方の目の色が変わったとしても良いことなんてなにもないし寧ろ好奇の視線で見られ煩わしいばかりだ。周りの視線や笑い声、円滑に進まない人間関係に嫌気がさした私は高校を中退し祝ニートになった。祝と呼べるものではないが。
そんな、自分が嫌いな私が逃避として走ったのが、オンラインゲームだった。とことんクズである。名前も顔も知らない、お互いのことを何もしらないプレイヤー同士で談笑しながらモンスターを倒したりレベルを上げたりする。連携プレイができたときの爽快感は計り知れないし何より私が恵まれていたのか知らないが優しい人ばかりだった。
そして私は今、新たなゲームに手をのばそうとしている。発売から一週間ほど立ちまだまだ熱がさめる様子は見せないVRMMORPGオンラインゲーム。VRシステムをゲームとして利用するのは世界で初の試みだったこともあり、全世界のゲーマー達を騒がせたこのゲームにVR専用ギアが私の手元にはあった。発売初日に手に入れれなかったのは不覚だったがまあそれはいい。一通りの操作方法や職業、スキルや種族なんて説明を読み終えゲームのインストールも完了した私はどきどきとした心境の中、VR専用ギアをセットした。ヘッドギア方ではなく、睡眠誘導型である。なのでギアをセットしてからベッドにダイブするだけだ。そしてセットし終わった後私はキャラの作成を始めた。まずはキャラメイクをし名前やとるスキル、職業、種族、性別などをPCで設定をしなければゲームを始めれないのだ。
カタカタという音をならして【堂沢】とキーボードに打ち込む。厨二的センスを発揮し誰もが振り向くようなかっこいい名前、それでいて特別感があって、ありふれたそこらへんにあるようなものではない名前を考えた結果何故かこうなってしまった。そしてキャラメイクだ。種族はどの動物になるかは始めるまでのおたのしみな獣人。職業はただの錬金術師。
後は細かいアバターの設定なわけだが元々イケメンになってモテたいという不純な理由でVRMMOを始めようと思ったわけだが、どうだろうか。きっとイケメンキャラなんぞいくらでもいるだろうし大量生産されているに違いない。折角誰も使わなそうな名前にしたといってもありきたりなイケメンじゃあ印象にも残らない。
そう考えた私は一寸も狂わない様微調整をしながら、私が思う理想のイケメンキャラをつくりはじめた。
一、ニ時間ほどだろうか。それぐらいたって漸く終わったキャラメイクだが、中々のものだと思うし私自身もゲームが始まってすらいないのに満足していた。そして取るスキルだが、あらかじめ決めていたもの10つにチェックをいれただけであっさりと終了した。
PCでのキャラメイクが完了した後、私はしわだらけのシーツの、少し汚れたベッドにダイブした。どんどんと意識が遠のいていく、早速睡眠誘導がはじまったようだ。
意識がまどろみに溶けていく中で、機械的な女性の声が聞こえた。
「ようこそ、Another World Online の世界へ。」
ー《Another World online》
通称【AWO】、それこそこのゲームの名称だった。基本的には一般のMMORPGとなんら変わりはないがグラフィックは群を抜いてリアルに、そして綺麗なので有名なコロニー社が手掛けたとのことだ。そしてやり込み要素も多く、初めにとるスキルやその成長のさせ方などが重要らしかった。予めそれを配慮したうえでキャラメイクをした私に死角はない。
チュートリアルは必要か、などといった質問にすべて「いいえ」で返答しひたすらスキップをした。チュートリアルがなくともほとんどのことは既に学習済みである。そうして機械的な女性の声が再び響く。
「それでは、引き続き Another World online の世界をお楽しみください。冒険者様に幸あらんことを」
その言葉の瞬間、はっきりと覚醒する意識に変わっていく景色。肌で体感できる風に目の前に広がる草原。現実ではないはずなのにやけにリアルなVRMMOの世界がそこにはあった。そしてなにより、私の体!現実とは違う骨ばっており筋肉質で引き締まった体に、バサバサとしたお世辞にも艶やかなんてほめ言葉は言えない程度の白銀の短髪。乾燥しカサついた肌。三白眼の目つきの悪い金色の瞳。顔の正面には大きな傷跡。そしてなんといっても顎に生えているなんともいえない濃さの髭。
正しく私の理想としている30代前半~30代後半の渋く頑固そうなイケジジイである!!
そして獣人という種族を選びどの動物になるかと嬉々としていたわけだがどうやら当たりといえるだろう、この尻尾にこの耳。そして口についている大きく鋭利な牙に指には長く尖った爪。おそらく虎だといえる。イケジジイの雰囲気にミスマッチしていて最高だ。
これから私、堂沢の夢のAWO生活がはじまろうとしていた。