少女
詩的なものとして読んでいただければと思います。
少女は笑いだした。
東の空はいつの間にか明るくなり始めている。
その空を見上げ、高く澄んだ声で少女は笑い続けた。
かつては華やかで上品だった服は血にまみれ、ナイフを握った右手は血に染まって皮膚の色が見えない。
床には黒ずんだ赤色の水たまりができていた。
それに浮かぶように、男の死体が一つ横たわっていた。
まだ温かい其れは舌をだらしなく垂らし、腹から大量の血を流し続ける。
「ほんとうに、人間って簡単に死んじゃうのね。」
少女は呟くように言った。
それは、目の前に転がる数分前までは主人だった男に話しかけているようでもあった。
「もう、こいつが私を怒鳴ることはないのね。」
少女は母のような微笑みで男を見る。
全てを許す聖母のような微笑み。
「私を殴ることも…蹴ることも…
そして、」
少女はそこで溜め息をひとつついた。
再び空を見上げる。
空はどこまでも蒼く、どこまでも広い。
少女の頬を涙が伝う。
少女は構わず雫を流し続けた。
そのうち嗚咽が混ざる。
雫は重力に逆らうことなく落ちて、赤い水たまりに波紋を次々に作った。
「パパもママも、こうやって死んだのね。」
少女はもう一度死体を睨んで、そして自分の血だらけの右手を見た。
そこに握られたナイフも。
「もう、終わりにしましょう?こんなゲーム。」
少女はナイフを高く掲げ、自分の喉を突いた。
不思議と痛みは感じなかった。
自分の喉から生暖かい液体が吹き出るのが解って、 視界は真っ赤に染まっていく。
少女は崩れた。
朝日が少女を照らす。
もう冷たくなった少女は、いつまでも微笑み続けていた。




