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誰も知らない本のあらすじのこと

 玄吾と夢月が乃木斗のいる小説の本棚に向かうと、乃木斗は本棚を見つめたまま立っていた。

「ノギ、どうしたんだ?」

 玄吾が声をかけると、乃木斗はゆっくりと玄吾の方を向き、頭を掻きながら言った。

「いやあ、そういえばゲンゴの読んだことない本って知らないと思って」

「最初に聞けよ、そういうことは」

 玄吾が軽く乃木斗の頭を叩くと、乃木斗は「うぎゃ」とわざとらしい声を挙げた。

「そういえば、玉口君って、どんなジャンルの本を読むの?」

 ぷにぷにとつつきあう玄吾と乃木斗に対し、夢月は言った。

「そうだなあ、なんでも読むけど、父さんの部屋にあったのが推理小説ばかりだったから、ほとんどが推理小説かな。あと、ファンタジー小説やSF、ラノベもよく読むよ」

「逆に、あんまり読まないのは?」

「そうだなあ、恋愛小説とかはあんまり読まないな」

「じゃあ、恋愛小説にしようよ。それなら、玉口君が読んだことがない可能性が高くなるじゃない?」

「ああ、なるほど」

 夢月の提案に従い、さっそく恋愛小説らしいタイトルを探してみる。

 有名どころだと、ドラマ化されていたり、インターネットで目に留まったりしている可能性があるので、できるだけあまり知らないようなタイトルを探すが、どうにも中学の図書室程度では、有名どころしか見つからない。

「あ、これなんかよさそうじゃない?」

 玄吾と乃木斗があれこれと探していると、夢月が一冊の本を出してきた。

「えっと、……『赤い月が照らす夜空』? これ恋愛小説なの?」

「うん。タイトルはちょっと怪しいけど、後ろちょっと読んだら、ちゃんとした恋愛小説だった」

「なんか、恋愛小説としてはあんまり売れそうじゃないタイトルだなぁ」

 そう言って玄吾はその本を手に取ろうとするが、夢月がひょいと頭の上に持ち上げた。

「ダメだよ、中見たら意味ないでしょ?」

「あ、ああ、そうだったね」

「じゃあ、席について始めようよ。王里君、これで実験するから」

 夢月はいまだに本を探している乃木斗にそういうと、荷物を置いていた机に向かった。その後を追うように、玄吾と乃木斗も同じ机に向かった。


 四人掛けの机の真ん中に、先ほど選んだ「赤い月が照らす夜空」というタイトルの本。その机に玄吾、向かい側に乃木斗と夢月が座った。

「さて、始めようか。玉口君、感想文のノートを」

 夢月が言うと、玄吾はかばんからノートを取り出し、白紙のページを開いた。

「しかし、読んでない本の感想文なんてかけるのかな」

「それを確かめるんだろ? とりあえずやってみようぜ」

 乃木斗がそういうと、玄吾は筆箱の中からシャーペンを取り出し、右手をノートの上に乗せた。

「……で、ここからどうすればいいんだ?」

「この本の表紙を見て、なんとなく書いていそうなことを書いていく、とか?」

「そんなことできるのかな。ひとまず、適当に書いてみようか」

 夢月のアドバイス通り、玄吾は「赤い月が照らす夜空」を左手に取り、表紙の絵とほんの少しの文字情報から、物語をイメージする。

 そして、そのイメージを、罫線だけの真っ白なノートに記していく。

「おお、すごいな。まるで今読んだみたいにすらすら出てきてる」

「いや、なんかイメージを適当に文章にしてるだけ、なんだけど、そのイメージがどんどん湧いてくるんだ」

「イメージが湧いてくるって、それ自分で話を作ってるってこと?」

「それに近いけど、考えるとか作るとかいうよりも、湧いてくるっていう感じかな」

 乃木斗に話しかけながらも、玄吾の手は止まらない。気が付けば、ノートのページ半分ほど、あらすじが書きあがっていた。

「玉口君、将来小説家になれるんじゃない?」

「読む方は好きだけど、書くのは苦手だよ。じゃなきゃ、読書感想文なんて宿題、最初にやり終わってるよ」

「その割には、どんどん話ができてるみたいだけど?」

「それが、自分でも不思議に思っているところなんだ」

 夢月に話しながら、玄吾は感想について考える。読んだことがない話なのだから、普通は感想なんて書けるはずがない。

 しかし、どういうわけか、自分が描いた話なのに、それに関しての感想文がどんどんと出来上がっていく。

 止まらない右手。乃木斗と夢月が目をぱちくりしている間に、ノート一ページ分の感想文が出来上がっていた。

「出来た。なんか、自分で話を作ってるみたいで面白いな」

「傍から見たら、小説のプロットか何か作ってるようにしか見えなかったけどな。とりあえず読ませてくれよ」

 乃木斗に催促され、玄吾は書き終わったノートを乃木斗に手渡した。そのノートを、乃木斗と夢月が間に置いて読み始めた。

 読み進めるうちに、徐々に二人の顔が真剣になっていく。クーラーが効いているというのに、玄吾の額に、何故か妙な汗が出てきた。

「なんか、本当に小説のプロットみたいにまとまってるよな。本当に読んだことないのか? この本」

「読んだことないよ。それに、中身読んでないんだから、本当に書いた通りの話とは限らないだろ」

 読書感想文を読んでいる乃木斗と夢月を後目に、玄吾は元となった「赤い月が照らす夜空」を手に取り、ページをめくった。

 出だしは、タイトルから予想されるような展開。これくらいなら、他の誰でも思いつくだろうというような、ありきたりな話だ。

 しかし、ページを進めるにつれて、玄吾のめくるスピードは上がっていく。そして、思わず椅子を引きずって音を立てながら立ち上がった。

「そんなバカな。完全に一致してる」

 その引きずった音と、うっかり玄吾が落とした本の音で、周りの視線が玄吾たちの机に向かう。

 夢月もその音に驚いて、感想文を読むのをやめた。しかし、乃木斗は別のことに驚いていて、それどころではなかった。

「やっぱりこの感想文、おかしいわ」

 乃木斗はそうつぶやくと、感想文の一部を指さして玄吾に見せた。


「お前、中身まったく知らないんだろ? だったら何で文体のことまで感想に書いてるんだよ」

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