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新しく買った本のこと

 夕食を終えると、玄吾はしばらくテレビゲームを楽しんで時間を潰した。

 しばらくはテレビ画面に向かっていたが、やがてそれも飽き、キリがよいところでデータセーブしてやめると、買ってきた本を取り出した。

 普段は机に座って手元の電気をつけて読むのだが、今日はベッドの上に寝転がって読むことにした。

 本を覆っている袋を破り、表紙に書かれていることを読む。

 そのままベッドに身を投げると、うつ伏せになって最初のページを開いた。

 読んでいる本、「森林浴旅行記」は、タイトルだけ見ればエッセイのようにも思えるが、実際にはファンタジー小説の部類に入る。

 常に澄んだ空気の場所にいる必要がある主人公が、様々な森へと旅に出て、そこで起こる事件に巻き込まれたり、住人達の頼まれごとを聞いたりして成長していく話である。

 何故この作品が評価されたのかはわからないが、若い世代には人気らしい。

「なんだか……ややこしい話だな」

 年が若いせいか、文体はそこまでよくはないが、引き込まれるストーリーで、ページをめくる手は進んでいく。

 ほとんどが主人公の成長を描いた話なのだが、トラブルに巻き込まれたときの対処、絶体絶命のピンチ、異種族との恋。ファンタジー要素と人間ドラマに、玄吾は引き込まれていた。

 しかし、半分ほど読んだところで、玄吾に睡魔が襲ってきた。何とか眠い目をこすって読み続けるが、気が付くと玄吾は意識を失ってベッドの上に倒れこんでしまった。


 玄吾が目を覚ますと、つけっぱなしの電灯の光が目に入り、思わず右手で光を遮った。

 壁掛け時計を見ると、時刻は午後十一時。うっかり寝てしまった、と重たい体を起こす。

 一度トイレに行って戻ってくると、玄吾は読んでいた本を手に取り、机に向かった。

「読書感想文……書くか」

 玄吾は読書感想文ノートを開き、隣に先ほどまで読んでいた「森林浴旅行記」を置いてシャーペンを手に取った。

 寝る前まで読んでいたせいか、やはりあらすじがすらすらと出てくる。そこまできちんと読んだつもりはなかったのだが、意外と頭では理解している物だな、と思いながら、玄吾は手を動かし続ける。

 感想もすぐに出てくる。頭の中で浮かぶ情景、その場面を思い浮かべた時の気持ち、考え。そういったものが、頭の思考からすぐに右手に伝わり文章化していく。

 そうして二十分ほど経った頃にはノート一ページにぎっしりと、「森林浴旅行記」一冊分の感想文が出来上がっていた。

「なんだかんだ言って、結局今日も書き上げてしまったな。これは読書感想文を書く才能があるのだろうか」

 そんな才能、何の役に立つのだろう、と玄吾は自分の書いた読書感想文を読み返した。

 別に読み返して何になる訳でもないが、すらすらと文章を書ける自分の才能に、少しだけ悦に浸りたいと感じていたのだ。

 しかし、途中まで読んで玄吾はとんでもないことに気が付いた。


「……この読書感想文、絶対おかしい」



 翌日の朝、少し早めに学校に到着した玄吾は、教科書類を机にしまうと、昨日書いた感想文を読み返した。

 何度読み返しても、同じ部分でおかしいと感じる。書いている時はそうでもなかったのに、一体何故自分がこういうことを書いたのかが分からない。

 何人かのクラスメイトが教室に入ってきた後、乃木斗と夢月が一緒に教室に入ってきた。しかし、玄吾はそれに気が付かない。

「おはようゲンゴ。今日は早いな」

 乃木斗が声をかけ、ようやく玄吾は顔を上げた。

「おはようノギ。伊本と一緒なんて珍しいな」

「登校途中に一緒になったのよ。王里君、途中まで同じ通学路だから」

 ふうん、と言いながら、玄吾の視線は再び自分のノートに向かった。

「あれ、ゲンゴ昨日も書いたのか? なんだかんだ言ってやる気だよな」

 乃木斗が玄吾の後ろから、ノートを覗き込みながら言う。

「やる気なんてないよ。ただ、この読書感想文、明らかに変なんだ」

「自分で書いておいてそれは無いだろ」

「いや、僕もそう思ったんだけどね。この読書感想文ってさ」

 一息入れて、玄吾は続けた。


「この本、途中までしか読んでないのに、一冊分のあらすじと感想が書かれてるんだ」 

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