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同一の読書感想文の正体のこと

 翌日、玄吾が学校に行くと、既に乃木斗と夢月が感想文ノートを開いて何か話をしていた。

「おはよう、ノギ、伊本。どうしたんだ?」

 玄吾がそう言いながら荷物を自分の机にしまっていると、乃木斗と夢月は「おはよう」と返した。

「なんかね、昨日玉口君が言ってたのが気になって、王里君と感想文を確認してたの」

「確認?」

「そう、同じあらすじの奴がないかなって。そしたら」

 夢月はそういうと、自分の感想文ノートと乃木斗の感想文ノートを見せ、あらすじの部分を指さした。

「そしたらほら、この日とこの日が一緒なの」

「どれどれ?」

 玄吾があらすじ部分に目を通すと、確かに同じ文章だった。

「でもこれって、連休を挟んでるからでしょ? それだったら、提出してない分があっても不思議じゃないじゃん」

「あ、そうか。そういえばそうね」

「ちょうど月曜日の分だし、そうだと思う」

 なるほど、と夢月は手をぽんと叩いて頷いた。

「それより、昨日感想文を書いててとんでもないことになったんだけど」

 そういうと、玄吾は机から自分の感想文ノートを取り出し、昨日書いたページを開いた。

「ほら、これとこれ」

 昨日書いたページを乃木斗と夢月に読ませた後、その前の一昨日書いたページを開いた。

「え、まったく一緒じゃない?」

「ゲンゴ、手を抜いたか?」

 一言一句まったく同じ文章が書かれていたことに驚いた乃木斗と夢月は、思わず大声を出してしまった。

「いや、いつもの通りに書いたんだけど、まったく同じ文章。伊本のと併せると、ノギは二日は書いてないことになる」

「つまり……どういうことだ?」

 乃木斗が玄吾に尋ねると、玄吾は感想文ノートを回収して机にしまった。

「とにかく、ノギは来週何か理由があって、クラスノートに日記が書けなくなる状態になるみたいだ。それまで、怪我とか病気とかに気を付けた方がいいと思うよ」

「そ、そうだな。とりあえず、来週は気を付けるよ」

 そういうと、乃木斗と夢月は自分の感想文ノートをしまい、クラスノートを元の持ち主に返した。


 放課後、いつものように三人は乃木斗の机に集まり、クラスノートに日記を書いていた。

 今回も、避けられそうなことがなく、日記に書くことも、感想文に書かれている内容くらいしか思い浮かばない。

 結局クラスノートの日記は普通通りに書くことになり、続いて感想文を書こうという時だった。

「今日書く分も、詳しく調べてみようよ」

「詳しくって?」

「もしかしたら、また同じ文章が出てくるかもしれないし、何か別のことが分かるかもしれない」

「あんまり期待できないけど、やってみる価値はあるかな」

 玄吾が感想文ノートを開くと、同じように乃木斗と夢月が感想文ノートを取り出す。そして、クラスノートをそれぞれローテーションで手渡した。

 今回は玄吾が夢月の、夢月が乃木斗の、乃木斗が玄吾のクラスノートの感想文を書くことになっている。

 お互い担当のクラスノートがいきわたると、それぞれシャーペンを身構えた。しばらくすると、三人ともシャーペンを持った手が動き、感想文ノートを文字で埋めていく。

 十分ほど書いたところで、まず玄吾が手を止めた。続いて、夢月と乃木斗も感想文を書き終える。

「よし、じゃあお互い回して読んでみようか」

 玄吾がそういうと、三人とも持っていた感想文ノートを隣へと回して読みあった。

 すると、夢月の感想文を読んでいた乃木斗が「あっ」と声をあげた。

「この前の分と今日の分、同じ感想文じゃないか」

 それを聞いて、玄吾と夢月は、ノートを確認する。確かに、二日前に書いたものと、今日書いたものがまったく同じだった。

「これ、ノギのクラスノートの感想文だよな。ってことは、もう三日はクラスノートを書かないことになる」

「そんな、一体どうすれば……」

 おどおどしている乃木斗の肩に、玄吾はゆっくりと右手を置いた。

「今悩んでもしょうがない。来週、その時がやってくればわかるって。それまでは、注意するしかないんだから」

「……そうか」

 まだ落ち着かない様子の乃木斗を「そうそう」と玄吾がなだめていると、残りの二冊の感想文を読んでいた夢月が「あっ」と声をあげた。

「王里君の感想文のあらすじ、私のと同じ」

 それを聞いて、玄吾と乃木斗が見ると、「ほら」と夢月があらすじの部分を指さした。

「これって、ゲンゴのクラスノートの奴だよな」

「……そうだな。となると、僕にも何かあるってことだな」

 そういうと、玄吾は自分のクラスノートと感想文ノートを手に取り、かばんにしまった。

「とにかく、ノギも僕も、お互い来週は気を付けよう、ってことだな」

「そうだな。今の時点じゃ、回避する方法がないからな」

「もしかしたら、今日から気を付けた方がいいかもしれない。それじゃあ、僕はこの辺で」

 そういうと、玄吾は荷物をまとめて教室から出ていった。


 それから数日が立ち、感想文上では乃木斗がクラスノートを書かなくなる前日になった。

 その日の放課後、玄吾たち三人は、同じようにクラスノートと感想文の記載を行っていた。

「……やっぱり、明日からずっと、ノギはクラスノートが書けないということになってるみたいだ。」

「そうだな。とりあえず、今日は気を付けて帰るわ」

 そう言って乃木斗が荷物をまとめた時だった。玄吾が急に、乃木斗の腕をつかんだ。

「いや、今日は一緒に帰ろう。何かあったら困るからな」

「そうだよ、私も王里君に何かあったら困るから」

 夢月も、荷物をまとめて乃木斗の手を取った。

「二人とも、ありがとう。じゃあ、お言葉に甘えようかな」

 乃木斗がそういうと、三人は一緒に教室を出た。


 早く落ちる夕日は、もう夏も終わりを示している。焼けるような暑さだった日々も、今は風が吹けば肌寒く感じるほどだ。

 玄吾たち三人は、いつかのように通学路を並んで歩いていた。

 しかし、そこに会話はなく、あるのは警戒心だけだった。

 住宅街に入る前にある小さな橋に差し掛かると、玄吾はその橋の下を流れる川を覗いた。

「それにしても、一体何があるんだろうな」

 決してきれいとは言えない小さな川の水面は、橋からかなりの高さのところにあった。おそらく、十数メートルはあるだろう。

「案外、何もないかもしれないぜ? ただ、クラスノートを書くのを忘れていたとか」

「それは一番ありえないって言うのはわかってるだろ」

「まあ、そうだけど」

 そういうと、乃木斗は橋を渡り切り、川と平行する土手の方に向かった。

 土手には落下防止のために、白いガードレールが取り付けられている。乃木斗は、制服が汚れるのも構わず、そのガードレールに寄り掛かった。

「おい、お前気を付けろよ」

「大丈夫だって、このくらいは……」

 乃木斗が言いかけた瞬間、ミシッ、と嫌な音が聞こえた。

「え、今の音って……」

「え?」

 乃木斗が異変を察知し、ガードレールから離れようとした瞬間だった。

 乃木斗が寄り掛かっていたガードレールが、突然根元から折れ、川の方へと倒れ込んだ。

 同時に、乃木斗の体も川へと引きずり込まれる。

「ノギ!」

「うわぁっ!」

 慌てて玄吾が駆け寄るが、乃木斗の体は宙へ浮き、数十メートル下の川へと落ちていく。

 水量はとても少なく、乃木斗の体は川岸の石に叩きつけられた。

 玄吾と夢月が川を覗くと、そこには頭から血を流している乃木斗の姿。

 夕暮れのサイレンとともに、あたりに玄吾と夢月の悲鳴が響き渡った。

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