変えられない未来のこと
玄吾たち三人以外は、もう教室に誰も残っていない。みんな、部活動に行ったり帰宅したりしていて、教室からは出てしまっている。
時々、廊下やグラウンドの方から声が聞こえる。しかし、教室内はそれらが気になるほどに静かだった。
「感想文に書いていること以外書けないって……」
書こうと思ったことを避けようとすると、それ以外の事柄が思い浮かばない。乃木斗は、わかっていながらもそれを認めたくなかった。
「いや、厳密にはそうじゃない」
そういうと、玄吾は自分のクラスノートを見せた。日記欄には、数行の文字が書かれている。
「感想文に書かれていること以外にも、書けると言えば書けるんだ。でも、全部の行が埋められない」
「えっと……、あ、本当だ」
夢月が今日の体育のことを書こうとすると、少しだけ手が進んだ。
「でも、どういうわけかうちのクラス、クラスノートの日記欄は全部の行埋めないと謎の宿題追加があるからな」
「そういうこと。つまり、これだけ書いても提出はできない。わざわざ宿題追加されてまで検証することでもなさそうだし」
「そうだな。うちの宿題、結構面倒だからな」
乃木斗が言うと、これ以上検証してもらちが明かない、と玄吾はクラスノートを閉じてかばんにしまった。
「もしかしたら、今日帰ってから明日学校に来るまでに、何か書けることが増えるかもしれないから、明日の朝早く来て書こうよ」
「その方がいいかもしれないわね。じゃあ、私今から友達と買い物行くから」
そういうと、夢月は荷物をまとめて「また明日ね」と言って教室から出て行った。
夕食後、玄吾は宿題を全て終えると、何とか今日の出来事を思い出して日記を書こうとした。
しかし、どうしても感想文に書いてあった、宿題のこと以外頭に思い浮かばない。
なんとか思い浮かんだことも、文章にできない。
「おかしいな、日記でこんなに考えたことなんてなかったのに」
大量の宿題をやり上げ、時刻はもう十二時になろうとしていた。
「明日学校に行って考えるのもな……。とりあえずメモ書き程度にノートに書いておくか」
その日は別のノートに書こうと思っていたことを書き留め、玄吾は眠りについた。
翌朝、玄吾はいつもより数十分早く家を出て教室に入った。当然ながら、誰もいない。
玄吾はクラスノートを取り出すと、何とか宿題のこと以外で書けないかをギリギリまで考えた。
しかし、思い浮かぶのは宿題のことばかり。他のことも文章にできない。
そうしている間に、乃木斗と夢月が教室に入ってきた。
「おはよう、玉口くん。今クラスノートやってるの?」
「おはよう。昨日の夜も考えたけど、全然できなかった」
「私も。制限があると、やっぱり書きづらいのよね」
夢月も自分の荷物を片付けると、クラスノートと感想文ノートを持って乃木斗の机にやってきた。
しばらくクラスノートを開いて日記を考えるが、三人とも文章が続かない。
「ああ、ダメだ。全然思いつかない」
「何でだろう、今まですぐに書けたのに」
三人だけだった教室にも、徐々にクラスメートたちが入ってくる。朝礼の時間は、どんどん近づいていた。
「とにかく、クラスノートが出せなければ元も子もないから、とりあえず今日の分は諦めよう」
「そうだな、これで変に宿題増やされても困るし」
仕方なく、玄吾たち三人はクラスノートに自分が思った日記を書くことにした。
シャーペンを持つと、さっきまで頭を悩ませていたのがウソのように、スラスラと文字が書かれていく。五分もしないうちに、日記の行数が埋まってしまった。
「あれ、やっぱり思ったこと書いたらすぐに書けた」
「本当、どうしてだろう?」
夢月と乃木斗が書き終わると、腕を組んで「何故?」と考え込み始めた。
「今は考えていても仕方ないよ。ところで、感想文はどうする?」
「あと十分あるし、書いておこうよ」
玄吾がそういうと、三人とも急いで感想文ノートを取り出し、ローテーションして感想文を書き始めた。
急いで書いたせいか、日記同様五分程度しかかかっていない。
「ふう、とりあえず今日のノルマは達成だな。残りはまた昼休みにでも」
「そうだな、なんとか感想文に書いてることは回避したいもんな」
「うん、これで嫌な未来が回避できれば、強力な武器になるしね」
そういって感想文ノートをしまおうとすると、朝礼よりも早いタイミングで担任の先生がやっていた。うるさくしゃべっていたクラスメートたちも、一斉に自分の席に戻り始めた。
朝礼開始を知らせるチャイムが鳴ると、今日の当番が号令をかけ、朝礼が始まる。
朝礼中、玄吾は自分で書いた感想文ノートをこっそり見ていた。今日は乃木斗のクラスノートの感想文だ。
その中から、気になっていたことを思い出した。
「このあらすじ、伊本が書いたのと同じな気がするんだけど、気のせいかな」




