予定された出来事を回避すること
午前中の授業は特に何も変わったことが起こらずに終わり、早くも昼休み。
玄吾たちは昨日と同じく、昼休みに屋上に集まり、感想文ノートに書かれていることについて話し合った。
「ノギ、お前書いていることは回避できそうか?」
玄吾が乃木斗に、感想文の一部を指差しながら言った。
「今のところは大丈夫だ。だが、午後が問題だな」
「あ、うん、確かに」
玄吾が指差している乃木斗のクラスノートの感想文には、「うっかり居眠りして怒られた」と言うようなことが書かれている。
今のところ、乃木斗が居眠りで怒られた様子はない。
「だが、俺には秘策がある」
「何だ、その秘策って」
「これだ」
そういうと、乃木斗はポケットからパック入りのコーヒー牛乳を取り出した。購買の自動販売機で売っているものだ。
「コーヒーを飲んでれば、午後の授業もばっちりだ」
「なるほど、しかしだなノギ」
玄吾は乃木斗の持っているパックを指差した。
「それ、砂糖が大量に入ってるやつだろ。砂糖が入ってるとかえって眠くなるとも言われてるぞ?」
「え、まじ?」
乃木斗が成分表示を見ると、砂糖類が随分前のほうに書かれている。
「あ、これって使用割合が多い順番に書かれてるんだっけ」
「うん。これ結構砂糖入ってるわね。あ、でも糖分多いと、脳に栄養がいきやすいから、かえっていいかもよ?」
「どっちなんだ結局」
はあ、とため息をつきながら、乃木斗はパックのコーヒー牛乳を飲み始めた。
「伊本のほうはどうなのさ。なんとかなりそう?」
「何とか回避は出来てるけど……どうかな、五限目の授業が……」
「英語の授業、ねえ」
夢月のクラスノートの感想文には、「授業に当てられて答えられない」ということが書かれていた。
「私、英語苦手だし、あの先生、しょっちゅう当ててくるから……」
「とりあえず、ひたすら予習しておこうよ」
「うん、やってみる」
「まずは単語かな。あとたまに習ってない文法のところも出るから……」
玄吾が自分の英語の教科書を取り出すと、先生が当ててきそうなところをチェックした。
「へぇ、玉口君って、もう単語の意味とか調べてるんだ」
「いやいや、調べておかないと分からないだろ」
「そ、そうね。私、いつも授業の直前に調べてるから」
夢月はそういいながら、言語の英語の教科書を見ながら、自分の英語の教科書に単語の意味を書き込んでいく。
「てか、何で教科書まで屋上に持って来てるのさ」
「そりゃそうさ。今日は感想文に書かれていることの確認なんだから、授業関連の教科書は持って来ておかないと」
「ああ、そうか。俺何も持って来てないんだけど」
「さっきのコーヒーは何なのさ」
「ここで飲むためにさっき買ってきたのさ」
「はぁ」
乃木斗は一気に残ったコーヒー牛乳を飲み終わると、空容器を握りつぶして荷物を抱えた。
「ともかく、あと午後の授業だけだから、回避は余裕だろう。んじゃ、先に行ってるわ」
そういうと、乃木斗はさっさと屋上の入り口から出て行ってしまった。
「はぁ、まったくマイペースな奴だな。伊本も、そろそろ戻って予習しておいたほうがいいんじゃないかな」
「うん。とりあえず玉口君のノートは写させてもらったから、これでばっちりよ」
夢月はそういうと、自慢げに書き込んだ英語の教科書を広げた。
「……二人とも、大丈夫なのだろうか?」
入り口に向かう夢月を身ながら、玄吾はため息をついて後を追った。
放課後、三人はいつもの通りに集まり、クラスノートの日記を書くことにした。
しかし、その前に今日書かれることについて回避されたかの反省会が行われた。
「……で、結局後ろからはいびきが聞こえたわけだが?」
玄吾が乃木斗に問いかけると、玄吾は舌を出しててへっと笑った。
「いやあ、あんなにも睡魔が強烈だとは思わなかったわ。四限目の体育のあとの五限目は魔の時間帯だわ」
「コーヒー牛乳の成果、無かったわね」
「ま、まあ、ゲンゴの言うとおりだったのかもな」
乃木斗は結局五限目の授業で居眠りしてしまい、先生からたたき起こされてしまった。
「ムツキだって、人のこと言えないだろ?」
「な、私は王里君みたいな恥ずかしいことはしてないわよ!」
「でも、英語の授業、答えられなかったじゃん」
「うぅ、それは……」
夢月も、英語の授業中当てられても答える、という目標は達成できなかった。予習した範囲からはずれ、予想もしなかったところを当てられたためだ。
「あんなの、想定してなかったし、無理だって」
「まあ、俺でも無理だったろうな」
「そもそも大里君、寝てたしね」
「え、その話はまあ置いといて……」
乃木斗と夢月のやり取りに、玄吾はやれやれとため息をついた。
「そういえば、ゲンゴのほうはどうなのさ?」
「ああ、しかしこれはどうも回避できないよ。だって今日宿題多いんだもの」
「これに関しては回避不能……か」
「多分。僕達が動いてもどうしようもないものは、回避しようとしても無理なんじゃないかな」
「うむむ、なかなかやっかいだなコイツ」
乃木斗はそういうと、感想文ノートを開いて机に投げ出した。
「だったらさあ」
突然、夢月がクラスノートを開いて口を挟んだ。
「感想文に書かれていることを、クラスノートに書かなきゃいいんじゃない? そうすれば、一応感想文の予言は外れることになるし」
「なるほど。じゃあ、クラスノートには別のことを書くようにしよう」
玄吾たちは早速、いつも通り返却されたクラスノートに、今日の出来事を書きこもうとした。
いつも通りに書くのだが、今日は感想文に書かれている事柄を避けて書こうと頭をひねる。
しかし、玄吾も乃木斗も、そして夢月も手が動かない。
「……おかしいな、普段ならスラスラかけるのに」
「まさか」
乃木斗と夢月が動かないシャーペンを置くと、静かに玄吾の顔を見た。
「感想文に書かれていること以外は、書けなくなっているんじゃない?」




