未来を予測する感想文のこと
始業式が始まってもう二週間が経つ。夏休みの雰囲気は払しょくされ、実力テストが終わって本格的に学校の授業が始まる時期となった。
教室に向かい、その扉を開ける。もうすっかりおなじみの光景が、玄吾の目の前に広がる。
早く登校した何人かのクラスメイト、そして玄吾の机の後ろに座っている、乃木斗の姿。ノートのようなものを広げ、何か書いている。
「おはようノギ。今日も早いな」
「おはようゲンゴ。まあ、毎日のことだからな。早く来て宿題できるし」
「家でやれよ」
いつも通りのやり取りの後、玄吾は教科書類を机に片付け、かばんをロッカーにしまった。
「そうだ、昨日未来が予知できたら面白いって言ってたよな」
「ああ、そうだけど」
「できるかもしれない」
「へ?」
そういうと、玄吾は毎日提出しているクラスノートを出した。毎日の日課表や、持ち物を記録するノートである。
「いつも使ってるクラスノート。これの毎日の記録欄を使えばいいのさ」
玄吾はクラスノートの、日課を書くスペースの下の部分を指さした。ここは、毎日起こったことを書き記す、日記のようなものを書くスペースとなっている。
「ここを使うんだよ」
「日記を? でも、自分で後から書く分は読書感想文に反映されないんだぞ?」
「だから、お互いにお互いの感想文を書くのさ」
「え?」
「つまり」
そういうと、玄吾は乃木斗の机の上に合ったクラスノートを手に取り、自分のノートを乃木斗の方に置いた。
「僕がノギのクラスノートの感想文を書いて、ノギが僕のクラスノートの感想文を書く。そうしたら、お互いの未来が予測できるんじゃないか?」
「おお、なるほど」
「何日分まで書きこんだのが有効なのか考えてたら、ふと思いついたんだ。これなら、検証も同時にできるじゃん」
「なるほど、さっそく今日からやってみようか」
そうして読書感想文ノートを開こうとしたとき、夢月が「おはよう」と言ってこっちにやってきた。
「あ、また二人で面白そうなことしてる。ずるい!」
「ずるいって言われても」
「私も混ぜてよ」
夢月が乃木斗の机に両手を載せると、その上に乗っているものをじっと見つめた。
「クラスノート? しかも自分のじゃないじゃん」
「うん、お互いのクラスノートの感想文を書くんだ」
「お互いの? どうして?」
「実は、今書いてる感想文って、後で書かれることも、反映されるんだ。ただし自分で書く文章は反映されないけど」
「ああ、それで交換して書いているわけね」
ふぅん、と夢月は二人のノートを見つめる。
「じゃあ私も入れてよ。三人の方が面白いでしょ?」
そういうと、夢月も自分のクラスノートを取りに行った。
しばらくして、戻ってきた夢月は、乃木斗の机に自分の感想文ノートとクラスノートを置いた。
「……で、これをどうするんだ?」
「うんと、そうねえ」
夢月はうーん、と少し考えたが、不意に玄吾の前にあるノートと自分のノートを入れ替えた。
「よし、これでお互いのクラスノートの感想文を書こうよ」
「三人でローテーションするの?」
「うん、そういうこと。あ、でも、出来れば二人とものクラスノートの感想書きたいから、交代でやらない?」
「そっちの方が面白いかもな」
じゃあ早速、と三人がシャーペンを手にしたところで、朝礼のチャイムが鳴ってしまった。
「あ、しまった、これ提出しないといけないんだった」
慌てて三人は自分のクラスノートを手にし、席に戻った。
放課後、返却されたクラスノートに自分で今日の出来事を書いた後、帰り前に三人でノートを交換しあった。
玄吾は乃木斗の、乃木斗は夢月の、夢月は玄吾のクラスノートをそれぞれ持って、家に帰る。
学校でやってもいいのだが、夢月と乃木斗が用事があるらしく、今日のところは家に帰って書くことにした。
玄吾は夢月のクラスノートの中が気になったが、あんまりじっくりと読むのもどうかと思い、とりあえず一旦家に帰ることにした。
家の玄関には鍵がかかっており、まだ誰も帰ってきていないようだ。
いつも通りの鍵の置き場所から鍵を取り出し、鍵を開ける。誰も居ない家に「ただいま」と一言声をかけると、すぐさま自分の部屋に向かった。
制服を着替え、かばんから感想文ノートと夢月のクラスノートを取り出す。
白紙のページをめくると、筆箱からシャーペンを取り出して構えた。
一瞬、夢月のクラスノートのページをめくろうとしたが、何故か良心がそれを拒んだ。どちらにしろ中身はわかるものだし、二人も中身くらい見ているのだろうが、どうも中を見る気が起きない。
シャーペンを白紙のページに乗せると、夢月のクラスノートの中身がイメージされる。その瞬間、ノートにスラスラと感想文が書かれ始めた。
書いている間、玄吾は特に対象に関して考えるようなことはしない。頭に浮かんできたことをスラスラとノートに書くだけだ。
十分ほどすると、ノート一ページに感想文が出来上がった。
「あんまり、女の子の日記を読むのは気が進まないけど……」
そうつぶやきながら、玄吾は出来上がった感想文を読み返す。
一学期分の日記はかなりの量があり、何十日分かは端折られていた。
「やっぱり、女の子の日記って、結構長いんだな」
玄吾は、その感想文で一番気になっていたこと、つまり何日の日記の分まで書かれているかを、あらすじから読み取った。
そこから察するに、一週間後に書かれることまでは感想文に反映されるらしい。
「なるほど、これを使えば、少なくとも一週間先の未来までは……」
静かにノートを閉じると、玄関からドアを開ける音がした。多分母親が帰ってきたのだろう。
クラスノートと感想文ノートをかばんにしまうと、玄吾は今日の宿題を始めた。




