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彼女に渡した感想文のこと

 放課後、玄吾と乃木斗は二人だけで下校した。夢月は用事があるらしい。

 夕焼けに近い空の下を男二人が歩く光景は、何とも哀愁が漂う。

「なんかムツキ、様子がおかしくなかったか?」

 乃木斗はゆっくりと歩きながら玄吾に言った。

「やっぱりあの感想文のせいかな。ノギ、何て書いたんだ?」

「え、あのラブレターの感想文? えっと……」

 乃木斗はうーん、と声を出すと、

「やっぱりこういうラブレター貰うとうれしい、とか」

 と続けた。

「だって、結構きれいな文字だったし、なんかこう、好きだって気持ちが伝わってくるから、こんなの貰ったらOK出しちゃうよねって」

「ああ、ノギはそうなんだ」

 玄吾はふぅん、と言いながら空を見上げた。

「僕は、そうでもないかなぁ」

「え?」

「だって、あの文面から見たら、相手が誰なのかわからないし、自分の知らない人だったらなんか怖いなあって思うよ。だから、いきなり付き合うのはまずいと思って、友達からならいいっていう感想になったな」

「なんだよ、そのモテてる男の余裕みたいな感じは」

 乃木斗ははぁ、とため息をつきながら言った。既に下校中の生徒が何人か、玄吾たちを追い抜いて行った。

「んなこと言って、相手がすごいストーカーとかめちゃくちゃ性格ブスだったら嫌じゃね?」

「ま、まあそれはそうだけど、彼女がいないのにせっかくのチャンスを逃すのはどうなのさ」

「そりゃまあ、いい子だったらいいけど……」

「文字見る限りはかわいい子じゃない?」

「あれくらいの文字、今どきの女子ならだれでも書けるぞ?」

 玄吾はそこまで言って、ふと今までに感じていなかった違和感を感じた。

「そういえば、ノギってやたら文字のこと言ってるけど、何でさ?」

「フッ、甘いなゲンゴ。手紙と言うのは、書いている文章だけを読むんじゃなくて、書いてある文字一つ一つやそれに込められた気持ちを読むものだぜ」

「いや、そうじゃなくて、今まで文字のことなんて気にしていなかったじゃないか。実際読んだわけじゃないから、どんな字だとかわからないと思ってたんだけど……」

 そこまで聞いて、あっ、と乃木斗が声を挙げた。

「そういえば、何で文字のイメージまで残ってるんだろう。今まで印刷された文字だから気にも留めてなかったけど」

「……つまり、言葉として認識するんじゃなくて、イメージとして認識しているってことなのかな」

「かもしれないな。ってことは、絵とか楽譜とか、文字じゃなくても感想文を書けるんじゃない?」

「どうだろう。それで何に使えるかわからないけどな」

 住宅街の交差点に差し掛かると、生ぬるい風が吹き込んでくる。それでも、体感温度からすれば十分に心地よい風となった。

「まあ、何かに使えるんじゃないか? 絵の感想とか書くのに」

「まあ……どうなのかね」

「とりあえず、知っておいて損はないだろ。何の役に立つかわからないし」

「まあそうだな。どのくらいまで感想文に反映されるかわからないし、範囲が広い方がいろいろと使えるしね」

 そんなことを話しているうちに、気が付けば帰り道の分岐点にさしかかっていた。

「じゃあ、また明日。新しい使い方でも思いつけばいいけどな」

「新しい使い方、か。未来を予測するとか?」

「そんなことができたら面白いけどな」

 乃木斗が手を振りながら玄吾とは反対の道に行くと、玄吾も手を振って返した。


 夕日が沈み始める空を見ながら、玄吾は乃木斗の言っていたことを振り返っていた。

「未来を予知する、ねえ」

 時々通る車や自転車とすれ違い、住宅街からは少しずつ良いにおいが漂ってくる。

 そんな中、玄吾は読書感想文について、今までできていたことをまとめてみた。

 読書感想文を書く際、対象が近くになければ感想文が思い浮かばない。ただ、どこまでの距離ならば可能なのかは、検証してみないとわからない。

 今までは適当に選んだ本を近くに置いて対象にしていたから、もしかしたら、タイトルや表紙、書こうと思っているものをイメージするだけで、感想文が出てくるのかもしれない。

 次に、対象となるものは、中を読んだことがなくても感想文を書くことができる。これは、何度も試した通りだ。

 また、文字であれば、本でなくても手紙や教科書でも感想文を書くことができる。さらに、読んだことが無くても、文字ではなくイメージでとらえることができる。ただ、これに関してはかなりあいまいで、絵や楽譜、マンガなどであればどのように適応されるかはわからない。

 そして、対象には、既に書いてあることはもちろん、自分以外の人がこれから書くことに関して、数日以内の事柄であれば感想文が書かれる。

 これも、何日まで有効なのかはわからない。一か月先に書かれるものでも有効なのか、一週間以内でなければダメなのか、検証しなければいけない。

「まだわからないことが多いな、この読書感想文を書く力って言うのも」

 使い道も考えたいものの、まずは検証するのが先だ。そう思い、まずは検証方法を考えてみた。

 他の人が書くことなら、後から追記される分の読書感想文も書かれる。ここら辺から検証したいが、なかなか他人が追記するものというのが思い当たらない。

「自分の日記の読書感想文書いてもなあ、自分が後から書く分は反映されないし……あっ」

 家の玄関前に到着した瞬間、玄吾はあることに気が付いた。

「そうか、こうすればいいのか」

 玄吾は慌てて家に入ると、すぐさま自分の部屋にこもった。

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