とある人のラブレターの感想のこと
次の月曜日の朝、玄吾が教室に入ると、乃木斗が自分の机で何かしているのが見えた。
教科書のようなものを隣に置き、シャーペンで白紙に何か書いている。
「おはよう、ノギ。何してるんだ?」
「ああ、おはよう、ゲンゴ。今、ワークブックの感想文を書いてたんだ」
「ワークブック?」
玄吾が尋ねると、乃木斗は「これ」と机に置いていた教科書のようなものを指さした。そこにあったのは、宿題で使う国語のワークブックだった。
「感想文に答えでも書いてくれてたら、宿題楽になるかなと思ったんだけど、そううまくは行かなかった」
「そりゃそうだろ。で、どうなったんだ?」
「ひとつ面白いことが分かった」
そういうと、乃木斗は玄吾に先ほど何か書いた紙を見せた。
「感想を書こうとする本について、自分がこれから書こうとすることについては何も書かれない」
「ん、どういうことだ?」
「例えばこのワークブック、直接書き込むようになってるし、宿題もこれに書きこんで提出してるじゃん?」
「ああ、そうだな」
「今後もこのワークブック使うだろうし、書きこんで提出するはずなのだけど、それについての感想文は何も書かれていない」
「それはだって、今書かれてることについての感想文なんだから、後から書かれることなんてわかるはずないだろう」
「ところが、だ」
そういうと、乃木斗は紙に書いてある文字の真ん中あたりを指さした。
「次の日提出分の、採点のところは感想が書いてある。つまり、自分が書くこと以外なら、数日後に書かれる出来事についても感想文が書かれるわけさ」
乃木斗が指さしているところを玄吾が見ると、「この問題は正しかった」や「この問題は引っかけだった」など、今までやってない範囲のところの採点後の感想が書かれていた。
「なるほどね。上手く使えば、テストの問題も、自分がどこが正しくてどこが間違っているか、程度ならわかるかもしれない……ってことか」
「そういうことだ」
「でも、よく考えたらあまり意味なくないか? 間違っているところだけ注意して書いても、それが間違っている可能性もあるし、そもそも間違えた答えが分からないじゃないか」
「あ、そうか。結局テストじゃ使えなさそうだな」
はぁ、というため息とともに、乃木斗はワークブックを机にしまった。
と同時に、教室の入り口から「おはよー」という、夢月の声が聞こえてきた。夢月は荷物を片付けると、すぐさま玄吾たちの元にやってきた。
「ねえねえ、玉口君に王里君、ちょっと試したいことがあるんだけど?」
「試したいこと?」
一体何だろうと玄吾が夢月の手元を見ていると、夢月は胸ポケットから一つの封筒を取り出した。
横開きの、写真が入っていそうな白い封筒である。両面には何も書かれていない。
「これ、とある人から預かったラブレターなんだけど、これを渡して男の子がどう思うかっていうのを聞いてみたいの」
そういうと、夢月は白い封筒を玄吾に手渡した。
「いやしかし、勝手に読んでもいいのか?」
「大丈夫、中身は見ないって約束で借りてきたから」
「それじゃあ意味ないんじゃあ……」
玄吾が言い終わらないうちに、夢月は「まあまあ」と玄吾を椅子に座らせた。
「だから、見ないで書いてみるのよ。ラブレターの読書感想文」
「ああ、なるほど、読書感想文か……って、それって読んでるのと変わらないよな」
「大丈夫だよ、封筒開いてるかどうかで、中身読んだかどうかわかるじゃない」
たしかに、封筒は裏側からしっかりと糊付けされている。もし開封したら一発でばれるだろう。
「ほら、開けなくても中身、わかるでしょ? 私も一回試したから大丈夫」
「試したんなら、別に僕たちでやらなくてもいいんじゃない?」
「男の子の感想が聞きたいのよ。これができるのは玉口君と王里君だけなんだから」
そういうと、夢月は「はい、これに書いて」とA4サイズの白紙を、玄吾と乃木斗に一枚ずつ配った。
「ったく、なんてことやらせるのさ」
「まあまあ、おもしろそうじゃないか。どこまで読書感想文が書けるか、テストにもなるし」
「んなこと言ってもなぁ……」
玄吾がそう言いかけた瞬間、朝礼のチャイムが鳴った。
「仕方ない、昼休みにでもするか」
「それじゃ、お願いね」
そういうと、夢月は自分の席に戻った。
四限目が終わり、玄吾は弁当とラブレターを取り出すと、夢月がすぐさまやってきた。
「あ、今から始めるの?」
「え、うん」
玄吾と乃木斗がシャーペンを持って白紙の前に構えると、それぞれの手が動き、白紙に文字を書き始めた。
頭に思い浮かぶ、ラブレターに書かれている文字、込められた思い。それらが、白紙を徐々に埋め尽くしていく。
数分後、玄吾と乃木斗に渡した白紙は、半分ほど文字で埋められていた
「とりあえず出来た。しかし、なんだか結局開けて全部読んだ気分になったんだけど」
「同じく。まだドキドキが止まらないわ」
玄吾と乃木斗はそう言いながら、感想文を書いた紙を夢月に渡した。
「わあ、ありがとう。どれどれ、えっと、やっぱり最初は同じね。それから……」
夢月は二人の感想文を見比べながら、途中でふむふむ、と首を動かす。
しばらくすると、読んでいた夢月が急に黙り込んでしまった。
「……そっか、そうなんだね」
聞こえるか聞こえないかの声でそうつぶやくと、夢月は手に取った二枚の紙を折りたたんでポケットにしまった。
「じゃあ、これラブレター書いた女の子に渡して来るね」
「え、ちょっと」
玄吾が止める前に、夢月は教室から出て行ってしまった。
「ムツキの奴、どうしたんだ?」
「さあ、何か変なことでも書いてたか? そんな覚えは無いんだけど」
夢月に何があったのかわからないまま、玄吾と乃木斗は出していた弁当を開いた。




