二話 自宅
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お昼を食べたら、どこかへ出かけてもよかったのだが家に帰ることにした。
別にどこにも用なんてなかったし、どこに行くのも面倒だった。
「ただいまー。」
祖父は大方書斎に篭っていることが多いので返事がなくても気にしない。祖母は今日買い物に出かけると言っていたからまだ家には帰っていないのだろう。
自分の部屋に戻る前にちらっと書斎を確認したら祖父の背中が見えた。
「おじいちゃん。私帰ったよ。」
頷いた頭を見て私も部屋に篭る。私は家にいるときはこうして大抵は自分の部屋にいる。
昔母の部屋だったというこの部屋には、私が初めてやってきたときには、ベッドと机が無造作に置いてある以外には母を思い起こさせるような品物はまったく何も置かれていなかった。
祖父母は私に良くしてくれる。そこに本棚を買ってくれて、おこずかいを欠かさずくれて、次第に本だの雑誌だのが増えて私の空間が出来上がった。
そしてそこに去年のクリスマスにはめったに連絡をよこさない母から、プレゼントが届いた。
少し大き目の段ボールからでてきたのはノートパソコンで、使い方が分からないではなかったけれど、初めの初期設定だの説明書だのにうんざりして放っておいた。
使えれば便利だろうと思ったけれど、自分はこういった機械に疎いところがあるから、数ヶ月くらいなんとなく電源を付けたり消したりを繰り返して、詳しい同級生に頼るまではほとんど役立てられなかったのはもったいなかった。
インターネットを引いてメールを設定し、ふらりと電話を寄こした母にアドレスを教えて。それから母親とは月に数回メールのやり取りをしている。
自分の部屋は物が多い方なのか、どうなのかはよく分からない。
小さい頃ならともかく最近見た部屋といえばオオカミの部屋くらいだから、比較対象があまりにも少なすぎる。だが、しいて言うならばオオカミの部屋よりは私の部屋は物が少ない。
ともかく自分は何がいいたいのか?良くわからないけれど。
現状の私は棚に無造作に詰め込んである文庫本とか、そろそろ捨てようと思っている雑誌の束とか、お土産の小物とか、母からもらったパソコンとかそういうもので出来ている気がする。
今後のことはわからない。どこでどうやって自分は生きてゆくのか。想像がつくようで、つかないそんなことを考えるのは非常に辛いことだ。
―――取りあえず今の自分の足場を見てみて、自分がどんな場所に立っているのか確認してみる。だが安心するようで不満に思うのだ、これが。