4―話題にされてました
今回主人公の美羽ちゃんは出番はありません。
今回はまた新しい人物が登場します。
大きな机に向かって背を丸めて書類の束と格闘している男性の姿が見える。男性はすごく整った容貌をしており若いご令嬢達が見たら見惚れて動けなくなるだろう。しかし手入れが行き届いており、女性が嫉妬してしまうほどサラサラの金髪がなぜかインクにまみれている部分が見られる。
たぶん美羽がこの光景を見たなら「キャー、キャーここにもイケメンがいるっ。なんだか有名な絵画を見ているみたいだよ。あーあカメラがあれば写真が撮りたい」と騒いでいただろう。
カリカリカリ、トントン、バサッ
カサカサ、ゴリゴリ、バサ
「はぁ、片づけてもこの書類の束は一向に減る感じがしないな。まったく政務が進むように分担して行っているはずの我が皇国の大臣のほとんどは余の妃候補の選出やいかに賄賂を徴収するかで頭がいっぱいらしいな。このままでは本来の余の業務にも支障が出てくるな。まったく奴等は頭が腐っていて話すのも嫌だがそろそろ王宮に居る膿を一気に出すか。」
長い人差し指と親指をあごに当ててどうやったら効果的か思案していると
トントン
「マノア皇国聖騎士団総団長キールです。少しお耳に入れたいことが・・」
ギィ
金髪の男性は少し慌て姿勢を正して書類と向き合い
「入って良いぞ。」
パタン
「失礼したします。」
皇帝と呼ばれた金髪の男性は手にした書類から顔をあげて
「どうした?今日は何かあったか?」
キールは直立不動でピシッとした姿勢で言った
「皇帝は3日前に王宮の中庭の噴水の上から不審な人物が現れた件について知っていますか?」
「あぁ、一応報告を受けている。黒髪の少女が黒い渦の中から突然現れたと。しかもその少女の持っていたものは使い方のわからないものが多く、武器だった場合何が起こるか分からないため調べることもままならないと。」
キールは顔をしかめながら皇帝の話を聞き終わると
「はい、皇帝のおっしゃる通り突如現れた少女の持ち物は用途不明のものが多すぎて持ち物の検査が一向に進みません。総団長として恥ずかしいこととは思いますが本日の夕方から例の少女の尋問を行おうと思います。その時に少女の持ち物を出して用途の説明などを求めようと思いまして、危険とは思いますが一応王宮魔道士を尋問につけていただきたいのですが、我々では対応できないことが万が一あった時のためにもよろしくお願いいたします。」
「フム、その件はわかった余の方から魔道省に連絡しておこう。してその尋問には余は加わってはいけないのかな?」
キールは眉を吊り上げて怒鳴った
「何をおっしゃっているんですか?あなたは皇帝なんですよっ!あなたの替えはいないんです。何が起こるか分からない尋問に同伴していただくことはできません。先ほど何があるか分からないから魔道士をつけていただきたいとおっしゃった後でなんでそんなことが言えるんですか?全くまだ御身がどれほど大事なものかわかっていただけてないようですね。宰相と相談してもう1週間執務室に缶詰していただくこともできますがどういたしますか?」
皇帝は缶詰ということを聞くと顔をサッと青ざめさせて
「す、すまなかった。無理を言って、もう言わん。」
頭を下げて謝罪をすると
「分かっていただけたようでなによりです。では夕方から尋問を行うので魔道士の方の派遣お願いします。それでは失礼いたします。」
そういうと嫌味な笑顔を浮かべながらキールはお辞儀をして執務室から出て行った。
また静かになった室内で皇帝がベルを鳴らした。
リンリンリン
すっ
一人の執事の格好をした男性が足音を立てずに現れた。
皇帝に向かってお辞儀をして
「いかがいたしましたか?」
「悪いんだが、魔道省に誰か手の空いているものを今日の夕刻に騎士団の尋問室に向かうように伝えてくれないか?」
感情を感じさせない声で執事は
「かしこまりました。それでは魔道省の方に行ってまいります。」
「よろしく頼む。」
そういうと皇帝はまた書類の束と格闘を始めたのだった。
最初に出てきた皇帝の髪がなぜインクにまみれているのかはまた今度説明する機会があります。