落し物
小鳥が楽しそうに歌っている。
僕は女の子が行ってからも窓に座ってぼーっとしていた。
時間がゆっくり流れているように感じる。
独りでさぼるのは結構暇だった。
今更授業に出ておけば良かったと後悔する。
少し寝ようかと、窓から降りた。
すると、何か薄い物をふんずけてしまい足を上げる。
そこには誰かの生徒手帳が落ちていた。
誰かの落し物かな。
それを拾い上げ、届ける為に中を確認した。
そこにはさっきの女の子の写真があった。
名前は東條 桜と記されていた。
さっき帰る時に落としちゃったのかな。
届けようと思ったが、学年もクラスも分からない。
とりあえず、僕は自分の鞄のなかにしまっておいた。
僕には友達といえる友達はいない。
だけど、帰りは咲耶と帰っている。
孤児院に行くまでに、咲耶の家の前を通るからだ。
今日も咲耶と途中まで一緒だ。
特に店も何もない通学路。
電線に止まっている雀が楽しそうに鳴いている。
咲耶は僕が此処へ来て初めて声をかけてきた少年。
友達とは言えないが、一緒にいて楽だとは思う。
勿論咲耶は僕が不老不死だと知っていない。
「……ねえ聞いてる?」
「ああ、うん。昨日犬を飼ったんでしょ」
「違うし!何か竜、今日おかしくない?」
咲耶ははっきり言って馬鹿。
しかし、何処か鋭いのだ。
僕のことを、僕よりも知っているような気がすることもある。
「おかしいかな?」
「うん。おかしいね。何かぼーっとしてるし、あんま喋んないし」
千春に似た人に会った。
なんて言えるわけがない。
「別に……。あんまり喋らないのは咲耶がお喋りだからなんじゃない?」
「俺お喋り!?」
僕が頷くと、咲耶は手をグーにして口にあて、考えるポーズをした。
咲耶なら人脈が広いから東條さんのことを知っているかもしれない。
そう思い聞いてみると、案の定咲耶は東條さんのことを知っていた。
東條さんは咲耶と同じクラスの3組らしい。
僕は2組だから同じ校舎。
それなら明日渡そう。
「あ!分かった!その子のこと好きになったから今日へんなんだ!」
「違うよ。生徒手帳落としてたから届けてあげようと思っただけ」
「ふーん……。でもその子明日学校来るかわかんないよ?」
そう言って、東條さんについて少し話し始めた。
東條さんは体が弱く、学校も休みがち。
今日も早退したらしい。
僕と会った時は帰る途中だったそうだ。
そんな時に叫ばせて悪かったな……。
東條さんの話を終え、咲耶は何やらくだらない話をはじめ出す。
咲耶の家に着くまで、僕らは他愛もない会話を続けた。