僕等の出会い
肩には翔琉、腕には琴音。
不恰好な姿で皆の居る部屋に入って来る僕に対して、皆が笑った。
「おはようさん。んじゃお前等、飯にすんぞー」
院長が手を叩いて集合をかける。
テーブルにはおいしそうな出来立てのオムレツとパン。
美味しそうな匂いが漂う。
翔琉も琴音も、僕から飛び降りて駆けて行った。
ちび達の元気な声で、食事が始まる。
「うっめー!」
「翔琉ちゃん汚いー」
見ると、机がケチャップでべとべとになっていた。
「拭くからもう汚さないでよ?」
「へーい」
僕は台所から布巾をとって来て、机を拭いた。
木の机なせいで、なかなかきれいに落ちない。
普通の人なら面倒だ、なんて思うかもしれない。
だけど僕はこんな面倒でどうでもいい、今の日常が幸せだ。
このままずっと続けばいい。
このままずっと皆といたい。
でも、それは無理で、このまま続くのは僕独り。
皆はいつか死んじゃう。
僕は見送ることしかできない。
そして悲しむだけ。
僕は公立の高校へ通わせてもらっている。
今更高校なんてとか思ってたけど、見た目がそうなのだから仕方がない。
それに、僕の年齢なんて忘れてしまった。
僕は高校2年生、という設定になった。
今は休み時間。
次が移動教室の授業だから、教室には僕しかいない。
そろそろ行かなければいけない時間。
しかしなんとなく行く気にならない。
僕は窓に腰かけた。
足を外に出し、空中でぶらぶらさせる。
「だめです……!」
後ろから誰かの叫び声が聞こえた。
誰だろうかと振り返った。
「千春……!」
細身で小さな体。
優しい垂れ目。
僕と約束を交わした……。
本当に千春なの?
どうして千春がここにいるの?
「千春?」
「あ……ごめん。人違いだった」
違った。
千春ではなかった。
今ここにいるわけがないじゃないか。
僕は千春が迎えに来たのかと思ってしまった。
「どうしたの?何か用?」
「じ……自殺……しようとしてたから……。自殺したら大切な人とも会えなくなるんだよ……?それに生きたくても生きられない人だって世の中にはいっぱいいるのに……。そんなの贅沢だよ!」
僕は口をぽかんと開けたまま。
どうやら説教されているらしい。
僕は微笑した。
「大丈夫。
僕は自殺しようなんて思ってないよ。
ただのさぼり」
そう言った僕に対し、今度は女の子が口をぽかんと開いた。
そして、事態を理解したのか、焦って僕に謝って来た。
いいよと僕が言うと、女の子は恥ずかしそうに顔を赤らめた。
予鈴が鳴り響き、僕等は同時に時計を見る。
「では……。失礼します」
女の子は頭を下げ、自分の教室へと帰って行った。
何年生だろうか。
本当に千春に瓜二つだ。
今まで気づかなかったことに吃驚するくらい。
性格は反対のようだけど。
だけど……。
千春も僕が自殺しようとしていたら、あの子と同じことを言っていた気がする。