神隠し
《圓城陽奈》
決着までたった、7秒。
「久遠神現二刀流、免許皆伝、天野羽衣。」
ハサミを二つに分けて八双の構えをとる。
「……圓城流抜刀術、……初代、圓城陽奈。」
刀を鞘に戻し構える。
私が姉御を超える。……パワー、スピード、テクニック、全てにおいて頭一つ負けてる状況で私が勝つにはやはり……奇策しかない!
残り5秒、ここからの会話はアイコンタクトのみで行われた。
二人は駆け出す。圓城はまた、写真を取り出そうとする。
「魔法カード!」
「……陽奈、お前に出来ることは私にも出来るんだぞ?」
羽衣は圓城の前に写真を出し、下に落とす。
「強制魔法、土下座。」
「つ⁉︎…キャーー!!」
圓城は写真を誰にも見られないようにと覆いかぶさる。
「これで終わりだ。……なにっ⁉︎」
圓城も写真を放り投げた。
「……《黒歴史》発動。」
「………。」
羽衣は、一瞬悩んで……写真の方を切り刻む。
圓城も写真を誰にも見せないよう握りつぶした。
「……。」
「……。」
お互いの恥ずかしい写真を。
残り、4秒。
先に動いたのは圓城、しゃがんだ状態から斜めに抜刀。
「甘い。」
だが、羽衣の左手のハサミで簡単に弾かれる。
「まだまだ!」
弾かれる事は予定通り、あらかじめ予測していた地点に足を持っていき、弾かれた刀を蹴り上げ、羽衣に斬りかかる。
「……二段構えか、……まるで燕返しだ。」
だが空いていた右手のハサミでガードされる。羽衣は片手、圓城は両手プラス片足、それでも力で負けてしまう。
「さらに、まだまだ!」
ビリリ!!
「っ!!」
圓城は隠し持っていたスタンガンを刀に流してハサミから羽衣へと電気をあたえる。
羽衣の右手にさっき程の力がない事を察して圓城はそのまま刀に力を込めて切りにかかる。
羽衣は体を後ろに逸らし回避、そのままバックステップで後ろに飛んで距離を置く。その時に右手のハサミが地面に落ちた。
右手が痺れて持ち上げられない羽衣を見て今がチャンスと羽衣に切りに飛びかかる。
残り3秒。
「たとえ、左手一本でもお前に負けたりはしない。」
「負けません!私は強くなったんです!川君とのライバルたちと戦ってきたんです!」
山下さんと!!
姫星くんと!!
飛鳥、海、貴子、純子、美智子、佳子、幸子、夕日、真知子、節子、花子、義雄、春子、恵子、ポチ、弘子、ピーちゃん!!
「そのライバルたちに力を貸してもらったらどうだ?」
「言いましたね!」
圓城は刀のギリギリ届く位置から斬りかかる。それを羽衣はハサミで受けようとして
ガキィン!!
弾き飛ばす。羽衣の手からハサミが上に飛んでいく。
「たとえ、力で負けていてもタメを作って遠心力を利用すれば受け止められないでしょ?」
「ふん。」
羽衣はさらにバックステップで後ろに、
「はっ!」
だが、圓城も予想していたのか前に飛んでいて羽衣めがけて上段から斬ろうとしていた。
バックステップの着地の瞬間を狙った。避けられない。もし、手で白刃取りをしようものなら、スタンガンで仕留めるつもり、
「私の勝ちです!!」
ベキッ!!
「ごふっ!!」
圓城の、右脇腹に衝撃が走り後ろに吹き飛ぶ!その時に刀を手放してしまった。
「息ができない!何が⁉︎」
近くに武器なんてなかったのに!ましてや、刀より長いものなんて!
「あったさ、お前が見てなかっただけだ。」
見ると圓城の右脇腹に頭がめり込んでいた。
羽衣の左手には足が、……倒れていた信者の体が
「人を!振り回したのか!!」
「美人の特権さ、」
「ゴリラですか!!」
後ろに吹き飛びながら歯をくいしばる。
「っ!肋骨が折れてますね。……まずい、意識が飛びそうです!」
「……胸にボリュームがあれば耐えられたのにな。」
ぶちっ!!
ギギギギ!!!
足を地面に触れさせ摩擦でこれ以上後ろに行かないように踏ん張る。
「この程度で!倒れると思いましたか!」
残り1秒。
「……いや、信じていたさ、お前なら、倒れたりせず吹き飛ばされてもその位置で止まるとな。」
「…なにを!」
脇腹が痛くても、胸を張る圓城。弱った姿は見せない。
「…予想どおりだよ。」
スパン!
ザク、……ポト。
「……え、」
何かが地面に落ちた。
圓城は恐る恐る振り返る。
落ちていたのはハサミと一房の髪だ。
「なんで?」
「お前に弾き飛ばされたハサミがあったな。……正確には放り投げたハサミか。」
「…まさか、落下地点を計算に入れて!」
「…言ったろ、お前ならそこで止まってくれると、」
残り、
「そんな、」
うつむく圓城。
「私の勝ちだ。」
胸を張る羽衣。
スパン!
隙ありとばかりに羽衣の髪を切り落とす紅夕日。
「は?」
「……よし。」
「これで、」
「ええ。」
「「私達の勝ちですね!」」
0秒。