百鬼夜行
《黒野蒼夜》
川に電話をしながら手についている血を舐める。
口の中に広がる味は鉄臭い冷めた味じゃない。マグマのように熱い含んだ先から体に溶け込むようなエネルギー、それを至福の時間ように味わった。
身体中の血が熱い、燃えているんじゃないかと錯覚を起こすほど。
……わかりきっていたことなのに、血を飲んだらこうなることくらい。俺の中で血は、勝利の美酒であり、生への実感であり、満たしてくれる命だった。性的興奮を覚え、依存し、渇望し、我を忘れる。……麻薬よりもタチの悪い。
「……じゃあな、川。」
赤は欲望の色。
俺は、周りを見渡す。……目の前に広がるのは赤い酒池肉林。
どんな人間もどんな生き物も腹の中を開けばみんな赤に染まる。ああ、どんな味がするのだろう、
……
かわりに、
「く!!やめろ!近づくな!」
「俺たちが悪かった!だから許してくれ!」
白から見た景色は地獄だった。
暗くとも視力が良くなったせいで見える真っ赤な部屋、空が青いのも森が緑でも気にならない。……だが、赤が、全てが赤なのはこれほどまでに不快なのか。恐怖に震えている体が、赤を見て無理矢理、体が高ぶり熱くなる。冷静になり落ち着こうと思う頭に反して赤を見て怒りが高まりまともな思考に至れなくなる。
それでもわかる。
赤は危険だ。
「人数はまだいる、身体能力も今なら負けてない、全員でかかれば勝てるはずだ!」
「…そうだ、さっきとは違う!今度はこっちが殺す!」
「ああ!やられる前にやってやる!」
生き残っていた白達は襲いかかろうとしたが、ーーー
「…き、消えた!」
「ちくしょう!何処に⁉︎……オガッ!!」
「おい!大丈夫か!……ぎゃああ!!!!」
急に赤は見えなくなり、白達はいきなり襲われ始めた。
「…ッ⁉︎そうか!この部屋が赤いから赤いあいつも見えにくくなっているんだ!……カハッ!!!」
「くそっ!じゃあ俺たちも赤くなれば!オギャ!」
「……無駄だ。俺はお前達を見ているんじゃない。……音で判断しているから。たとえ、目を閉じていてもお前達をやれる。」
「くそがぁ!!!………みんな!逃げるんだ!!それしかもうない!!」
「……それも、もう無理だ。」
白達が扉を開けて外に出ようとした時、
「「「「ぎゃああああ!!!」」」」
白達の体が火傷をした様に爛れ出す。
「……お前達の飲んだ薬が、本物なら太陽が照らす外には出られない。」
「そんな!」
「……夜まで、生きてられるかな?」
「「「「うわああああ!!!!」」」」
赤はまた白に襲いかかる。
「ちょっと待った!!!」
「……。」
赤を呼び止める人がいた。
「……こんな暗い部屋で、……凄い臭い。」
そいつは外からやってきた。そいつは暗いせいで中がどういう状況で誰が何人いるのかも見えてすらいない。だが、赤には見えていた。よく知っている。……
「……麻也。」
そいつは少女で、彼女で、黒にとって大切な恋人だった。……だが、赤にとっては餌でしかない。
「…一発殴らせて。」
「どうして此処に。」
「…天野から聞いた。」
山田麻也は走る。
そのスピードは常人にしては速い、だが、白達と比べたらあくびが出るほど遅い。殴りかかられても、避けることは容易かった。
「……蒼夜が百人とエッチな事してるって!」
「……は?ぅぐっ!⁉︎」
殴られ、飛んだ。そして、壁に激突した。
「……恋人なのに、……私じゃダメ?」
「……待て待て待て!!あの馬鹿からなんて聞いた⁉︎」
「え……。」
《10分前》
携帯に着信が鳴る。久しぶりの休みにベットでゴロゴロしている時、少しイライラしながら、電話に出る。
「……なに?……今忙しいから、よほどのことじゃない限り切るから。」
そう言って話も聞かずに切ろうとしたら、
「何処かで蒼夜が百人の人間とやってるらしいんだ!もしかしたら既に何人か食ってるかもしれない!」
「…なんだって!」
驚きのあまり飛び起きた。
「頼む!探すのを手伝ってくれ!あいつ携帯に出ないんだ。」
「任せて!」
「場所はわからない。だけど、百人、入る場所で人気のない場所だと思う!」
「…心当たりがある!今から向かう!」
「そうか!すまん助かる!」
蒼夜の馬鹿!蒼夜の馬鹿!言ってくれれば私は!…………初めてだけど!……もしかして、初めてとは面倒くさくて嫌だとか。
「ちなみに山田さんは大量の血とか大丈夫か?たぶん、百人もいるから蒼夜のいるところ血の海かもしれない。」
「蒼夜のばかあああああ!!!!」
《現在》
「……って。」
「あのアホがあああ!!!」
赤を黒が塗りつぶす。