現実主義者
《月宮》
「あ、ぐぅ!」
腹を押さえてうずくまる。
痛みがズキズキと身体中に広がり始める。
「あ、な、なんで!」
異常なほど汗をかきだし、口から血を吐きだす。
頭が痛い!心臓が痛い!お腹が痛い!目まぐるしく痛む箇所が変わり、その度に起こる急激な体温変化に体力を奪われる。
痛みにもがきながら、
右手に銃を持った相手を見る。
「な、…ん…で、……姉さん。」
「……決まってるじゃない。」
お腹に付いた血など気にもしていない様子で立ち上がり、月宮判を見下ろす。
「私を怒らせたからよ。」
《月宮円》
痛みに、もがき苦しむ弟を見ながらどうするか考えていた。
「ぐっ!あああ!!!くそっ!姉さん!何を撃ちやがった⁉︎」
「ん?ああ、これ?」
私は右手に持っている銃を指す。
「なんか朝倉が置いて帰ったやつを危ないから拾ったのよ。……なんか毒があるらしいわよ?」
「はぁ!はぁ!なんてモノを撃ちやがるんだ!」
「仕方ないじゃない。……正当防衛よ。」
「はぁ!はぁ!、……平然として!僕が撃った弾は痛くないのかよ⁉︎」
「ああ、これ?防弾チョッキ、血糊付きよ。……それでも痛かったんだから。」
パス、
そう言って再度、月宮円は弟の右足を撃った。
「ぐああああ!!!!!」
判はさらにのたうち回る。
「このモデルガンは気に入ったから貰っておくわ。……ただ、弾のほうは危なくて危険だし、あんたの体に入れておくから直接朝倉に返しておいて。」
「そんな返し方がある」
パス、
左足にも撃った。
「かあああああ!!!!!」
痛みでのたうち回る。
「……。」
……癖になりそう。
「はぁ!……はぁ!……はぁ!」
「判、あんた本当に情けないわね。……そんなんじゃ悲しむわよ。」
「はぁ!はぁ!……伊沙がか?そんなわけないだろ、僕は伊沙のために!」
「……天野がよ。」
「………………は?」
判は間の抜けた呆れたような顔をする。
「あいつがあんたをどんだけ気にしていたか知らないでしょう。友人を警察に自首させるって事がどれだけ辛いことか、」
「……はっ!あははは!!!何を言ってるんだ姉さん。あいつはそんな事、」
「…思ってるのよ、……馬鹿だから。ちゃんと出所してあんたは恋人を捜しに行くと、本気で。」
「……。」
「……まぁ、私としてはどうでもいいことよ。……それよりも、あんたよ。なにいつまで死んだ女に引きづられているの?」
「……あ?」
「もういないのに。」
「いるよ!僕の側に!」
「いないわよ。あんたの側に、……もうとっくに成仏しているわよ。」
「嘘ばかりつきやがって!いるんだよ!言っていたんだ、朝倉が、君の側で何かを伝えたがっているって⁉︎」
「………無理よ、いないんだから。……朝倉に騙されたのよ。」
「……そんなわけ、そんなわけ!」
「…私のサトリは幽霊の声も聞ける。」
「ッ!!!」
「教えてあげる。」
「…いや、やめろ!」
「あなたの側に、」
「お願いだ!聞きたくない!」
「幽霊なんていない。」
「あああああ!!!!!」
「……天野だけだったのにね。あんたの心を本当に見ていてくれたのは、……信じることを止めない、……そこだけは認めてもいいと思うわ。……ああ、判、安心して、最初に撃った弾は毒だけど、残り二発は解毒剤入の弾だから死なないわよ。感謝してね。」
「……なにもかも、なにもかも。僕は操られていたのか。」
「……ええ、そうね。……でも安心してあなただけじゃなくこの世界すべて、……操られてるようなもんだから。」
「……誰に。」
「それは秘密。なんせ、2000万も貰ってるんだから。」
「……金の亡者。」
「……違うわ。私は……」
ただの現実主義者。