悪
「…何が感動の再会だ!兄貴!どうして!」
「うーん、わかるよ?お前が何を言いたいか、でもな……とりあえず死んでくれる?」
そう言うと朝倉百夜は右手にナイフを取り出した。
「…なんで、」
「お前が夕日ちゃんに操られて犯罪者になってくれたら楽やったんやけどな。……諦めるわ。」
朝倉百夜が一歩近づく。
「…させると思うか?」
それに対して一歩、蒼夜も前に出る。
「蒼夜!」
「…兄弟か何か知らないがこいつは危険だ。…悪いが潰す。」
「あら、怖いわー。……身の程知らずって。」
パスパスパス。
「っ!!!!」
朝倉百夜の白衣のポケットから極小の発砲音と穴が空き、それと同じく蒼夜の体にも穴が開いた。
「蒼夜!」
「くっ⁉︎拳銃か⁉︎」
朝倉が左手から拳銃を取り出す。ポケットに隠し持っていたんだろう。
「改造したモデルガンや。油断しすぎちゃうん?体に自信でもあったん?」
膝をつきながらも蒼夜は笑う。
「……まあな。」
……そうか、蒼夜の体は驚異的な回復力があるんだ。
「そか、死なんどけばえーな。」
「ふっ、…………ゴフッ⁉︎」
「蒼夜!」
血を吹き出し、そのまま蒼夜が地面に倒れた。
「おい!何をした!」
「そんな睨むなや、…獲物獲るんに毒は常識やろ?」
蒼夜が地面で暴れまわる。
「クソッ!」
「おっと!動くなよ〜……ま、川は元から無理みたいやけど。あとお二人さん。」
「……。」
「……。」
「ええ子や。そのまま動かんなら楽に殺したる。」
百夜が銃口を向ける。が、
「ガァッ!!」
銃を持ったその手を血を吹き出しながら蒼夜が襲いかかり弾き飛ばす!
「おわ!まだ動けるんか!……びくったわ。」
そう言って右手のナイフで蒼夜の腹を切ろうとする。
「させない!」
蒼夜と百夜の攻防の一瞬の隙をついて姫がナイフを蹴り飛ばす。
「あら、ってまだ動けるんか⁉︎」
「くらえ‼︎」
両手に武器をなくした百夜に死力を尽くした蒼夜の全力の拳を振り切る。完全にガードは間に合わない。それを、
「頑張りは認めるけど……無駄やったな。」
蒼夜の拳が百夜の目の前で止まる。
「……馬鹿な。」
「…どうなってるの?」
……蒼夜が止めたわけじゃない。まるで何か見えない障壁にでも遮ぎられたみたいな止まり方だった。
「クソッ!何故あたらねぇ⁉︎」
「なはは!自分、PGフィールドもっとんねん。」
「何だよそれ!」
「こんな事も出来るで。」
そう言って百夜は左手を蒼夜に向けて上に動かすと、蒼夜の体が触れてもいないのに宙に浮いた。
「な!」
「さらにこんな事も。」
グニュ⁉︎
「があっ‼︎」
蒼夜の首に見えない手の跡が現れ蒼夜の首を締め付けている。
「…っ!…ぁ!」
蒼夜が必死に見えない手を触ろうとするが何も掴めない。…なのにどんどん首の跡が深くまでめり込んでいく。
「やめなさい!」
「姫!」
姫が百夜に向かって殴りかかる。
「ちょい待ちいや。」
右手の人差し指を姫に向けて下に下げる。
ベシャッ!
「あう!」
姫が地面に押し潰された。
「順番待ちしとって。」
「っ!誰かああ!!」
「あ、叫んでも無駄やで、部屋に入った時に音が漏れんようにしといたから。」
そう言って百夜はにこやかに笑う。
「さてと、」
百夜は蒼夜に向き直り。
「死ねや!」
凄まじい形相で睨みつけた。
「……いえ、させないわ。」
そこで待ったをかけたのは……
「…ああ?さっきまで大人しくしとった姉ちゃんが何を言いよるん?」
……月宮だった。
「…ここが病院だってわかってる?」
その右手には、ナースコールが。
「…貴方が来た時には押したからもう人が来るわよ。」
「……おとなしかったんは時間稼ぎのためかい。」
「ええ、貴方みたいな意味がわからない人間を相手になんて出来ないわよ。」
「……ああ、やっぱり一人の時を狙ってやればよかったわ。……帰ろ。」
百夜が両手を下げる。すると蒼夜が地面に落ちてきた。
「ゲホッゲホッ⁉︎」
「っ!私も動く!」
蒼夜と姫がすぐに立ち上がり百夜を睨む!
「やめやめ。……今日のところは帰るわ。人がこれ以上来られたら面倒いし。」
「ふざけるな!」
「生かしといたる言うとんねん。……素直に喜んどけや。」
「……。」
百夜が俺の方を向いた。
「…二週間後、あの工場跡に来てえや。……待っとるで。」
そう言って百夜は病室を出て行った。