誤解はエスカレーター式に
《公園》
「…うまくいった。ねぇ、本当にこれでよかったの?」
「オッケーオッケー、完璧や。」
これは天野川が出て行った後の会話。
「これであいつもイッパシのワルや。」
黒髪の少し目付きの悪い男は何が面白いのかケラケラと笑う。
「…そもそも、何故彼にこんな事を?私の目的は、」
「わーってるよ?ただあいつがおると何かしら邪魔やん?夕日ちゃんもそれを理解してるから協力してくれたんやろ?」
「…」
「それにな、あいつは自分のブラザーや。こうやって追い詰めたら絶対にオモロイ事してくれると思うんよ。」
「…何がブラザーよ。彼と貴方は全然似てないわよ。彼は普通よ……あなたと違ってね。」
「なはは!見る目がないなぁ。そら、自分や君とじゃ比べるべくもないけど。…あれは普通やあらへん。普通のやつが持ってるもんが欠落してるんや。」
「…それは私たちと同じという事?」
「だからちゃうんやって。確かに自分らは色々と欠落しとる。元からやったり誰かに壊されたりな。そのせいでこうやって面白おかしく生きとるやろ?」
「…そうね。」
「けど、あいつはない事が当たり前で普通なんや。そんである事があいつにとって異常で苦痛なんよ。」
「…何を言ってるのかさっぱりわからないわ。」
「たぶん。夕日ちゃんには絶対に理解できんと思うで自分もそうやし。」
「……それはなんなの。」
「あいつが持ってないもんはーーや。あいつはそれがないからどんな人間にも分け隔てなく接する事が出来るし、どんな人間の心も理解し共感する事が出来る。……普通の人も異常な人もな。」
「…嘘でしょ。さっきの彼は本当に持ってなかったっていうの?私と話していた時に。」
「マジマジ。自分も初めて気づいた時は驚いたで。……どうや?やばいやろ?」
「…ありえないわ。ーーを持たずに彼はどうやって生きているのよ。」
「常時、悟りを開いとるんとちゃうん?それか死んどるか。」
「間違いなく後者ね。……確かに異常ね。私じゃ絶対に無理。…もしかして、私の催眠まったくかかってなくてずっと演技してたのかしら?……最悪。」
「……いや、たぶんバッチリ効いとったで?」
《竹林》
「ほはー、はふふはへんはー!(お前、マジふざけんな!)」
「ったく。誤解なら誤解とそう言え。紛らわしい。」
「ひっは!ほへひっは!(言った!俺言った!)」
「…何がどうなればこんな状況になるんだよ。説明しろ。」
「はひへははほふふへはほはははほ!(始めからそうすればよかっただろ!)」
「…何言ってるかさっぱりだ。真面目に頼む。」
「ほはへほへーは!(お前のせいだ!)」
すでに、蒼夜にフルボッコにされた後だった。顔面がパンパンに腫れ上がり喉も潰されて説明もクソもない。
「…取り敢えず山下は無事なんだな。」
「ふん。(うん)」
あらましを説明するためにメールでやり取りをする事に。
「…取り敢えず圓城に連絡するぞ。」
ポチポチ。
俺は携帯の画面を見せる。
ヤダ。
「…あんな事言われた後だからな。あ、もしもし俺だ。圓城、川を見つけた。」
おい!
「…今の状況か?……説明が難しいんだが、竹林の中で身体中血塗れの山下さんと同じく血塗れで右手に包丁を持った川が興奮したように息を切らせてたんで抵抗できないようにボコボコにした。」
やめろ!それじゃあ、間違いなく俺は犯人だ!
「…ん?ああ、そうだ。山下さんは大丈夫。寝てるだけだ。……川と話がしたい?それに救急車?わかった。」
そう言って蒼夜は携帯をスピーカーにして俺に向けた。…救急車って、まさか今の会話で俺の事を心配して。
「木を隠すなら森の中、川君、中々考えましたね。……この犯罪者!」
あ、完全に誤解しているな。……無理ないか。
「蒼夜君!急いで病院に連れて行ってください!杏奈さんを。」
そして俺じゃないのかよ。
「…圓城、安心しろ。山下はどこも怪我をしていない。血も川の返り血だ。」
「…蒼夜君。私も携帯で話を聞いただけですがいくら何でも川君の話は馬鹿げてます。」
「…確かに。」
悪かったな!
「…ですので、ここで一つの仮説を立ててみます。…本当に杏奈さんは怪我をしていないのですか?」
「…どういう意味だ?」
「この腐れ川君は杏奈さんの家で自分の腹を切って杏奈さんに大量の血がかかってしまい咄嗟に人が来そうだったので誤解を招く前に部屋から逃げたし竹林に隠れたと言っていますが大量の血をかける理由があったんじゃないでしょうか?」
「理由?」
「つまり、杏奈さんの何らかの怪我を隠すためにわざと血を浴びせたんじゃないでしょうか。」
「………。」
こいつ本当に何言ってんだ?
「圓城、悪いが山下の体を調べたが別に怪我をしているところはない。…信じられないと思うが川の話が正しいと俺は思うぞ。」
「……蒼夜君。今杏奈さんが眠っているいいましたが、無理矢理寝かされたんだとしたら?彼女の部屋で。川君と二人っきりで。」
「……。」
「…それを踏まえたら彼女の、……まだ見てないところがあるんじゃないですか?」
「……っ!まさか!」
蒼夜が俺を睨みつける。……なんで?
「…そうです。そこのド腐れエロ川君は杏奈さんの………………処女を奪ったんです!」
「はふへは!(なんでだ!)」