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肉食系女子

《???》



時間は少し遡る。


「……。」


紅夕日、彼女に優しくしてくれた人に一番感謝してる人にあなたの痛みをわかってもらいなさい。そう彼女に促されて俺はある家の前に来ている。


ピンポーン


インターホンを鳴らして彼女が来るのを待つ。そう、思いを返すというならまずは彼女からだ。


「はーい。」


返事とともにドアが開く。


「…川君⁉︎」


「…よお、杏奈さん。」


山下杏奈の家に来ていた。










《天野川》


話がしたいと言って俺は杏奈さんの家にあげてもらった。……待ち時間に30分。いきなりだったからな。



「……。」


変に思われないようにほんの少しだけ辺りを見渡すと人形が色々な所に飾ってある。棚は勿論、床や机の上、挙句に何処で寝てるのかベッドの上にもたくさん置かれていた。


「人形多いな。」


「う、うん。集め始めたらどんどん増えていって。」


そういや、前に人形集めが趣味とか聞いたことがあるな。


「…そ、それで話って何?」


「ああ。実はーー」


…杏奈さんに






この痛みを!







俺は紅夕日から貰った包丁を鞄から出そうとする。


「あ、ごめん!お茶も出さずに!すぐ持ってくる!」


その少しの差で杏奈さんは部屋から出て行ってしまった。…タイミングを外してしまい包丁をまた鞄にしまう。


「……。」


…お茶を持ってくるまで暇でしょうがない。何かないか?…そこでハゴ姉が貸した本を思い出しそれを探すことに。


「……んーないな。」


本棚を指で追いながら捜すが見当たらない。あっちこっちを探してみたがそれらしい本はない。あったのは雑誌くらいだ。…俺は本を探すのを諦めて、そこらにあった雑誌を暇つぶしに読むことにした。



奇跡⁉︎クイズ番組で学生が全問正解!賞金2000万円⁉︎



「……。」


進出⁉︎武鳥グループ遂に宇宙へ⁉︎



「……。」



衝撃⁉︎吸血鬼は本当にいた⁉︎



「……。」



スクープ⁉︎女子プロのキングブィティがあのイケメン俳優と熱愛⁉︎


「…ほぉ。」


俺はそのページを細かく見る。


彼氏にしたい俳優第1位の彼に実は彼女がいた事が判明。しかも相手は凶暴凶悪で名を馳せた女子プロのキングブィティさんだった。なんでも彼の話だと《彼女の前に立つだけで胸の鼓動が加速する。目が離せなくなる。彼女の言葉にすべて従ってしまう。》との事でもう完全に彼女に骨抜きにされているみたいです。キングブィティさんの方は《ちょっと吼えただけで彼、凄く震えるんです。……マジで可愛すぎ!》との事でラブラブの模様。本来ならあり得ない話ですが。しかし、最近そういった肉食系女子に食べられてしまう草食系男子が多いらしいです。いつもと違う距離から迫られてしまいドギマギ、動揺、ではなくその圧力に負けてコロリ、なんてことが。


「…あるか。」


あなたもこれを機会に試してみては、…今まで縮まなかった距離が一気にゼロに!


「なるか。」


俺は雑誌を閉じた。……この雑誌つまんねぇな。俺はまた別の雑誌を手に取ろうとした時、トストストスとこちらに近づいてくる足音が聞こえてきた。


「お、おまたせ!」


想像通りで杏奈さんがお盆を持って戻ってきた。……ようやくか。俺は鞄から再度、包丁を取り出そうとする。…が、


「よ、よいしょ!」


「おわ!」


何故か杏奈さんが俺の隣に腰掛けて、というより身体を密着させてきて俺は横に倒れてしまう。


グサッ!


「……。」


その拍子に鞄に入っていた包丁が俺の横腹に突き刺さる。


「さ!さぁ!お茶を飲みましょう!」


「…あ、ああ。」


正直、それどころじゃなかった。


ごくごく。杏奈さんは喉が渇いていたのか一気にお茶を呑みほす。俺もお茶を取ろうとするが右手を動かすと脇腹が痛い。左手は杏奈さんが寄りかかってて動かせない……しょうがないので飲むのを諦める。


「ぷはっ、……そ、それで話って?」


何故か杏奈さんの顔が赤い。…おまけに物凄く近い。


「…あー。…ちょっと待ってな。」


引き抜こうと包丁に力を込めるが…包丁が痛くて抜けない!それになんだこの距離は⁉︎杏奈さん近づき過ぎだろ。


「…あ、杏奈さん?少し近い気がするのですが?」


「そ、そんな事ないよ!まだ遠いくらいだよ!」


それはない。


俺は冷静に突っ込みを入れたかったが、痛みでもうここに何しにきたのかすらどうでもよくなりつつある俺にとって今はこの現状を何とかする事に全力を注ぐことにした。……すなわち、


「…今日はもう帰るよ。」


病院に行こう!


「え!そ、そんな!今来たばかりじゃないてすか⁉︎」


「うん、俺もそう思うんだが……」


鞄で見えないと思うが腹が大変な事になってるんだ。


「も、もう少しだけでも!」


そう言って杏奈さんはさらに俺にのし掛かる。その拍子にさらに包丁が俺にめり込む!


「がぁ!…あ、杏奈さん。こ、これ以上は!俺、が、我慢出来ない!」


「えっ!…我慢出来ないって、それって、…私の事を………もしかして、雑誌の効果が出てる。」


杏奈さんが小さな声でボソボソつぶやく。……これだけ近いのではっきり聞こえた。…雑誌ってさっき読んだ奴のを言ってるのか?


「杏奈さん違う。これは、」


「せ、川君、今、心臓が凄い速さで動いてる。……意識してくれてるの?」


「あ?…ああ。」


俺の胸に耳を傾けている杏奈さん。そりゃしてますよ!……危機的意味で!


その言葉を聞いた杏奈さんはさらに顔を真っ赤にさせ小さな声で、いける!いける!と口ずさむ。


「えっと、…川君、もう少しだけ一緒にいて、ください。……じゃ、じゃないと、……ぎゅーとします!」


そう言って両手を俺の腰近くにまわそうとする。


「!わ、わかった!もう少しだけな?だから、そこはダメ!」


俺は杏奈さんの両手をつかむ。……危うく包丁がめり込むところだった。


「……。」


「……。」


それから数分、しばらく沈黙だけが過ぎていく。…頭が回らなくなってきた。鞄を揺するとぴちゃぴちゃと液体の音が聞こえる。……かなりやばい。おまけに喉が凄く渇いている。


ふと、机を見ると美味しそうな麦茶が、


「…ぐっ!くぅぅ!!」


右手を無理やり前に伸ばしコップを取る。かなり痛いが喉の渇きが勝った。我慢出来ず俺はそれを一気に煽るように飲んだ。


「ぶふぅっうう!!!!」



そして吹き出した。



ウイスキーだった。


「ゲホッゲホッ!…杏奈さん!君は馬鹿か⁉︎」


俺は横にいる杏奈さんに突っ込む!


「…くぅ、くぅ。」


…寝ていた。……杏奈さんが飲んだコップの匂いを嗅ぐ。


…ウイスキーだ。


「このあほがぁああああ!!!!」


何を考えているんだこの娘は⁉︎人にお茶と言ってアルコール出すなんて!しかも自分も飲んでるし!そら、顔も赤いよ!寄りかかっててないと座ってられないよ!しかも、俺が必死に痛みに耐えてる時に寝てたのか!


俺は口から火が出るんじゃないかと思うくらい立ち上がり叫ぶ!親の顔が見てみたい!


「どうしたの杏奈!」


バタバタとドアの向こうから音が聞こえる。……やばい本当にきた!


俺は慌てて窓から脱出を試みる。……ふと杏奈さんを見ると。


「……。」



血塗れだった。……俺の血で。



…立ち上がった時に鞄の血が掛かったみたいだ。この状態を杏奈さんの親に見られて俺逃げてみろ。……ヤバすぎるだろ。


「……。」


俺は杏奈さんを抱えて窓から飛び出した。……本来ならそのまま杏奈さんの親に助けを求めていれば良かったのだが、血が抜けていた上、アルコールで頭もグチャグチャだったこともあり冷静に判断出来てなかった。


俺はそのまま近くの竹林の中に逃げ込んだ。


「ゼェ!ゼェ!」


背負っていた杏奈さんを下ろして俺は包丁を引き抜いた。……もう痛みがどうとか越えていた。


嫌な汗をめちゃくちゃ掻いて意識も朧げだった。


「……川。」


後ろから声が掛かった。聞いたことのある声だ。


「…やあ、蒼夜。どうした?」


「どうしたじゃないだろ⁉︎」


俺を見て、後ろの杏奈さんを見れば確かに、……誤解してるな。


「いや、これには訳があってだな。」


「……。」


蒼夜の顔は冷たい


「誤解なんだよ。」


「……。」


必死で説明したいが頭がまったく働かない。


「俺は悪くない。」


……何故こんな言い訳じみた言葉しか出てこないんだろう。



「…すまない、川。もう少し早く来ていれば。」


「いや、」


蒼夜が俯きながら謝ってくるが顔は酷く恐ろしい。


「…川、これ以上お前に犯罪を犯させない。だから、俺はお前をボコボコにしてでも止める。」


「いやいや、話を聞いて?何故俺が犯罪者?誤解だって。」


「…なるほど、本当に自覚がないんだな。」


「え?マジで何言ってんの?」


「…とりあえず抵抗出来ないようにして圓城を呼ぶか。」


「ちょっと蒼夜さん?」


「…話は後で聞いてやる。」


「いや、今聞け!」





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