サンタクロースは
誰でも一度は噂で聞いたことがあるだろう。サンタクロースとは元々は義賊であると。金を持った者たちから宝を奪いそれを貧しい人たちに配る。赤はその義賊の象徴であると。
サンタクロースとは泥棒であると。勝手に人の家に侵入し金品を漁る。たまたま子供に見つかり盗んだ物からプレゼントと称して渡した事が始まり、赤は返り血の色であると。
このどちらかは一度は聞いたことがある人もいるだろう。……でもサンタクロースが悪魔という話はどうだろう。それは、どんな願いもクリスマスに命と引き換えに叶えてくれる。善人でも悪人でもどんな事でも。……みんな、それだけの想いを込めてサンタクロースに願いを託していると。
犯人はサンタクロースとはそういうものだと信じている。現に彼はサンタクロースから託されたのだ、みんなを幸せにしてほしいと。
だから犯人は人を殺す。大切な願いとともに。間違ってるとわからずに、幸せになってないと気付かず。そして、犯人に託したサンタクロースが実は真っ赤な真っ赤な
……大嘘つきだと知らずに。
《補習中》
…今日知ったこと。乙女心とは複雑であると。あれから数分後、教室に圓城が入ってきて何故か俺の頭をぶっ叩いてからすぐに授業が始まった。
半分以上寝てたので詳しくは語らないが約2時間に渡る圓城による恋愛学のようなものが続いた。女性が何をすれば喜ぶか、どんな事で傷つくのか、男とはこうあるべきだとか概ねそんな内容だった気がする。黒板には女/男=快感とか浮気=男−田とか謎の数式で埋め尽くされ、隣の杏奈さんは顔を赤くしてウンウン言いながら必死でメモをしている。
「さて、だいたい説明し終えましたし、最後に一人ずつに3つほど質問をします。全部合っていれば補習終了です。」
山下杏奈
「…一応質問の前に確認なんですが山下さん、4時間目のテストは真剣に解きましたか?」
「は、はい!もちろんです。」
「…昨日、本を借りてましたね?あれを全部読みましたか?」
「もちろんです!」
「…なるほど。しかもあれを読み終わってるということは昨日、寝てませんね。……あの本を読んでテストをしたのならここに残るのも仕方ないかもしれませんね。質問するまでもなく山下さんは合格ですね。」
「ほ、本当ですか!……やった!」
杏奈さんが小さくガッツポーズをする。
「ただし、あの本を読んで今日のテストがこうなってしまったのなら今すぐカウンセリングに行って下さい。」
やっぱりやばい本なのか!
「…なんて題名の本なんだ?」
「「完全他殺マニュアル。」」
「そんな本を読むな!」
武鳥卯月
「陽奈が話し掛けてくれるなんて久しぶりだな!なんでも質問してくれ!」
そういや卯月は入部試験失敗で探偵部に立ち入り禁止にされてるんだっけ。…大方、圓城はそれを理由に卯月に話しかけるどころか近付くのすらさせてないのだろう。……同じクラスなのに。不憫だ。
「早く質問を!そして、君の声を聞かせてくれ!」
だからだろうか。圓城から話し掛けてもらえる。そのせいで卯月のテンションが高い。
「さあ!陽奈!なんでもこい!」
「乙女心がわからないんですか?」
「……。」
……うわ、最悪の質問だ。
「男心しかわからないらしいですね?」
「…あ、……いや。」
……こいつ、俺たちの会話を聞いてたな。
「漢を魅せる。……今、ここで何をしているんですか?」
圓城は指で壁に貼ってある紙を指す。
《乙女心わかってる?》
そう書いた紙を。
「…私が今考えてる事わかりますか?」
「……。」
…卯月のテンションは極限まで下がっていた。
三田駆 渡辺光
一人は体格の良い熊みたいな男、もう一人はガリガリのインテリのような眼鏡をかけた男。
「園芸部のかたがたですね。よく花壇の手入れをされているのを見た事があります。女性の後輩にも慕われているあなたたちが何故ここに残ったかわかりますか?」
「……いや、乙女心が」
「違います。」
「……。」
「三田君と渡辺君、あなた達はとある事件の容疑をかけられています。」
「「え?」」
…これのためにわざわざテストをしたのか。……乙女心で何がわかるか知らないが。
「ですから心して答えて下さい。…嘘は通じません。」
圓城が二人を見据えて言う。どっかに姫星を待機させているんだろう。……月宮を呼べばいいのに。
「「……。」」
二人の男は黙って圓城の次の言葉を待つ。
「あなた達はサンタクロースを信じていますか?」
……圓城は馬鹿なんじゃないだろうか。サンタクロースはーー
「いえ。」
「当たり前じゃないですか。」
一人信じてる⁉︎
「…犯人がわかりました。12月に起こるクリスマスサンタクロース事件の犯人はあなたです!」
そう言って圓城はサンタを信じてる男に指を向けた。