分かってる?
《圓城陽奈》
この乙女心診断50問には実は幾つかサイコパス診断ができるものを混じらせている。他の問題自体どれを選択しても大丈夫だが、サイコパス診断でそれを選択した人間は危険人物として残した。……それにしても何故よりにもよってコイツラが。
《天野川》
最低点を取ったらしい俺たちは空き教室で補習を受けることになった。曰く、学生としてあるまじき二ブっち、恋愛不能者、心ここに在らず、と。
「しかし、失礼だよな。別に今まで乙女心がわからなかったからって問題なく生きてこれたのに。」
「全くだ。むしろ、俺には乙女心が分からないくらい男心しか備わってないという確信を得たくらいだ。」
「おお、いいね卯月それ。そうだよ、俺たち男なんだから女の心なんてわからなくても問題ないよな!」
「ああ。今日も俺は漢を見せつけてみせる!」
「カッコイイ!!」
俺と卯月は必死で今の現状にあらがっていた。…じゃないとこの空気に耐えられない。5人中3人(俺と卯月以外)がお通夜のムードが漂い、誰一人喋らない。
「…杏奈さんもいい加減諦めろよ。」
杏奈さん席に座ってから顔を手で覆い一秒たりとも動いてない。
「……。」
「たまたまだって、誰も杏奈さんに乙女心がないなんて思ってないし。」
ビクン!
「まぁ、杏奈さん以外男しか残ってないけど、」
ビクン!ビクン!
「俺たちと一緒なら別に問題ないだろ?」
「わーーー!!!」
杏奈さんが机に突っ伏して泣いた。……何故?
「……もう女の子やめる。」
「何を言い出す⁉︎」
「…僕は山下杏奈、男だ。」
「いやいや、何言ってんだ。」
「乙女心のわからない女の子でいるより自分が男だと思い込み必死で現実逃避して心の安定をはかっているんだ…察してやれ。」
「卯月、それは分かってる。ただ、杏奈さんの前で言うな。…見ろ、恥ずかしさで顔を真っ赤にして身動き一つしなくなっただろ!」
「事実を言ったまでだ。ちなみに逃避をはかっている時点で男ではないぞ。」
「逃げ場すら奪うようなこと言うな!…ほらみろ、可哀想なくらい泣きじゃくってんだろうが!」
俺は必死で杏奈さんをあやす。
「しっかし、ふざけてるよな。あれとか見ろよ。」
杏奈さんをあやす事5分、やっと落ち着いてきたので辺りを観察した。
「ああ、何が《乙女心分かってる?診断ワースト5位!》だ、デカデカと壁に貼って。」
「しかも、乙女心分かってる(?)から()の方を抜きやがった。…舐めやがって。」
「…ぐすっ、僕は意味は合ってると思う。」
「杏奈さん、まだ男の子でいるつもり?」
「…この補習が終わるまで。」
まだ立ち直れてないのか俺から服を離さない。
「…気の済むまでやりなさい。」
俺は杏奈さんの頭を撫でる。こんな可愛い男の子はいない。…ふと、栗色の髪の男子を思い出す。……いやもう一人いたか。
「…明日まで男の子でいようかな?」
何故か杏奈さんがそんな事を言い出すが俺は拒否する。
「いや、お腹いっぱい、2人もいらない。…杏奈さんは女の子のほうが10倍可愛いよ。」
「…今日だけにしときます。」
杏奈さんは背中に顔を埋めてくる。…背中が濡れる、鼻水じゃなきゃいいが。
「そういや、杏奈さん。あの本どんなだった?」
昨日ハゴ姉に渡された本、相当分厚かったからまだ読み終えてはないだろうけど。
「あれですか!凄かったですよ!最後の最後まで先が見えませんでした!」
全部読んだのかよ!
「凄かったですよ!1ページめくる度に死体も反抗も全て変わるんです。被害者の殺害理由、死んだ人との関係、殺害方法も。…もう、この本に殺害方法の全てが書いてあると言われても信じられます。」
「……なかなかエグそうだな。」
「川君じゃちょっとキツイかもしれませんね。読んでて重度の人間不信になりそうでしたから。」
「大丈夫か⁉︎」
「はい!伊達にミステリマニアじゃないですよ!…読んでる最中は涙と笑顔が止まりませんでしたけど。」
「それは大丈夫じゃない!」
「…特に主人公の不快さが半端なかったです。主人公、度々死にかけるんですけど物理法則を利用して生き残るんです。」
「無視してじゃないのか。」
「1ページ目から防弾チョッキ、ヘルメット、スタンガンなんかフル装備で登場します。しかも、危険な所には絶対に近付かない、必ず囮を用意する、前もっての対策に抜かりがない。会話数もほとんどないです。」
「…主人公なのか。」
「主人公です。必ず生き残りますから。そして、いちいち言う言葉が憎いです。」
「どんな?」
「《ふぅ、お前に生への執着はないのか?》《準備を怠った奴の末路だな。》《5ページ先を見て動け、そうすりゃ助かる。》」
「これほとんど犯人じゃなく被害者に言ってるよな。あと、最後のは作者だろ。」
「犯人を刺激するような事を主人公は言いません。徹底的に逃げてましたから。」
「極まってんな。」
「本当です。結局、犯人と主人公のみが最後まで生き残りますから。そして、それ以外の登場人物は全員死にます。まさに計算され尽くした物語です。」
「はぁ。凄いな。」
「はい。あ、でも最後のページだけ気になるんですよ。」
「?」
「426ページで残り2人になった時私は最後の427ページ目で犯人か主人公のどちらかが死ぬと思ってたんですよ。ですが、最後はほぼ、犯人と手を繋いだ主人公の語りで終わってしまうんです。」
「待て!何故犯人と主人公が手を繋ぐ⁉︎」
「それは読んでみないとわかりません。…それでですね。主人公は言うんです。《これは終わりの始まりだ。この中に自分を見つける事が出来るなら一度死んだ自分を生き返らせる事が出来たんじゃないだろうか。殺意も思想も行動も失敗も全てが違った僕ならきっと、願わくば明日もまた生きられますように。》」
「………。」
「これで終わりです。本当に失礼なんですけどここまで1ページ1殺をしてきたなら最後まで貫いてほしかったです。」
「杏奈さんちなみにこの本の中で自殺で死んだ被害者はいたか?」
「?……えーと、いませんでしたよ。」
「なら、ちゃんと最後の427ページ目も死んでるよ。」
「え?なんでですか?」
「いい、気にしなくて。杏奈さんが無事で良かった。……ハゴ姉、なんてもん杏奈さんに渡すんだよ。」
俺は杏奈さんの頭をぎゅっと抱き締めた。
「……川君、僕、死にそうです。」
「そんなに強くしてない。」
「…いいえ、強すぎます。…乙女心、勉強して下さい。」
「…あいにくワースト5位なもんで。」
「……こんな死に方、本にも載ってなかったです。」
「……?」
「…川君。補習、一緒に頑張りましょう。」
「…?おう。」
俺と杏奈さんは補習が始まるのを待つ。