姉所により雷雨
《玄関》
それから数10分経って。
「すまない。遅くなった。」
そう言ってハゴ姉と圓城は階段から降りてきた。
「…本を探すのにどれだけかかってんだ?」
「あ、私の相談にも乗ってもらってましたから。」
圓城の、…なら事件のか。いったい何を頼んできたのか。
ハゴ姉が杏奈さんに本を渡す。
「あの、ありがとうございます。」
「…気にするな。この本を読む事は作者に取っても本望だろう。」
…気になる。
「…どんな本なんだ?」
「1ページごとに人が死ぬ。」
「どんな本⁉︎」
「427ページの本で主人公以外が次々に死んでいく。刺殺他殺絞殺撲殺圧殺黙殺滅殺とあらゆる手段で殺していく犯人とギリギリのところで生き残る主人公で物語が構成されていて、次々に増えていく被害者と容疑者にそこから生まれるストーリー。何故主人公が死なないのかというミステリーと読み進めていくごとに深まる謎。……これ以上言ったら楽しくないな。」
「凄え気になる。」
俺も読ましてもらおうか。そんな事を考えていたらハゴ姉に首を振られた。
「川は多分無理だ。普通の奴は気が滅入って恐らく最後まで読めない。……山下は大丈夫そうだな。」
見ると杏奈さんは目をキラキラと輝かせて本を見ている。
「ほんとーに!ありがとうございます!…川君もありがとうございます。」
「…川君ですと?」
圓城の目が鋭く光る。
「俺は何もしてないよ。読み終わったら内容を聞かせてよ。杏奈さん。」
「…こっちも名前呼びに。」
「……。」
圓城がハゴ姉に語りかける。
「姉御。この二人いつの間に。」
「ああ。《男子三日会わざれば刮目して見よ》と言うが。」
「はい。川君は一瞬目を離したら何をしてるかわかりませんね。…男はこうやって浮気するんですね。」
「その諺は!男の成長するスピードの速さを見逃さないようにという意味の言葉で!決して!浮気を見逃さないようにと言う意味のカッコ悪い諺じゃない!」
「現にしてるじゃないですか?名前呼びに。」
「それは浮気じゃないし!ずっと仲良くしようって意味で呼び方を変えただけだし!」
「名前呼びに変えたことを取っ掛かりにホップステップジャンプで大人の階段を駆け上がるつもりですね⁉︎」
「しねぇよ!何でそこまで飛躍出来る?俺をもうちょっと信用しろ!」
「刮目!」
「信用しろ!」
見逃さないようにしているつもりなのか両手でメガネを作っている圓城にチョップをかます。
「まったく。」
「…川。」
「なんだ?ハゴ、ろもさん。」
「学生の間は何をしようが構わんが家に迷惑をかけるようなことは控えろ。」
「もちろんだ。」
「……ならいい。」
そう言ってハゴ姉はまた階段を上っていった。
「……圓城、ハゴ姉とは何を話してたんだ?」
「…明日のお楽しみだ。」
「そっか。」