4話仕方がないんです。
放課後、入部試験も終わり俺は山下さんと一緒に帰っていた。
「痛ってー。ったく全員本気で切れるんだもんな。」
「あの、大丈夫ですか?」
「大丈夫大丈夫、ってかボディーガードが心配されてちゃダメだな。」
「そんな事はないですよ。今の状態で心配しないほうがおかしいですよ。まぁ、その人達が怒る気持ちは解りますけど。」
「そうか?」
「だって今日の入部人数0人なんでしょ。」
「……ぬぅ。」
そうなんだ、今日の入部合格者は0人。別に時間切れとかじゃないぞ。まぁ、蒼夜は学校外にいたから捕まえるのは不可能で圓城はどこかに隠れているみたいで見つからず俺だけが追われるはめになったんだ。でもな、いくらなんでも人数がひどいんだ!学校内を生徒が200人(去年の倍)走り回るんだぜ!いくら校舎が広くても流石に見つかるし、手にはバットや箒をもって、日頃の恨みかなんか知らないがボコる気満々だった。
そりゃ逃げるさ!最初にいた音楽室はすぐ見つかり、科学準備室、体育館、校長室、ロッカーとかに隠れたりしながら色々逃げたんだ。
《1時間前》
「探せ!近くにいるはずだ!」
「クソッ!あと、15分しかないのに。」
数人の生徒が廊下を走り抜けていく。
「……。」
廊下の天井に張り付いていた俺は下に降りる。
「ハァ…ハァ…流石にきついな。」
俺は携帯を取り出し圓城に電話をかけた。
プルルルッガチャ。
「何だ?もう捕まったのか。貴様は罰として明日からセーラー服で来い!」
「どんな罰だよ!てか、部員は欲しくないのかよ!」
ちなみにうちの学校の制服は男子学ラン、女子ブレザーだ。
「貴様を捕まえる程度のやつはいらん。最低でも蒼夜か私くらいを捕まえてほしいものだ。」
「……蒼夜は学校外にいるぞ。」
チクってみた。
「流石だ。奴の情報速度は並じゃないな。」
いいのかよ!クソッ!俺も逃げるべきだった。
「今お前は何処にいるんだ?何か人の声が聞こえるけど。」
「ふん!貴様には教えん、探偵部の部員なら自分で探してみろ。ブチッ!ツーツー。」
切りやがった。マジでどうする、捕まったら明日からセーラー服で学校に行かなければいけないし(圓城はやるといったらやる奴だ。)だが、もう逃げる場所も限られてきた。
「……やるしかないか。」
俺は急いで屋上に向かった。
《屋上》
「ハァ…ハァ…ついに追い詰めたぞ天野!」
「観念しろよ、このボケが!」
屋上にぞろぞろと人が集まっていく。……今だいたい100人くらいかな?
「まぁ、待てよ!お前等知ってんのか?俺を捕まえて部員になれるのは1人だけだぞ?」
「うるせぇ!そんなの早い者勝ちに決まってんだろ!」
ガタイの良い男子生徒が怒鳴り俺に迫ろうとする。
「だから待てよ!いくらここが広くても暴れたりしたら誰か怪我するぞ。……そうなると圓城が悲しむぞ。」
そのひと言で騒ぎが静まりかえる。……本当は絶対ないが。
「じ、じゃあどうするんだよ?」
「もう時間もないし俺も逃げる気はない。」
これが最後のチャンスだ。
「お前等だけで決める方法でもいいが、それだと恨みや反感を買うぞ。」
「「「「……。」」」」
「流石に圓城も今年の部員は1人だけなんてする気はないと思う。たぶん、あと1回はすると思う。」
「「「「お~!!」」」」
……知らないが。
「だから今回は俺に決めさせてくれ。」
これ以外に俺が助かる方法ない!
「じゃあ誰に決めるつもりだ!」
「……まだわからん。全員が見えるように円になってくれ!」
ここにいる皆に俺を中心に広がってもらった。100人くらいの人数に全方位から見られるのはなんか気持ち悪い、おかげて皆の顔が見えるようになったが。
「おら!天野!俺にしろ!」
「天野!圓城さんは俺を求めてるんだ!俺にしろ!」
知るか!俺は自分が助かるためにしてんだよ!……よし!いた。俺は一人の生徒の前に向かった。
「まったく、いなかったらどうしようかと思ったぜ。」
「へー、天野先輩は僕に入って欲しかったんですか?」
「あぁ、お前は今日圓城に話し掛けてきた1年。」
「流石は圓城先輩が選んだ人だ、見る目がありますね。」
こいつ、全然褒める気ねぇな。
「お前は圓城を捕まえるのかと思ったがな。じゃないと本人には認めてもらえないぞ。」
「いれば捕まえてます。全員と連絡とって探しましたが見つかりませんでした、……恐らくもう学校外じゃないですか?」
ふむ、捜査能力は結構あるみたいだな。こいつが部員でいいんじゃないかな?ふと、そう思ったがセーラー服姿の自分を想像し、首を振るう。まぁ、観察力もないしな、次の試験で頑張れ1年。
「お前、捜査能力はありそうだが、観察力が足りないな。あいつは逃げも隠れもしねぇよ。……変装はするけどな。」
俺は1年の横にいる男子生徒の両手をつかんだ。
「掴んだ相手が誰だろうと部員にするんだよな、……圓城。」
「はい!もちろんです。」
いつ聞いても聞き慣れないエンジェルボイスの声で応えた。
「「「「なに~!!」」」」
そこには学ランを着てカツラとメガネを付けた圓城がいた。他の生徒は声を張り上げて驚いている。隣の1年も口を開けてポカンとしている。……横にいるんだから気付けよ1年。
「よく私だとわかりましたね。」
両手を離さないまま、ニコニコと笑顔で聞いてくる。
「まぁな、体格とか歩き方とかでな。
……普通わかるだろ。」
ぶっちゃけ男子にしては1人だけ小さいので目立つ。
「……本当は?」
圓城の表情が笑顔のまま鋭くなる。掴んだ両手もさらに強く握りしめてきた。 俺は圓城に聞こえるか聞こえない程度の声で答える。
「電話の時、周りに人がいるのに素の声で喋ってたろ?あと、いきなり女装しろなんて言うからなぁ、もしかしたらって思ったんだよ。半分賭けだったけど。」
人前でも自分だとバレない自信があった。そして、女装しろなんて普通言わない事を言ったことから、これはヒントなんじゃないかと思ったわけだ!圓城はけっこう無茶は言うが無理な事は言わない奴だ。
ちゃんとヒントを残してくれるし、時には助けてくれる。
「ふふ、流石はうちの部員です。50点あげます。」
笑顔が柔らかくなった。どうやら赤点は免れたみたいだ。
「意外と低いな。何がいけなかったんだよ?」
圓城は見つけたし、女装を免れたんだから何も問題ないだろ。
「私を捕まえられたのは私が屋上に来たからですよ?それに、勝手に入部試験の約束なんてするし、……それにこんな人前で両手握ってくるし。」
急に俯いて話し始めた。え?何恥ずかしがってんのこいつ?あれ、よく見たら周りの生徒の視線が痛い。なんか両手がさらに強く握りしめられているみたいだし。
「いやいや、だってお前の右手にも入部資格があるんだぜ?こうしないと部員が……あっ!」
そう、罰があるのは俺だけなんだから。わざわざ両手を掴む必要はなかったんだ。
「そうです。本来なら部員が2人増えてたかもしれないのに。」
あっれー?皆の視線がヤバくない?
「でも、入部試験のルール条件は間違ってないですし、……仕方ないですよね。」
顔をあげた圓城の目には涙が。
「今回は部員数は0人って事で終了とします!」
俺の額からは大量の汗が出てきた。
「そうか、天野のせいだったのか。」
「俺は部員になれたのに。」
次々に男子が武器を両手に持ち直して迫ってくる。
「いやいや、お前等は圓城を見つけてないじゃん!ってか圓城も何とか言えよ!」
「はい!これだけ騒いだのに入部部員0なんです。……責任とって下さいね。」
「言って欲しい事はそんな事じねぇ!」
……この為に手を離さなかったんだな、逃がさないために。
「「「「死ねぇぇぇぇ!!」」」」
《現在》
「……思い出したが、俺は悪くないぞ。全部圓城が悪い。」
あいつが怒りの矛先を全部俺に擦り付けたのがいけないんだ!
「圓城さんのせいにしたら悪いですよ。あんなに優しい人に。」
「山下さんは知らないんだよ。あいつは天使の仮面を被っちゃいるが、外せば口から毒吐くし、目から冷気を垂れ流す悪魔だ。」
文字通りな。……文字通り!
「幼馴染みだからってそれは言い過ぎですよ。第一、圓城さんが人の悪口を言ってる所なんて聞いたことないですよ?」
貴女の事を精神EとかMだとか言ってましたが?
「知らないだけだよ。」
……本人には言えないな。
「ふふふ。そんな事言ってもいつも一緒にいますよね、結局仲良しなんですよね。」
何だ?その顔は、まるで子供の言い訳を優しく聞いてくれる母親みたいな。
「違うって!俺が圓城といるのは圓城の作るクイズとか謎解きが好きだからだ。」
「えっと、大胆な告白ですか?……そういうのは本人に言った方がいいですよ。」
「何言ってんだ!クイズ!クイズがすきなの!」
ないって!圓城を好きになる事は絶対にない!
「俺が探偵部に入ったのだって、入部試験の内容が面白かったから参加しただけなのに合格人数が少ないからって無理矢理入部させられたんだぞ?」
「でも、部活動は真面目にしてるんですよね。」
「まぁ、入ったからにはな。……てか真面目にしないと男子に殺される。」
「はい!そして、今も私をボディーガードしてくれてますもんね。」
「……頼りないがな。まぁ、もう少しの辛抱だ。すぐに圓城が犯人を捕まえてくれるよ。」
犯人はわかってるしな。
「そんな事ないです!天野君がいてくれるお陰でいつも帰り道は不安でしたけど今は全然大丈夫です!」
「そう言ってもらえると助かる。」
本当ならその不安もすぐに取り除けるのにな。罪悪感で心が痛む。
「あ、あの、それでですね。……今日、少し寄り道したい所があるんですが、……着いてきてくれますか?」
「ん?あぁ、別にいいけど。何処に?」
まぁ、少しくらいの寄り道なら大丈夫だろ。
「えっと、本屋です。」
少し恥ずかしそうに言う山下さん。そういや圓城が趣味は読書とも言ってたな。
「わかった。じゃあ行くか。」
「はい!」