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吸血鬼V2

《音楽室》


本当だったら意識を失うとかあるのだろうが、痛みと気持ち悪さで体が異常に熱く、意識だけはしっかりとしていた。


「天野くん!大丈夫⁈」


山田さんが俺に駆け寄ってくるがそれを突き飛ばす。


「ッ!…逃げろ!」


思うように息継ぎが出来ず声が掠れる。だが何とか言葉になった声で山田さんに逃げるように伝える。この場所はいくら声を出しても外に漏れないのだから。


「…わかった。すぐ人を呼んでくる。」


「それはさせないよ。」


山田さんが扉の方に顔を向けた瞬間に少年が扉を遮って前に立つ。


「…邪魔。」


「や…ま」


山田さんは少年の方に向かって突っ込んで行った。止めないと相手はアスリート並みの身体能力を持つ化け物だ。


「…分身。」


「わっか!ゲホッゲホッ!」


山田さんが2人に別れた!…恐らく、超高速で動いているのだろうが目には紛れもなく2人だ。


「…どっちか、」


「いや、遅いよ。」


ヒュン!


ベキッ!


2人もいたはずの山田さんが今度は消え、扉とは反対の壁に叩きつけられていた。


「や…まださん!」


山田さんが地面に倒れた後ピクリともしない。


「ふぅ、君たちはやっぱり遅くて脆いね。なんでそんなに弱くて僕たちよりも生きているのか不思議だよ。…まぁ、食料問題も解決したからいいか。」


…本当にこいつは何を言ってるんだ。何一つ理解が出来ない。


「…少し、摘み食いをしようかな。」


そう言って少年は徐に倒れている山田さんの方に向かって歩き出した。


「まっ!まて!」


このまま行かせたら山田さんが何かされる!腹を押さえながら俺は少年の足を掴む。


ベキッ!


掴んだ腕がくの字に折れ曲がった。


「くっあああああああ!!!!」


「邪魔しないでよ。…あとで君も食べてあげるから。」


「ッ!…ふざっ!」


それでも止めようと俺はもう片方の手を伸ばそうとして


バキンッ!


「アアアアアアア!!!!」


もう片方の腕も一瞬で叩き折られた。…い、痛みでどうにかなりそうだ。


「さすがに両手が使えなければ止められないよね?」


少年は俺を見下ろしながら笑い俺に背を向けた。…もう邪魔出来ないと、


グイッ!



…それでも少年の動きを止めた。


「…そこまでするか?」


少年の足首に噛み付いて。


「ひかっ…へるか!」


「…弱くて物分かりも悪いくせに。…離せ!」


噛み付いている足を俺ごと持ち上げ後ろ回し蹴りの要領で俺を吹き飛ばす。


ダンッ!


俺は扉に叩きつけられ凄まじい音と共に背中に衝撃が走る。


「ッ!!!」


もう声さえ出せず、うずくまった。


「…まったく。血が出たじゃないか。…さてと、」


少しの間足をさすっていたが、本来の目的を思い出したのか少年は山田さんに近づき首元に歯を当てる。


「イタダキマス。」


ブチュッ!!ムシャ!!


山田さんの首が真っ赤に染まる。噛む、じゃない食いちぎった。そこから溢れる血を少年は美味しそうに飲み続ける。


「…あ、あ、やめろ!…山田さんが死ぬ!」


「…ゴク!ごく!…ふぅ、そう慌てるな。…大丈夫、今殺したりしないよ。血は鮮度が大事だからね。」


少年は真っ赤になった口を手で拭いながら笑う。そして、自分の手を少し噛み、手から血を滲ませる。それを山田さんの首にかけた。


「な、何を?」


ジュワ!と炭酸がはじけるような勢いで血が泡立ち山田さんの首がみるみる治っていく。


「僕たちの身体の再生が速いのはどうやら血のお陰みたいでね。少しその血をかけてあげればちょっとした傷ならすぐに治るよ。」


少年の言う通り山田さんの首にあった傷、というより抉られた肉が少年の血でほとんど元どおりに戻っていた。…ほんの少し首に噛み跡が残ってるだけだ。


…これが吸血鬼事件の傷か。


「君の傷も治してあげようと思ってたんだけとね。…少しでも動けるようになったら抵抗しそうだ。ここで殺して食うことにした。」


「…人を食うのか?」


「そりゃ食うさ。食べなきゃ死ぬじゃないか?」


「…連れ去られる前までお前も普通の人間だったんだろ!人じゃなくても!他の物でもいいじゃないか!」


「…どうやら、僕たちの事を知らないわけじゃないみたいだね。…5歳から誘拐されてたった一人しか生き残れない部屋に2人で閉じ込められる。光もない音もない生活が20年も続いた。」


「…日記を見たよ。それから少しずつ体が変化したって。」


「…そうだね。全くもって異常にだったよ。光を浴びないせいか色素が抜け落ちて、体の成長は止まる。…眠る事も出来なくなった。」


「………。」


「他にも色々、…だけど一番は食べ物だ。…もう人以外食べられない。」


「…なん、で。」


「…日記を見たならわかるだろ?閉じ込められた僕たちは食べ物すら与えられ(・・・・・・・・・)なかった(・・・・)。そして、部屋から出られるのはたった一人だ。」


…残りの1人は、死体じゃなく、…餌か。


「…僕たちはそうやって生きてきたんだ。20年もの間。」


「……。」


「もう体がね。…そうなっちゃってるんだよ。他の物じゃ吐いてしまう。水すら僕たちは受け付けられないんだよ。」



「……。」


「こんな体にしたあの男は必ず殺す。だけど、それ以上に!……あぁ、騒ぎすぎたか、何人かがこちらに向かってきてる足音がする。」


恐らく俺が叩きつけられた衝撃が響いたんだろう。だけど、


「…なんでわかる?」


ここは防音だぞ。


「…僕たちは耳が良いんだよ。その程度の扉なんてないようなものだ。」


「ハハ!反則だな。お前。」


「普通が一番だよ。…まだ距離はあるみたいだ。さっさと君を殺して逃げさせてもらうよ。ああ、彼女はもらっていくよ。」


「させるか。」


俺は必死に立ち上がる。


「…生きてるのが不思議なくらいなんだけどね。でも、どうするんだい?その壊れた両手で。…出来るならしてみなよ。」


少年は俺の前で面白そうに両手をプラプラさせる。


「立ってるのがやっとだろ?ほら?今なら避けずに受け止めてあげるよ?」


「なら、お言葉に甘えて!」


折れているはずの右手を少年の顔面に叩きつけた。


「なっ⁉︎」


バキッ!!


少年は拳を受けて倒れる。本来なら絶対にくらわないだろう攻撃だった。少年が油断してなければ、そして、


「なっ、なんで手が治ってる⁉︎」


完全な状態の活きた拳じゃなければ。



「…お前が教えてくれたんだぜ。」



俺はほっぺを引っ張り歯を見せる。


「…ああ!!」


少年の血は傷を治す。


「弱いのは認めるが、…物分かりが悪いんじゃない。諦めが悪いんだ!」



山田さんを返してもらう!








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