3話入部試験
昼休みになり俺と蒼夜は食堂でパンを買い部室に向かった。
「おす。圓城話を聞きにきたぜ。」
「遅いぞ、さっさと来い!」
圓城は弁当派なのでそのまま部室に来てずっと待ってたらしい。ちなみに蒼夜は圓城の素を知っている1人である。
「悪いな、遅くなって。飲み物も買ってきた。お茶で良かったか?」
蒼夜がペットボトルを1つ渡す。頼まれたわけでもないのに買ってくるなんてどんだけ気が利くんだよ。てっきり俺の分かと思ってたのに、まぁ、俺は金ないから水道水を飲むが。
「……悪いな、ところで今日の部活動紹介なんだが」
「それだよそれ!いったい何するんだ?」
「今年も暗号解読か?」
それに対してニヤリと笑う。
「まぁ、似たようなものだ。それでな2人は放課後ある場所で待機していてもらいたい。誰にも見つからずにな。」
「ん?そこに来たやつが合格者って事か?」
「……。」
「そんなところだ。詳しい説明は放課後放送で教える。まぁ、楽しみにしていろ!」
「……。」
「わかった。……どうした蒼夜?難しい顔して。」
見ると蒼夜は眉間にシワを寄せて考え込んでいる。
「……いや、何でもない。ところで、部活動勧誘をするって事は今日は依頼を受けないって事か?」
「いや、ちゃんとするぞ。……少し気になる噂が流れているからな。」
「噂?」
「あぁ、吸血鬼が出るという噂だ。」
「は?」
「何でも夜道を一人で歩いていると突然意識を失い目が覚めたら首元に噛まれた痕が残っているとか。」
「何だよそれ!馬鹿馬鹿しい。噂だよ。噂。」
完全に都市伝説じゃん!圓城ともあろう者がなに噂なんかに惑わされてんだよ。
「……うちの学校にも被害者が出てるんだ。それも何人も。」
「マジで?」
「噂が出始めたのは今年からだが、被害は結構前からみたいだ。……襲われるって言っても首に噛まれた痕が残ってるだけだからな、中々騒ぎにならなかったみたいだよ。」
「……で?どうするんだ?」
「もちろん調査するよ。ただ、まだ情報が少ないんでな、蒼夜!生徒に聞き込みしておけ、目撃情報や噂でもいい。あと、襲われた被害者の場所、名前、血液型等もろもろ来週までに頼む!」
「人使い荒いですね。……了解です。」
「あとは、川。お前にだが。」
「なんだ?」
正直、聞き込みとかは苦手だ。まぁ、何が得意かと言われてもないとしか言えないので総てにおいて全力でやることにしているが。
「お前にはストーカーに付き纏われている生徒の警護をしてほしい。」
どうやら別件らしい。
「ボディーガードか。……犯人はわかってるのか?」
基本的にストーカー被害にあっている人に警護なんか付けても逆効果にしかならない事が多い。まぁ、場合によってだが、
「藤井義雄、38歳独身。交友関係ゼロ。現在、仕事はしておらず親と同居、まぁ、よくいるクズだ。証拠もあるし、このまま警察につきだすなり、脅して誰の迷惑のかからない隅っこで生きてもらうもよしなんだが、万が一噂の吸血鬼だとしたらまずいのでな?しばらく様子を見るということで。期限は1週間。」
そう言って俺に資料を渡してくる、
「了解。あ!その生徒は今日どうするんだ?部活動勧誘が終わる間待たせとくのか?」
「いや、待つのはお前だ。彼女はテニス部に所属しているのでな、余裕で間に合う。」
「てことは部活動勧誘が終わってからか、了解。」
俺は貰った資料に目を通す。
2年D組、山下杏奈
運動神経 A
成績 B
人望 B
顔 A
精神 E
財力 C
以上。
「なぁ、圓城。いつも思うんだが資料の作り方雑じゃねぇ?」
彼女の容姿、特徴、趣味、交友関係、調べないといけない大事な事がまったく書いてない。そもそも資料ですらないし!
「そうか?私はそれだけ解れば十分だ。」
「いやいや、山下さんの顔の特徴とか趣味とか探偵ならまずそこらへんから調べるだろ?それがなんでアルファベット判定だよ。」
「……ふぅ、何だまだ学園の生徒の顔と名前も覚えてないのか。」
圓城は食事の手を止めため息を吐いた。
「当たり前だろ。この学校には何人いると思ってるんだ。だいたい圓城は知ってんのかよ?」
「2年D組、山下杏奈、血液型O、栗色の髪のショートでスリーサイズは言わないがボンッ!キュッ!ボンッ!体と成績ともに優秀、テニス部のエースで先生、生徒の評判も良い。趣味は読書とぬいぐるみ集めと可愛らしいな。まぁ、自分を出すのが少し苦手みたいだが交友関係はしっかりしてるぞ、それと彼女はたぶんMだ。」
と勢いよく説明し始めた。聞いたのは俺だが何でこんなに知ってんの?……けど最後のはいらない。
「いやいや、知ってるなら資料に書けよ。」
「馬鹿か、毎日何十件も依頼がくるのにそんなに詳しく書く時間はない。知りたいなら蒼夜に頼め!」
若干切れながら言ってくる。俺はそういう資料や書類を書いたりしないからな。
「蒼夜も知ってのんか?」
「ん?いや1年の男子生徒がまだだ。他は一応覚えているが。」
……そっか、俺が間違ってたのか。
「凄いな、学校の人の情報全て頭にはいってんのか。」
「当然だろ?情報は武器だ、あと金とかコネとかも。」
「なるほど。……ちなみに俺はどんなふうに記憶されているんだ。」
一応幼馴染みだからなだいたいのことは知ってるだろ、客観的に見て俺はどう映るんだろ?……気になる。
「……名前、ミルキーウェイ、クラスX、血液型C、スリーサイズは言わないがキュッ!ボンッ!キュッ!のマッチョ。顔と成績ともに残念。趣味は盗聴と盗撮で先生、生徒からも評判は最悪。交友関係は親指で数えられる人数で探偵部に入ってなければ社会のクズ。……ちなみに好きな人は私だろ。」
「ひとつも合ってない!適当すぎるぞ。」
「流石に気付いたか。だがひとつは合ってるだろ?」
「あ?まぁ、確かに俺は周りからの評判は悪いかもな。」
ぶっちゃけ圓城のせいだがな。
「……何でもない。とりあえず今日の依頼はこれだけだ。二人ともしっかり働けよ!」
「「了解。」」
そして、俺達はまた昼飯に戻った。
ギィー。
古い扉を開け、中に入った。
「ここだな。」
放課後、俺は圓城の指示された場所にやって来た。3階の端にある音楽室、と言っても名前だけで楽器もなく音楽の授業もないので防音設備のあるだけの空き教室になっていてここにはあまり人は来ない。たまに恋人同士でくるやつはいるみたいだが今日はいないみたいだ。
「さて、圓城は今年はどんなことをするんだろうね。」
一人だったせいか、つい声に出して喋ってしまった。思わず辺りを見渡す、ここは窓を全部塞いでしまっていて外からは見えないようになっているが反射的に体が動いてしまった。……恥ずかしい。
俺が扉を閉めて暫く待っていると、スピーカーから放送の音楽が鳴り響く。
「あーあー、……只今から探偵部の入部試験を始めたいとおもいます。参加される方はグラウンドに集合してください。15分後また連絡します。」
いつものエンジェルボイスで放送してきた。とうとう始まるのか、なんだかんだで俺はこういう謎解きやクイズは大好きだ。まぁ、今回は問題を出す側だが内容は何も聞いてないので十分楽しめるはずだ!何てったって圓城の考えるクイズは凄いからな。そして、二度目の放送が鳴り響く。
「はい、お待たせしました。では、現在グラウンドにいる生徒が入部参加者となります。では、入部試験の内容についてご説明します。私達、探偵部が欲しいと思う部員はずばり《捜査能力》の高い生徒です。隠れている人や逃げる人を追い詰めるような人です。」
おや?意外とまともな事言ってるな。
「つまり皆さんにはあるものを探してもらいます。」
そういや蒼夜を昼休みの後見てないな。……同じクラスなのに。
「そう!私達探偵部です!」
ピーンチ!!
ヤバイぞ!いつの間にかイベントに盛り込まれている。
「入部人数は最大3人、私達の右手を掴んだ人が入部合格者です。もちろん最初に掴んだ人だけです。それが先生であっても、動物であってもです。」
俺は急いで蒼夜に電話をする。
「方法は問いません、携帯の使用OK、武器OK、ただし探偵部以外を怪我させたら失格です。」
ぷるるるるる、ガチャ。
「蒼夜!俺だ!今何処にいる?」
「悪い、川。今、電車の中なんだ切るぞ。」
「待てこら!何で電車の中にいる!」
「いや、突然母の親戚の甥が電車に乗りたいらしくてな?俺もそいつには甘くてな。」
「……それ自分の事だよな?!知ってたんだな?何故教えなかった!」
「あー、俺達は探偵部だろ?そういうのは自分で解らないとな。」
「……このままじゃ、俺は右手を汚される。悪けりゃ体とバイバイするかもすれねぇ。」
「……。」
「なぁ、仲間だろ?何とか言ってくれよ。」
「……お土産は何がいい?」
ブチッ、プープー
切っちゃた。
「では、時間は30分です。始め!」
ハァ、どうしよ。