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カケタモノ。

《???》


夜中の人通りの少ないこの場所で、月の光だけが照らされるこの道で……



「こんな所で奇遇だな?」


「…やぁ、こんばんわ。」



……俺は出会った。




「何故ここに?」


「…待ち合わせをしていてね。」


「そっか、…じゃあ時間潰しに少し話をさせてくれ。」


「……。」


「前に部室に行った時話をしただろ?あれでさ、お前だけ矛盾したこと言ってたんだよ。」


「……。」


「俺が聞いた内容はさ。その日、傘をさして出掛けたか?って質問なんだ。ほとんどがYesと答えた。別にNOでもいいんだけど、」


「だけどな、この質問で誰かといるとおかしいんだよ。…だって、」



「……。」



「…俺が質問した人間はさ全員アリバイがない(・・・・・・・・・)やつなんだよね?」


あの時いた人間で誰かといたなら蒼夜の資料にのるはずがないんだ。親や恋人だからとか関係なく。


「……。」


「気になってさ、会いに行ったんだ。その人に、…亡くなってたよ。」



…質問の際、いるはずのない人間といると言った。なのに姫はそいつから嘘を感じなかった。おそらく本人は嘘をついてるつもり(・・・・・・・・・)がなかったんだ(・・・・・)



「…お前、誰といたの?…月宮判。」










男はおもむろにポケットから瓶を取り出す。



「…美しい。」


月にかざしながらそれを見て男は顔を蕩けさる。芸術を見るように、硝子細工を触るように、愛しく優しい言葉を囁く。


「君は世界で一番綺麗だ。」


そう言って男は瓶からそれを取り出す。







被害者の眼球を。



「…君もそう思うだろ?天野。」


「……。」


俺は何も答えない。


「まぁ、まだ彼女の半分も揃ってないんだ。君には理解出来ないかもね。」


「……。」


「僕たちは隠れて付き合っていたんだ。彼女と話して、遊びに行って、卒業したら結婚する約束までして、…毎日がたのしかった。」


そう言いながら目玉を転がす。



「……。」


「…でも、突然彼女に会えなくなった。」


「……。」


「…彼女が電車に引かれたんだ。もう姿がわからないくらいぐちゃぐちゃに。」


「……。」


「信じられなかった。あんなに綺麗だった彼女が僕に笑いかけてくれた彼女が…もう会えないなんて。」


「……。」


「苦しくて気が狂いそうで彼女のことばかり考えていた。そんなある日、…見つけたんだ。来る日も来る日も思い、願い続けた彼女に………」


「……。」


「他の女性の身体の一部に。」


「……。」


「彼女は死んでなかった。バラバラになっても僕に会うために、僕に見つけてもらうために彼女は現れたんだ。」


「……。」


「僕は彼女を探してもう一度彼女に会う。…そのために、すべての彼女を揃えないといけないんだ。……わかるよね?」


「…そのために他の女性から部位を奪うってか?彼女とそっくりな部分を。あ?月宮!!」


そいつは細めた目でギラつかせながら俺を睨む。


「他の女性じゃない、彼女を見つけたんだ。奪うって?彼女のいる場所は僕のそばなんだよ!」


「…なんでだよ。そんなことしても彼女は戻ってこないんだぞ?そもそも、すべて集めても彼女の心はそこにないだろうが!」


「ふふ。あるよ。彼女の心は…僕の中に。」


「……。」


もう、止められないのか。


「…それよりも何故ここががわかったんだい?君が彼女を見つけることが出来るなんてとても思えなかったのに。」


ここはとある裏通り。ここに家への近道で通る少女がいる。


……よく似た部位を持つ。


「…探したのさ。色んな人を見ながら彼女の写真を持って。」


「それで見つけたと?ふざけるな!僕以外に彼女を見分けられるはずがない!」


「…こうしてここにいるのが証拠だろう?…月宮、ただ、似ているだけなんだ。もう、彼女は何処にもーー」


「黙れ。」


ベキッ!


…俺の脇腹に月宮の廻し蹴りが突き刺さる。


「グッガァッ!!」


「お前に何がわかる?」


髪を掴まれ顔に膝を叩き込まれる。


「ングッ!」


「大切な人を…自分の人生をその人に使いたいと思った人を…いきなり失う気持ちが!お前にわかるのか⁉︎」


思いっきり振りかぶった右の拳が俺の顔に突き刺さる。


「ガッ⁉︎」


その勢いで地面に打ち付けられて倒れる。


「知りもしないで軽い気持ちでそんな言葉を吐くな!…何も知らないくせに。」


倒れた俺を月宮は蹴る。


「そうやって!そうやって!僕を馬鹿にしてるんだろ!」


何度も何度も。


痛みはある。だが、それ以上に…俺は蹴られながら安堵もしていた。


「…理解出来るさ。」


「ッ!まだ言うか⁉︎」


頭を踏みつけられた。


「…彼女は死んだんだよ。」


「うるさい!黙れ!」


…最初は狂ってると思った。…もうどうしようもないと。でも…


「…何度も言われたんだろ?」


「ああそうさ!だが、彼女をみつけるまでだ!」


…ちゃんと傷ついてる。ちゃんと彼女の死を苦しみながらも受け止めようと努力してる。…無理だとわかってるのに。


「彼女の死を受け止める必要なんてないだろ?」


「だから!彼女は死んでないってーー」


「心の中で何度も何度も思い描き続けてただろ?…彼女の笑顔を。」


「……。」


もう会えない喪失感。


「…忘れられるはずがない思い出を、それこそ繰り返し繰り返し、」


幸せだった記憶を辿る幸福感。


「他の女性に彼女の面影を見つけてしまえるくらい…何度も。」


繰り返す事で延々と続く幸福感と喪失感。…やめることの出来ない負の連鎖だ。


「…彼女が死んだことを何度も言われて、受け入れろと言われて、…忘れる事も出来なくて、彼女のことを考えて、苦しくて。」


「……。」


踏んでる足にを払い、立ち上がる。


「やっと見つけた拠り所がそれかよ!」


「ッ!!」


俺は月宮を睨む。


「月宮!彼女の死を受け入れなくていいじゃないか!誰が何と言っても、苦しくても否定しろよ!……お前が!…彼女の事を忘れるなよ!」


「忘れてなんか!」


「彼女以外に目を向けちまってんだろうが!!」


「っ⁉︎」


俺は月宮に一歩ずつ近づく。


「耐え切れなくなったのか知らねぇ!十分苦しんだのか知らねぇ!それでも彼女への思いをこんな事して逃げんじゃねぇ!」


また一歩。


「彼女が死んでないと叫べるなら!世界中に探しに行け!」


また一歩。


「彼女の笑顔を覚えてるなら!どうして笑っていてくれたかまで思い出せ!」


「……。」


そして、目の前まで。


「お前、さっき言ったじゃないか。彼女の心は僕の中にあるって。…彼女の代わりなんていないだろ。」


「う、うわぁぁ!!!!!」


月宮が膝をつき両手で頭を抱えて叫ぶ。


「その苦しさは背負って生きろよ。それも彼女がくれたもんだろうが。」


俺は月宮にボイスレコーダーを渡す。


「月宮さ、彼女の家に行ってないだろ?俺を彼氏と勘違いして彼女の親がさ渡してくれたんだ。…彼女の伝えたかった言葉を。」


「えっ!!」


月宮が震える手で再生ボタンを押す。


「……聞こえますか?実は、私には付き合っている彼氏がいます。…優しくて、温かくて、いつも私のことを見てくれるとても大好きな彼氏です。そう、あなたです。…これを聞いているってことは私の仕掛けたなぞなぞにきづいたのかな?…誕生日おめでとう。恥ずかしくて普段言えなかった事をここで暴露します。…私はとりあえず逃げます。捕まえてください。そして、怒らずに物凄く抱きしめてください。…では、あなたの好きな所から………」


「……。」


「お前の誕生日に向けてのサプライズだったんだろうな。…実行に移す前に……いや、ちゃんと届いたな。」


俺の話なんかすでに聞いておらずボイスレコーダーを片耳に当ててずっとすすり泣いている。


5分ほど月宮に対しての告白を続けてようやく最後、



「……以上で暴露終了です。大久伊沙だいく・いずなでした。…必ず、捕まえてね。」



そこでボイスレコーダーは止まった。あとに聞こえるのは月宮の泣き声だけ、


「…ック、…ヒック、…。」


「…彼女はおまえにこんな事をしてほしかったわけじゃないぞ。」


「……。」


「お前のことを見てくれてーー」


「うるさい。」


「……。」


「うるさいんだよ。…彼女の事は僕が一番わかってる。」


「…はっ!」


「もう僕は彼女を見失わない。」


「…だからって死んでにげたりするなよ。」


「…彼女は死んでない。」


「……。」


「受け入れてたまるか。絶対に探し出す。」


「…そうかい。」


「…天野は変なやつだな。…普通、ここは止めて彼女の死を認めさせるだろ?」


「…他人にどうこう言われても納得なんか出来ないだろ。」


「…まったくだ。」


「…どうするんだ?」


「自主するよ。彼女を探すのはその後だ。」


「…辛いぞ。」


「…それでも、まずはそこからだ。…自分のためにも。」


「…そっか。」


「…後のこと頼んでいいか?」


「…わかった。」






俺と月宮はここで別れた。







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