全ては思惑通りに
《必殺技愛好会部室》
「いったい何しにきたんだい?」
「いや、少し話をしにね?」
俺は頭をかきながら愛想笑いで返す。…間違いなくこの中に犯人がいる。俺は姫をみる。
俺のアイコンタクトに姫が頷く。もし誰かが嘘をつけば姫が俺の背中をつねるように頼んでいる。
さあ、こっからが本番だ!
NO.2 轟轟
髪は坊主(昨日の必殺技で)肌は日焼けしていて意外とイケメン。
「昨日、聞けなかったんだけど、なんで必殺技愛好会になんて入ったんだ?」
実は轟は同じクラスだ。
「ふっ!そんなのカッコイイからに決まってるだろ!」
「イテッ!」
……。
「ほら、あの技を出す時の快感ってやつ?マジでやり出したら止まらなくてさ。」
「イテッ!」
「しかも、以外と実践的でさ、」
「イテッ!」
「やりがいもあるし。」
「イテッ!」
「ここにいると楽しいんだ。」
「……。」
「天野も入るか?歓迎するぜ?」
「イテッ!……轟。」
俺は轟の首に腕をかける。
「嘘つきすぎだ!お前!」
「天野やめろ!首が締まる!てかさっきから痛い痛い言い過ぎ!」
「うるせえ!誰のせいだと思ってる!…お前この愛好会、別の目的で入ったろ?」
「…違う。」
イテッ!
「女か?」
「だから違うって。」
イテッ!…この愛好会で女子って。
「…山田麻也さんねぇ。」
「はぁ⁉︎天野、何言ってんの?全然違うし!」
イタイイタイ!姫!グリグリしすぎ!
「…ちなみにだけどさ、…協力するぜ?探偵部が全力で。」
「マジで頼む!」
……即答だな。
「…お前、髪切って大丈夫だったのかよ。」
「…その時のノリで。…自分で髪を切ったのなんて初めてだったぜ。」
…まぁ、後悔してないならいいや。
「…じゃあ、この愛好会のメンバーについて軽く教えてくれ。」
「まかせろ!…しっかり頼むぜ?」
「おう。」
そして、簡単にだが残り3人の事を聞いた。
「あ、轟。お前さ3月14日の夜に傘をさして何処かに行ったか?」
「おう。あの日は急な雨だったからなカラオケで歌って暇つぶしてたぜ!止まなかったから傘さして帰ったけど。」
……嘘なしか。可能性はあるのか。
「山田さんの事はいつから好きなんだ?」
「…なんか話が飛びすぎじゃね?」
「これで最後だ。」
「…4ヶ月前だよ。」
「…サンキュー。」
俺は轟から離れる。
補足、轟は山田さんが好き。
NO.3 春野一樹
背が高いがひょろっとしてる。かめはめ波を出したあの人だ。轟の話だと声真似がめちゃくちゃ上手いんだと。…超同感だ。
「春野君。声真似ってどれくらい出来るんだ?」
「そうですね。…練習すれば誰でもいけます。」
「マジで!」
すげえ。じゃあもしかして…
「圓城の声真似とかも」
「はい♪出来ますよ♪」
「「ブフっ⁉︎」」
俺と姫が吹く。
「すげえ!マジで圓城の声だ!」
「確かに、そっくりね。」
「姫、もしかして違いわからなかったのか?」
「…たぶん、比べないと自信がないわ。」
…それは相当だな。
「驚いてくれました?」
春野君はまだ圓城の声で喋っている。
「ちなみになんだが春野君。」
「なんですか?」
「今出来てるってことは圓城の声真似、練習したんだ。」
「……。」
「何のために?」
「……。」
「春野君、もしかして…」
「あ!天野君!今日は何しに来たんだい?」
「あ、そうだった。3月14日の夜に傘をさして何処かに行ったか?」
「え?まぁ、買い物に。…何処かで会いました?」
「いや、会ってないよ。」
「…そうですか。」
春野君はホッとしたように呟く。…
「何かあったんですか?」
「いや、少し気になることがあってな。それで春野君、圓城の件なんだけどーー」
「も!もう用がないなら失礼するよ。」
そう言って春野君は凄い勢いで部室を出て行った。…まだ、聞くことがあったんだけど。
補足、春野君は圓城が好き。
NO.4 月宮伴
短髪の髪に細目が印象的。轟の話だと彼女持ちらしい。
「月宮、…もしかして月宮円と兄弟?」
「はい、姉さんです。実は双子なんです。」
「嘘!」
似てねぇー、目は細いし、髪短いし、
「本当ですよ。髪伸ばして目を開けば結構そっくりですよ。」
「へー、そっくりか。…」
…はっ、まさか!
「お前、心読めるんじゃ。」
「あはは、読めませんよ。」
…良かった。
「月宮…君はもしかして、姉と間違われないように髪を短くしてんの?」
「まぁ、それもあるね。…自分で言うのもなんだけど少し女顔だからね、なるべく短く切ってるんだ。」
「へー、自分で?」
「いや、美容院で、髪を切った事なんてないよ。」
イテッ!
「…もしかして彼女に切ってもらったりしてんの?」
「…まぁ、何回かね。あれ?彼女いること知ってたの?」
…憎らしい!
「ちょっと聞いてね。…美人?」
「世界一!携帯に写真あるけど見る?」
そう言って月宮君は携帯を俺に見せてくる。
「…うお、マジで美人だ。」
…?初めてのはずだけど、どっかで見たことあるような。
「しばらく会えてなかったからね!最近はいつも一緒にいるよ!」
「へー。」
「彼女が可愛くって!」
…これは長くなる。
「あのさ月宮君!3月14日の夜に傘をさして何処かに行ったか?」
「うん。その日の夜は彼女と二人で会ってたよ、…ずっと見つめあってね。」
…憎い!
「ありがとう。じゃあな!」
俺は月宮君から逃げ出した。
補足、月宮君は彼女が超好き。
NO.5 山田麻也
黒髪で小柄な少女。必殺技愛好会の部長でうちの学校の《最強》とまともに戦うことが出来る生徒の1人らしい。
「なんでこんな愛好会作ったんだ?」
必殺技の練習なんて。見た感じそんな事をするような少女には全然見えない。
「ある男を倒すため。そして、この手で欲しいものを掴むため!」
そう言って山田さんは顔の前で握りこぶしを作る。
…あ、納得。これは愛好会を作るわ。
「必殺技を喧嘩に使うつもりか?昨日見してもらったけどあれは確かにモノマネだぞ?」
「二重の極み」
パン!
山田さんの前にあった机が粉々に砕けた。
「……。」
「…まだ、上級は見てないでしょ。」
「し、失礼しました!」
やばい!この人凄くやばい!というか上級って!
「私はあいつを必ず倒すの。そのためにはやっぱり一撃必殺を覚えないと勝てないから。」
…絶対もう勝てるって。最強ってどんだけ強いんだよ。
「…ちなみに欲しいものってなんだ?」
「…最強。」
らしい!
「一度勝負してみれば?」
「…昨日負けた。」
「早っ!」
てかあれで勝てないの?
「…私は200発くらい殴ったのにケロリとしてあいつはデコピン一発で私を気絶させた。」
「もう諦めろ!そいつ人間じゃない!」
「…でも、」
「なんか理由でもあんの?」
親の敵とか、やっぱり最強は捨て難いのか。
「倒すことが出来たら、……惚れてやるって。」
「…轟すまん!」
「?何故、轟の名前が出る。」
「あ、いやこっちの話、ちなみに3月14日の夜に傘をさして何処かに行ったか?」
「…いや、行ってない。雨が降ってたから。」
「…そっか。」
山田さんは違うみたいだな。
「山田さん。俺がその最強にも効きそうな必殺技を教えてやるよ。」
「なっ!本当に⁈」
「ああ、まずは、ーーーー」
それを教えると山田さんはすぐ様部室から出て行った。
補足、山田さんは最強が好き。
NO.6 月宮円
…こいつで最後だ。
「酷いわね。私も容疑者の1人なの?」
「一応な、てか何でここにいるんだ?」
俺達は容疑者リストを蒼夜からもらってかなり減らしたのに。月宮はもうここまで調べたのか?
「…忘れたの?私はあなたの前の席よ。」
「俺の努力が⁉︎」
心読まれてた!あんなに頑張ったのに!
「くっ⁉︎月宮君とえらい違いだ。」
「当たり前でしょ?双子だからって中身まで似ないわよ。…見た目女の子でも中身も女の子でも体は男の子なんて子もいるんだから。ねぇ?」
ブチッ!
姫さん⁈背中から凄い音がしたんですけど?超痛いんですけど⁉︎
「後ろに隠れて可愛いわね?大好きな人の背中はそんなに素敵?」
ミチ!!ミチッ!!
姫!これ本当に嘘だからつねってんの⁈もう少し加減を!
「サポート役に徹してるように見えて。実は頼られてめちゃくちゃ嬉しいのよね?」
ひ、姫。今掴んでるの背骨。…それつねられるのはちょっと。
「だって好きなんだもんね?」
ベキっ!
「いだああああああ!!!」
俺は我慢出来ずに倒れこむ。あまりの痛みでもう背中がどうなってるのかわからない。
「違う。」
「あらそう。別に興味ないわ。」
「……。」
「……。」
二人は無言で睨み合う。
へへっ、もういいやこの二人は。俺は月宮に事件の日の事を聞いてみる。
「月宮、あのさ。」
「…先に言っておくけど私は犯人じゃないわ。」
すべて言う前に言われてしまった。…姫から反応なし。聞くまでもないのか。
「というよりこの中に犯人はいないわ。」
「は?なんでだよ?」
俺達は1人1人に確認している。あやしい奴もいる。なのになんで。
「…誰かを傷つけたか聞いたの。」
なるほど、それなら確かに犯人を聞きだせる。…姫にもそれでやってもらえばよかった。
「で結果は?」
「誰1人、彼女達のことを考えたひとがいないの。…ありえないわよね。こんなの。」
「確かに。」
「おそらく、黒野君の資料が間違ってたか、圓城さんの推理がはずれたかね。」
もう一度最初からか。……。
「月宮、弟だからって隠したりしてないよな?」
「は?するわけないじゃない。私は家族の情より家族のお金を大事にするわ。」
「それはそれで心配だな。」
「それに判は基本、彼女のことしか考えてないから。」
「あ、それはなんかわかる。」
「昔は彼女の事照れて話したりしなかったけど、今は惚気るほど自慢してくるわ。…髪がとてもサラサラだとか。今日はずっと手を繋いでたとか、愛を囁いたとか…心読む必要ないくらい。」
「うわ、大変。」
「まぁ、だから判に限ってはないわね。」
「…なるほど。」
「まぁ、そういうことだから、じゃあね。私は他を探すわ。」
そう言って月宮は出て行った。
「…どうする?」
姫が聞いてくる。
「…つねった時しか嘘ついてないんだよな?…月宮円以外で。」
「…ええ、そうよ。」
「…ならやっぱりおかしい。」
俺は部室から出る。
《???》
俺はある女性の家の前に来ている。俺の予想が正しければここが全ての始まりのはずだ。
俺はインターホンを鳴らす。
ピンポーン
「はーい。」
ドアの奥からトタトタと玄関に近づいてくる足音。そして、玄関の扉が開く。
「…えっと、どちら様?」
そこにはあの人の母親らしき人物が立っていた。
「あの、俺は彼女の知り合いといいますか。その、少しだけ接点があってですね。話が聞きたくて来たんですが、少しよろしいでしょうか?」
「…あらあら♪あの娘ったら、意外とやるわね!いいわよ。上がって。」
少し勘違いしているようだが彼女の母親は俺を部屋に入れてくれた。
「それで話って何かしら?あの娘とはどういう関係だったのかしら?」
「……。」
俺は両手を合わせ深く深く頭を下げた。そして、彼女の母親に顔を向ける。
「すみません。本当にいきなりで勝手だと思うんですけど彼女の写真とビデオを見せていただけないでしょうか!」
「…なんなの?もしかしてあの娘に惚れてた子?それくらいならいいけど…もう、諦めなさいよ。」
少し悲しそうに彼女の母親は写真を持って来てくれた。
「……。」
「昔からよく笑う娘でね。写真のほとんどが笑顔ばかりよ。まぁ、撮る側としたら嬉しいんだけどね。…もう、こんな笑顔出来ないんだから。」
写真を俺に見せながら彼女の母親は少しづつ目から涙を溢れさせていた。
「……。」
「本当になんであの娘があんな目にあわなければいけなかったのかしら。」
…やっぱりだ。この写真を見て確信がいった。何処かで見たことあると思ったんだ。確かに…そっくりだ。
俺は手に力を込める。歯を食いしばる。
こんな事があっていいのか?こんな理不尽な事が…
「…ありがとうございました。俺、もう帰ります。」
「…もう良かったの?」
「はい、充分です。」
「そう…また会いに来てあげてね?」
「…はい。」
もう来ることはないと思ったけど一応頷く。俺は帰る前にもう一度手を合わせた。
彼女の遺影に。
少し歩いて。誰もいないところにきて叫ぶ。
「ふざっけんな!!」
何もかも!何もかも理解出来ない!だが犯人はあいつだ!間違いない!襲っていた被害者の理由も、月宮のサトリが反応しなかった理由もこれで辻褄が合う!だが、こんな事普通やらないだろ!ありえないだろ!
だって、もう人を人として見れてないんだから。
「…圓城はどこまで知ってたんだろう?」
この犯人の考えを思いを、被害者の痛みを悲しみを、それをちゃんと俺たちに理解させるように仕向けたような気がしてならない。
正直、理解は出来ない。だけど、このままには絶対に出来ない。だから、次に狙われる人が出る前に
「俺が必ず捕まえる。」