2話モテるんです。
しばらく歩いているとぞろぞろと同じ制服の生徒が見え始めた。周りからチラチラと見られる痛い視線、まぁ隣に圓城がいるせいなのだが、実際、毎日がこれなのでもう慣れたけど。
「あ、あの圓城先輩!」
突然数人の男子生徒が話しかけてきた。先輩って言うからにはこいつ等1年か。俺よりでかいな!(一応176センチあるんだが)ガタイもあるし下手したら3年と言われても解らないかもしれない。
「あら、何でしょう?」
また、家の中でしていたエンジェルスマイルで対応している。こいつは俺とあと3人以外はこっちで通している。
「今日から部活動紹介があるじゃないですか!俺達は圓城先輩と同じ部活にはいりたいと思ってます。だから最初に挨拶だけでもしとこうと思って!」
お!先輩に対しての姿勢といい中々見所あるじゃないか。
「そうなんですか。でも、入部条件は難しいので大変だと思いますよ?」
「あ、はい!それは聞いてます。去年は2人しか合格しなかったそうですね。」
俺と蒼夜だなぁ、1年が何故か凄い睨んでくる。
「ですが、今日の入部試験で必ず合格して役に立つ事を証明します!」
うーん。俺を睨みながら言わんでも、まったく人によって顔を使い分けるなんて優秀だな。社会人適応力テストなんてあったら100点あげるな。……圓城は120点だ。
「はい、その時はよろしくお願いします。では、部活動紹介の時にまた。」
「はい!失礼します。」
そう言って小走りで走って行った。別に登校先は同じなんだから一緒にいけばいいのに。そのあとも圓城に話し掛けては走って行くという奇妙な行動を取る生徒が1年だけにとどまらず2年3年にも続出、それも学校の校門前まで続いた。……そのたびに全員から睨まれた。まったく勘弁してくれ。
下駄箱で靴を入れ換え教室に向かう。翼陵高校はクラスはA~Jまであり俺と圓城は別のクラス、俺がD組で圓城はA組だ。
「じゃあな。」
「はい、昼休みにまた。」
適当に挨拶して自分の教室に入る。
「おはよう。」
「オッス。朝からご苦労様。」
「……見てたのかよ。」
「あぁ、この教室から校門は良く見えるからな。」
こいつは同じ部活仲間の黒野蒼夜。情報屋としての腕を買われ引きずり込まれた哀れな犠牲者2号だ。整った顔立ちと気配りのできる性格から1年の時にカレラン(彼氏にしたい人ランキングの略)第6位だった、超イケメンなのだ。
「なら圓城に言ってやれ。顔の筋肉が大変お疲れみたいだから。」
「くく、そこまでは見えなかった。」
蒼夜は笑いながら肩を叩いてくる。
「そういや川、今日の部活動勧誘もとい入部試験について何か聞いたか?」
「いや、何も?恐らくまたとんでもない事企んでるのはたしかだが。」
「あぁ、去年は凄かったからな。」
去年、圓城が作った部活、探偵部。噂、捜し物、恋愛相談から個人情報まで様々な依頼を請け負う部活。圓城が天才だったためどんな依頼も解決してしまうから次々と依頼が増えていった。おまけに顔もいいから人気も上がり今や生徒会と同じくらい権力がある。
「たしか、暗号を解読して30分以内に指定した場所に来い!だったよな?」
「あぁ、その他の条件で携帯の使用禁止と一度でも校門を出た者は校内へ戻るのを禁止。破った者は入部資格剥奪だ。」
「そして、暗号内容は《貴方達がもっとも来ない場所で待ってます。》だ。……暗号ですらないがな。」
これのせいで学校内が30分戦場と化した。ほとんどが男子だったため、女子トイレや更衣室を調べて怒られる生徒が多数。まれに告白スポットにまで探しに来るやつが現れ大変だった。
「結果、指定した場所に来たのは俺とお前の2人だけだもんな。」
「だって来ないだろあそこは?1時間じゃなく30分という短い時間、しかも全員が圓城とお近づきになりたいって思ってる男子だ!諦めるはずがない。しかも、あの禁止条件じゃな。」
「あぁ、だってあそこは、」
「「校門の前だもんな!」」
校門はどの教室からでも見えるが塀に隠れたら校門の外を出ないと見つけられない。本当に入部したい奴等はどうしても来れないのだ。まったく腹黒いやつはこれだから。
「でも本当にどうするんだろうな?恐らく今年は女子もくるだろうから去年の倍じゃすまないぞ。」
「は?何で女子まで?」
蒼夜が不思議そうに言ってくる。……そんなの決まってるだろ。
「……イケメンと美少女がいるんだから当然だろ?まったく今日の部活動紹介は不安だ。まぁ、昼休みに何か言われるだろ。」
「だな、おい待てよ!俺は別にモテたりしてないぞ!」
「黙れ情報屋。貴様が知らんはずないだろが!」
「……好きでモテてるんじゃないんだが。」
……ホント、言う事が違うぜ。
「まぁ、いいや。とりあえず昼休みに圓城に聞きに行こうぜ。たぶん、部室にいるだろうから。」
「そうだな。」
こうして俺達は授業が始まるまで適当に喋って時間を過ごした。後に思う、無駄話をしている間に出来るだけ遠くに逃げるべきだったと……この時はまだ俺は知らなかった。