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姫星織彦の素顔

〈姫星織彦〉



「…やっぱり似合わない。」


鏡に映る自分を見て思わず溜息が出る。



昨日、天野君から電話があり、圓城さんがついて来そうなので集合場所の変更と服装を指定された。正直に恥ずかしいと言ったら、天野君はその格好なら圓城も気付かないから絶対だと言って来た。


もうすぐ7:30だ。待ち合わせ場所に遅れそうなので家を出る。私は駅に向かって歩いていると、前のほうから圓城さんが凄いスピードで走って来た。


目が合ってしまった。私は慌てて帽子で顔を隠す。だが、圓城さんは一瞥しただけで私が来た道を走っていってしまった。


「…ふー。」


どうやら気付かなかったらしい。


目的地は電車に乗り、七つ目の駅から歩いて十分。


ここまで来るとだいぶ人通りが多くなってきた。わたしとすれ違うたびに私を見る人が多い。やっぱりこの格好は変なのだろう。少し俯きながら速足で進むことにした。


やっと目的地に着いた。私は辺りを見渡す、…まだ来てないみたい。入場口のほうに人が集まっているのでそこで先に券だけでも買っておこう。私は人の集まっているそちらに向かう。


天野君が指定してきたここは動物園。ここなら圓城さんは来ないらしいのだけど、動物が嫌いなのだろうか?


ここの動物園は結構有名でかなり珍しい動物がたくさんいる。高校では結構よく使われるデートスポットだ。


「……。」


入場口までくると珍しい動物よりも珍しい光景が目に着いた。周りの人もこれを見て集まっていたみたいだ。


「…天野君。」


「zzz。」


そこには入場口の前で寝袋を着た天野君が爆睡していた。





〈天野川〉




「いやぁ、悪い悪い!中々目が覚めなくてさ。」


「…何であんな場所で堂々と寝れるんですか。」


「いや、家にいたら間違いなく圓城に捕まるからさ、ここで待ってるつもりだったんだけど、あまりの眠さに耐えられなくて。」


「で、そのまま眠ってしまったと。」


「おう!」


「…嘘なし。…馬鹿なんですか?」


「そんな言うなよ。恐らく圓城に睡眠薬でも飲まされたんだと思うんだよ。」


「あるわけないじゃないですか。」


「ははは、まぁ、いいじゃん。あ、それと。」


「?何ですか?」


「その格好、凄え可愛いよ。似合ってる。」


「ッッ!!」


今の姫星の格好は白いワンピースに麦わら帽子を被った、いわゆる女の子の格好だった。


…これで男なんだからなぁ、


「ま、まったく!男の私にこ、こんな服が似合うはずないじゃないですか⁉」


どうやら、姫星的には似合ってないと思っているらしく恥ずかしそうに顔を赤らめて俯いている。


「いやいや、どっからどう見ても美少女だぜ?まぁ、褒め言葉になるかわからんけど。」


こいつの今の服装は母親のだろう。麦わら帽子とワンピースなんて昔のファッションだもんな。だが、それを完璧に着こなし周りにいる男ども全てを魅了している。…俺は褒め言葉として叫びたい。…


ルフィ!!と。



…特に意味はない。


「も、もう!そんな事いいから早く中に入りましょう!」


「ああ。」


照れる彼女に苦笑しながら俺たちは動物園に入っていった。









〈動物園〉


「うおー!見ろライオンだぜ!」


「…そうね。」


「あっちにはゴリラだ!」


「…そうね。」


「…何だよテンション低いな?」


「悪いけどここには、何十回と来ているのよ。…僕としてだけど。」


「あー、なるほど。」


そりゃ、つまらんわな。


「…なぁ、お前の嘘発見能力は動物にも効くのか?」


「無理よ、だって動物はしゃべらないじゃない。」


「あ、やっぱり関係あるの?」


「当たり前、私は、言葉と行動の違いがわかるだけ。何も話さない人にはその違いを比べられない。せいぜい行動から何がしたいか、何をしようとしているか分かるだけ。…思考が読めるわけじゃないの。」


…いや、読めてる読めてる。


「ふーん。」


「…ねぇ、何のつもり?」


「ん?何が?」


「昨日の話よ。流れで来てしまったけれど、どう言うつもりなの。」


そう言って俺を睨む。…いや、どう言うつもりと言われても。


「私とデートしようなんて。」


そういうつもりとしか言えないのだが。


「しかも、僕ではなくて私の状態で…なんて。」



「そりゃ、姫星のままじゃダメだろ。…なんかややこしいな。お前の事は今から姫ちゃんと呼ぶから。」


「やめなさい!」


「じゃあ、姫で。」


「そういう問題じゃないんだけど。」


「姫、俺はな。」


「…もういいわ。」


「お前を一人にしたくないんだよ。」


「……無理よ。」


…圓城と同じ事を言いやがる。


「私といるという事は秘密を作れない、隠し事が出来ない、…全てを知られるという事よ。」


「……。」


「そして、男の私を女として接しなければいけないのよ。…そんなの誰だって嫌にきまってるでしょ。」


「…。」


姫は今にも泣きそうなほど顔を歪める。…彼女が一人になりたい理由はつまり自分を認めてくれる相手がいないからだ。だが、彼女は嘘が分かる、性別が違う。本当に心からそう思わないと彼女は気づいてしまう。


「俺は……」


なにか、何か言わないと。あの小さくなって震える肩に、強く握りしめている右手に、まだ涙を堪えながらも俺の目を見てくれている間に。


「……。」


焦るが言葉が出ない。言ってあげたいのに何を言えばいいのか分からない。


嘘をつかず、彼女を一人にせず、男性を女性として扱う。


嘘をつかず、彼女が自分をだし、認めてもらう。


嘘をつかず、嘘をつかず、嘘をつかず、嘘をつかず、嘘をつかず、嘘をつかず、ーーー




「…めんどくせ。」


「え?」


姫は驚いた顔をする。…やっぱり俺は圓城のようにうまくは出来なかったか。


俺は息を吸い込み姫に伝える。


「姫、全ての人に好かれるのは諦めろ。お前は異常だ。」


「……。」


「人の言葉の真偽を見破れる奴なんて普通はいない。」


「……。」


「ましてや男で女の二重人格なんてお前だけだ。」


「……。」


「知られたらきみ悪がるだろうし、嫌がる奴も出るだろう。人なんてそんなもんだ。…だから無理みたいだ。」


俺の言葉に姫は俯いていたが顔をあげる。


「…ええ。そうね。分かってるわ。…そんな事…ずっとずっと前から分かってる。」


その顔は涙を流していない。


「私はもう、誰かの嘘を聞きたくないし、期待したくもない、傷つきたくない。」


彼女は泣かない。理解し、諦めているから。


「…だから、もう、一人にしてほしいの。」


俺を見るその目には何の感情も感じられない。だが、俺は容赦しない。


「それはダメだ。姫、傷つくと思うし、嘘を聞く事になると思う。だけど、一人にはさせない。」


「…どうやって。」


「俺と一緒にいよう。」


「……は?」


ん?伝わらなかったか。


「俺は姫の事あまり知らないんだよ。嘘つきで、自分の感情を表に出そうとしないから。もっと話がしたい。だから姫、俺の前では女性として振る舞えばいいって事。」


「さ、さっき無理みたいだって言ったじゃない。」


「全員と仲良くなるのがだ、別に俺一人とくらいなら問題ない。こっから少しずつ増やして行こうぜ。」


まだ理解できていないのか口をパクパクさせながら俺を見つめている。


「…わ、私は、私のままでいいのかしら。」


疑問系でもなく、ただ口から漏れたように呟く。


「いいよ。」


ただそれに即答で答える。


「……。」


「俺は姫の本当を知りたい。何をしたいのか、何が好きなのか。もっと色んな話をしてみたい。」



「わ、私は男なのにこんな話し方をするのよ?気持ち悪いでしょ?」


微かに唇を震わせながらそう、俺に聞いてくる。……何が言いたいんだ?


「別に、それも個性だろ。何がいけないんだ?」


「……。」


姫が驚きで目を見開く。…ここにきて姫が悩んでいる本質がわからなくなった。俺が頭を傾げていると。


「わ、私といる事はきっと…いえ、必ず大変な目に遭うわよ。」


「そんなの日常茶飯事だ。姫、さっき言ってたな。私の前に立つという事は心臓を前にさらけ出し、隠すための服(嘘)もなく裸で立たされるって。」


「ええ。だいたい合ってるわ。」


「俺は立つよ。姫の前に。」


「…。」


「恥も外聞もなく、全てをさらけ出して、見透かされたとしても。俺は姫を信じるよ。傷つけたり、笑ったりする奴じゃないって。」


「……。」


「…姫は傷つきたくなくて、一人になりたかったんじゃない。相手を傷つけたくなくて、怖がられたくなくて踏み出せなかっただけだ。」


俺は姫の前に手を出す。


「十年以上人とコミュニケーションをとってなかったらそうなるわな。…俺が友達一号になって、姫のいいところも悪いところも知ってやる。嘘も本当も関係ないくらい。だから。」


笑いかける。


「友達になろう!」


「…本当にいいの?」


「嘘なし。わかるだろ?」


とりあえず姫の真似していってみた。


「ばか。」


そっと彼女の手が俺の手と繋がる。


「約束して、嘘でもいいから嫌いにならないで。」


それは自分の言葉を信じるという信頼


「はは、了解。あ、ところでさ。」


だから聞いてみる。


「…なに?」


「欲しかった物は見つかったか?」


今、姫の手にあるそれは欲しかった物なのか?そう聞いたつもりだったのだが何故か姫星の手に力が入り、それがとどめだったかのようにーーー


「う、うわあああああん!!」


ーー張り詰めた糸が切れたように姫星は泣きだした。今まで誰にも言えなかった事、想い、それらが堰を切ったように溢れ出してしまったんだろう。


…結局のところ、嘘が見破られ様が彼女の事を知ってあげれば良かったのだ。それを誰もしなかった。いや、出来なかったわけだが、これからはそれを知る人を増やせばいい。


そう、まずは。



「てなわけで圓城、姫星を入部させるぞ。」


「何がてなわけだ!」


翌日、圓城に相談した。


「ほら、今うちは人数不足じゃないか。姫星に入ってもらえれば一石二鳥だろ?」


「よ、よろしくお願いします。」


「…。」


「姫星は嘘を見抜ける。これは探偵部にとってかなりの戦力だぜ。」


「お願いします。」


「へーそれなら私が言ったことが嘘か判断してくれますか?」


「…はい。」


「3年B組出席番号1番相川道夫、2番浅田幸則、3番井口雪乃ー」


「嘘です。」


「…わぁ、すごいですね。本当にわかるんですね。」


「…はい。まだ信じてないことも。」


「…なるほど。よし、いいだろう。姫星織彦、探偵部への入部を許可する。」



こうして、新しい仲間が加わった。


「やったな、姫。」


「ありがとう。天野君。」


「あっそうだ。はい姫。」


おれは箱を渡す。



「何これ。…ハムスター?」


「そう!姫星は動物からは嘘がわからないんだろ?なら、ストレスにはならないはずだ。」


…もしかして、このためにわざわざ動物園に行ったのかな?



「どうだ?可愛くね?」


……。体が物凄い勢いで熱くなるのがわかる。


「…そうね。」


私は彼に近づくーー




チュッ!



「…え。」


彼のほっぺにキスをした。


「可愛いと思うわ。…食べちゃいたいくらい。」


「…え、ええええ!!!!」


慌てふためく天野君。ふふ、面白い。


「冗談よ。」


「あ、なんだ。」


「ハムスター、ありがとう。大切にするわ。」


「あ、おう。」



私はそう言って踵を返す。彼には気づかれないように嘘の仮面を着けて。



……




「何をされているんだ?お前は。」


一部始終見られていたみたいだ。


「はは、からかわれてしまった。冗談だってさ。」


何故か圓城の機嫌が悪い。


「…冗談。…嘘ではなく冗談か。」


「ん?圓城、どうした?」


「なんでもない!そうやって死ぬまで鈍感でいろ!馬鹿が!」



そう言って圓城も帰っていった。




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