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予想を超えろ。

俺は姫星の家から帰る。あのあと彼女と約束をして明日会う事にした。俺に出来る精一杯やるつもりだ。


ふと、先を見ると人影が一つ…


「圓城か。」


「遅かったデスね?忘れ物は見つかりましたか?」


「…まぁ一応。」


「川、姫星の…彼女の望みは不可能だ。」


圓城は暗い言葉を発する。


「…知っていたのか?」


驚いた。多重人格までならまだしも彼女のほうが主体だと気付いていたのか、俺は彼女に言われるまで気づかなかったのに。


「彼女は性同一性障害と解離性同一性障害の二つを持っている。おそらく、恐ろしいバランスで彼女の心はなり立っている。川、お前が変な事をしてそれを壊して責任が取れるのか?」


答えは無理だ。の一言。だが、


「俺は彼女の欲しいものを見つけてやりたい。」


それが何か分かってないが。


「圓城は、「無理だ。」」


知っているか?そう聞く前に否定の言葉を返された。圓城は、ため息を吐きながらいう。


「川、彼女の望んでいるものをどう考えている?嘘をつかない人間か?自分を出せる環境か?女として生きられる体か?僕としてしか生きられなかった時間か?どれであろうと彼女は否定しないだろう。」


…そうかもしれない。


「…だが、手にいれられる事も出来ないだだろう?一つでもあればこうはならなかったはずだ。川、彼女の欲しいものを見つけてやっても手に入れる事は……出来ないぞ。」



…返す言葉もない。圓城は、わかってる。彼女を一人にさせないようにしても全て知られてしまう。同情、優しさ、励まし、期待、思いやり、愛。真剣に彼女の事を思ってもほんの少しも混ざらない事はないだろう。…その言葉に込められた嘘を。


何処にいようと、それは変わらない。…過去も体も。


だから、圓城は、彼女の望んだ最善を行なった。


…一人でいい。


そう、その願いを叶えたんだ。間違いじゃない全てを理解して動いたんだ。





……だけどな、圓城。俺は駄目なんだよ。



「どんな事があっても諦めちゃダメだ。」


「……。」


「俺はさ、お前みたいに天才じゃないんだよ。だから、間違いを侵すし、人を傷つける事もある。」


ここからさきはただの我儘だ。


「俺のせいで姫星の…彼女の心を傷つけるかもしれない。だけど、俺は彼女が望みを諦めて一人でいる姿なんか見たくねぇ!」


約束なんだよ…あの人との。誰かを幸せにするには自分が笑顔でいなきゃいけない。



「あいつを一人にして、そのままにしてしまったら俺はもう誰かに笑い掛けれない。」


それだけは絶対に駄目だ。


「圓城、たとえ無理でも俺はやる。」


だから、止めるな!


「そのせいで壊れるかもしれないんだぞ。」


「それでもだ。」


「私は軽蔑するぞ。」


「それでもだ。」


「…殺すぞ。」


「そ、それでもだ!」


「……。」


「……。」


「………はあああああああ。」


お互いに睨み合っていたら圓城のほうが肩を落として盛大なため息を吐いた。


「…わかった。勝手にしろ!」


どうやら折れてくれたみたいだ。


「悪いな。」


俺は口だけの謝罪をする。


「ただし、私も巻き込め!お前だけだと本当に彼女を壊しかけない!」


「えー。」


…うわー、信用ねぇな。俺。


「明日、会う約束をしたんだろ?何をするか知らないが私もついていくからな。」


そう言って話を強引に打ち切り圓城は夜道を一人で帰って行った。


「……参ったなー。」



俺は急いで姫星に電話を掛けた。











〈圓城陽菜〉


AM6:00天野家


私はこっそりと川の母親から頂いた合鍵でドアを開けた。


「……。」


足音を立てないように慎重に歩く。まだ寝ているであろう川を捕獲するためだ。


奴の昨日の反応から私から逃げる事を予想した私は川に朝からくっ付いて離れない事にした。…何故わざわざそんな事をするかだと?あいつは幼馴染みの私にも全く予想の出来ない事をするからだ。


前に小学生の頃、学校でかくれんぼをした事がある。十人くらいでやっていて。私が鬼だった。私は目をつむり十秒数えると放送室に入り放送を流した。


「さきちゃんは体育館の跳び箱の中、つよしくんは、二年生の教卓の中、……」


子どもの考える事なんて単純だったので彼等の性格から何処に隠れたのかを言い当てていった私はわずか三十秒で川以外を捕まえてしまった。


だが、あと一人、川の思考だけは読み取れない私は一つ一つ考えられるところを探す事にした。


私達のかくれんぼにはルールがある。


一、一度隠れたところから動かない。


二、三十分で見つけられなければ鬼の負け。


三、見つけたら名前と場所を言う。


四、家に帰ったやつは死刑。


だから私は29分になっても川を見つけられなかったので殺そうと考えていた。


三十分が経ち、みんなに別れを告げて川にも別れを告げに行こうとバットを背負った時に放送が流れた。


「ひなちゃん、君の負けだよー。」


…私は川が負けを認めるまで叩き続けた。




まぁ、そんな事があり、私は川に対して油断をしない。昨日も川の晩飯には睡眠薬をいれておいた。そして、深夜2時くらいに携帯に電話を掛け着信音がなったのも確認している(私の部屋から近いので夜ならそれくらい聞こえる。)。


私は川の部屋に手を掛けゆっくりと開ける。


「……。」


布団を頭まで被り寝ているようだ。横には携帯も置いてある。


「ふふ、ここまでする必要もなかったか?」


川は朝が弱い、だから朝のうちに捕獲するのは簡単なのだ。まぁ、油断して逃げられるのも嫌なのでこれはこれで良しとする。


「全く、早起きし過ぎて眠たい。…少し寝かせてもらうか。」


私はおもむろに川の布団の中に潜り込む。目が覚めた時、川は驚くだろうが気にしない。

私に早起きさせた罰だ。


モゾモゾ。


硬い角張った形が私に当たる。


クンクン。


独特なかみの匂いがする。


体温が上がる、次第に眠気も覚めていく。私は布団から顔を出し、震える手で布団をめくる。


「……。」


超イケメン……の表紙の本が顔の位置にあり、下には人型に本が並べられていた。


「ふっ!ふふ♪…全く、所有物に寝床を占領されるなんて、おまけに携帯を携帯しないなんて。」


大きく息を吸って


「何やってんだ!あの馬鹿は!!」


私は人の家と言う事を忘れて叫んだ。



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