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二つの心。

彼が嘘やカマをかけていない事、迷いなく確信があって言っているのが分かった。私だから分かってしまった。


ーー少し昔を思い出す。




姫星織彦という少年は子供の頃から少し変わっていた。男の子のように外で遊ぶ事をせず家で人形とおままごとをして遊んだり、可愛いものや小さな物を集める事が好きだった。

親も少し心配していたがそれも性格なのだろうと気にしていなかった。


…だが、それはさらにエスカレートしていった。家に連れてくる友達は女の子ばかり、髪を伸ばし可愛い服、スカート、アクセサリー、中身だけでなく見た目も変わり始め、次第には話し方すら女の子のようになってきた。


ここまでくると親でも気付いた。彼は体は男だが心が女の子なのだと、


親は彼女を男らしくしようと努力する。話し方が女の子っぽかったら叱り言い直させ、小物や人形は全て捨て、空手や柔道などの道場に通わさた。彼女は毎日のように泣いた、嫌だ、何で私でいることを親は許してくれないのか、したい事がしたい。自由に話したい。……私を見て欲しい。


願う事はいっぱいあった。甘えたこともわがままも言いたかった。だが、彼女は賢かった。言っても聞き入れてもらえない、願っても変わらない、だから彼女は演じることにした。私ではなく僕をーーー


時が立ち中学生になった。最初こそ慣れなかったものの、今は意識せずとも親の理想の僕になれる。私はただ、僕がする事を眺めるだけになった。同じものを見ていても僕の見る景色と私の見る景色とはかなりの差があった。主観というより客観的に、僕が一つ物を見ている時でも私は視界に映る全てを見る事ができた。さながら僕という物語を私がテレビでみるように。


この頃には私と僕の人格が別物になっていた。好きな物も思考も行動も。その中でも一番の違いは嘘がわかる事だろうか。



僕はもてた。顔が可愛いせいかよく女の子に話しかけられていた。だが、私は知っている。彼女たちが他の男に恋しているのを、ただの代わりだと、彼女たちが言う好きが愛玩動物としてだと。……それが嘘だと気づかない。


その中の一人と僕が恋人同士になった。僕はとても幸せそうだった。だけど、それを見ている私は気が気じゃなかった。彼女の話は嘘ばかり、家の事、親の事、自分の事、……好きな男の事すらも。


私は彼女と別れさせる事にした。僕が気付かないように。嘘だと脅して、嘘だと諭して、嘘だと壊した。僕は気づかない、いつも通り彼女の嘘に。



私は…




彼女は薄っすらと微笑みながら尋ねてきた。


「どうして分かったの?」


「喋り方、あと仕草が全然違った。」


「そっか、そんなに違うのか、やっぱり僕と私は全然似てない。」


ふふ、と悲しそうに笑う。


「……簡単にしんじるんだな。」


「言ったでしょ。嘘かどうかすぐに分かるって。天野君はちゃんと僕と私の違いを見分けてる。」


そうは言っても中々信じられるものじゃないと思うんだがな。


「ふふ、じゃあ私が質問するから嘘でも本当でもいいから答えて。」


俺が納得いかない顔をしていたのだろう。彼女は俺に笑いながら言ってきた。


「わかった」


「じゃあ貴方の好きな食べ物は?」


「トマト。」


「嘘。貴方のよくやるゲームは?」


「…ポケモン。」


「…嘘。エッチなゲーム?」


「違う!」


「嘘。貴方の初恋の相手は?」


「と、トイレの花子さん。」


「…嘘、今好きな子はいる?」


「いない。」


「…本当。あら、圓城さんが好きじゃないの?」


「あいつは幼馴染みだ。」


「…その言い方は卑怯ね。」


「わかった!もう、信じた!だからこれ以上聞くな!…いや、聞かないで!」


納得、と言うよりこれ以上話すと色々ボロが出そうだったので話を変える事にした。


「…何で姫星のストーカーなんかするんだよ。…いや、違うか、何で姫星を一人にしようとするんだ?」


「……。」


彼女は驚いたような顔をしたが何も言わず俺を見つめ続けた。


「考えたんだ、お前がそんな事をする理由を。最初は姫星が好きで他の女の子に取られたくないのかと思ったんだ。だけど、姫星が何人にも振られて理由を聞けなかった事とそれでもまた新しく恋人ができたって話を聞いて違うんじゃないかと思ったんだ。」


「あら、逆じゃない?恋人を何度も別れさせているのなら嫉妬で取られたくないと考えるのが普通でしょ?」


俺は首を振るう。


「それなら、振った理由をもっと周りに広めるべきだ。噂でもいい、そうすれば姫星に近づく女は減ったはず。普通ならそうする。」


友達としてはいいけど恋人としてはイマイチみたいなな。


「だけどしなかった。それどころか、また恋人を作らせ一時でも関係を結ばせた。」


「……。」


彼女は俺に伝えてほしい言葉があるように、期待するようにこちらを見る。


「あんたは姫星をちゃんと見てくれる女の子を探してたんじゃないのか?」




「…違う。」


「えっ?」


彼女は落胆したように俺を見た。


「…天野君、君は勘違いしている。姫星織彦という人間は私がベースだ。彼は、私の演技であり私の作り出したもう一つの人格だ。」


「は?……えっええええ!!!」


姫星は男だろ?でも本当は女の子?意味がわからない!何よりそれだと全てが逆になるじゃないか!


「ふふ、驚いただろ?そして、気味が悪いだろ、」


彼女はとても笑顔でそう言った。俺は何も言わない。


「ストーカー?勘違いも甚だしい私が本物!そう!私の体なんだ!彼の演技なんていつでもやめられる。だけど、出来ない!誰も私を求めてないから!誰も私を認めてくれないから!男の身体なのに女?はっ!一体どう扱うと言うんだ⁉だから、私は僕の演技をし続けなければいけない、……だけどもう疲れた。もう辞める。そう、もう誰もいらない。私は一人でいい、私は……」


彼女は一度口閉ざした。



「…君たちは私が一人になるために利用させてもらった。事件を起こし姫星織彦がストーカー被害にあったと勘違いする妄想野郎だと思わせるためにね。圓城は正しい。そして、天才だ。彼女は私の期待通りに事件を解決してくれた。あとは、この噂を流せば文字通り私は一人になれる。…本当の自分でいられる。」


「……。」


彼女はさらに笑みを深める。


「これで私の望み通りだ。」


俺は口を開く。


「……嘘だ。」


俺はそう思った。


「お前は嘘がわかる癖に嘘が下手だな。そんなんじゃ誰も騙されてくれないぞ?」


「なっ!私は嘘なんて!」


こいつが探偵部に来たのは別の理由だ。本当に欲しいものーー


「探し物、俺が見つけてやるよ。」


姫星じゃなく彼女が頼む依頼をーー


「俺とーーーしよう。」


ーー俺が解決する。






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