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敵地への侵入

「じゃーんっ♪ どう? 似合う?」

「あ、あぁ、に、似合うよ」

――お前が女の子だったらな!

 次の日。クリムは早速、白い服と金のカラーコンタクト、ついでにカツラまで用意してきた。で、とりあえず着てみるか、という事になったんだが……。

 俺の方は普通に白いワイシャツに白いスーツ、白いネクタイに白い靴だった。しかしそこは流石、というべきか、一応白だらけでも、デザインだけは凝っていて、ちゃんと清潔に見える格好になっている。が……

「お前さ、それ……バレたらどーすんの?」

「何が?」

などと言って、くるっと一回転してみせるクリム。それに伴い、すそがふわりと膨らんでひらひらとめくれている。そう、クリムは白いワンピース姿だった。しかも、あつらえたようによく似合う。

「俺、お前が男で良かったと思うよ、心から」

「えー、なになにー。もしかしてローワ、僕に惚れちゃったのー?」

 ぴょんっ、と首に腕を回し、抱きついてくるクリム。いや、ちょっ、待っ。

「お前が女だったらな!」

 少々乱暴に、クリムを振り落とす。

「ちぇーっ」

「何が“ちぇーっ”だ」

――あやうく惚れかけたじゃないか!

「でもさ、バレる事はないと思うよー? 心配なら、姿消していけば良い話だし」

「……そうだな。その方が良いかもしれん」

「んじゃ」

「行くか」


 予定より一日早い潜入だったが、早ければ早いに越した事はない。でないと、取り返しがつかなくなる。

 結果から言えば、潜入には成功した。あまりに警備がキツそうなら、姿を消して行こうとも思ったのだが、その必要はなかったのである。というより、門番すらいなかった。

――あれか? “入る者拒まず”の精神なのか? こんな事なら、もっと早く来れば良かった。

 すると、そんな俺の心を読んだのか、クリムは

「ローワ、それは違うよ」

と、周りに聞こえない程度の声で言った。

「何が違うんだ?」

 俺も小声で聞き返す。

「僕達は大丈夫だったけど、対悪魔用の結界があちこちに張りめぐらされてる」

 気が付かなかった? とこちらを覗きこむクリム。成程。そりゃ、分からなかった。そうだな、それならいくら闇魔法で姿を消しても、逆に見つかっちまうな。流石、闇と光の両方を操り、魔術だけなら敵う者はいないと言わせしめた、クリム=アナトーだけの事はある。本当、こいつ連れてきて良かったわ。そんな風に柄にもなく感謝していると、再び俺の心を読んだのか

「お礼はデートで良いよ」

などとぬかしやがった。だーかーらー、と怒ろうとした時、

「あ、着いたよ」

……目的地に着いた。

 “えんじぇるめいかー”と可愛らしいタイトルのついた部屋だが、そこはまごう事無き、天使製造所だった。多分、ミイネはここにいる。

「ここは第一だから……ミーネちゃんがいるとすれば、この奥。第五製造所、だろうね」

「あぁ、そうだな」

 一刻も早く、奥へ。そう思い、製造所に足を踏み入れようとした時。

「危ない!!」

「何!?」

ザクッ。ビーン。

 ……矢が、飛んできた。

「あら、仕留めそこなっちゃったわ。さっすが、時期魔族の帝王、シャルル=ロワ=グランデとその友人にして、(そら)族出身者でもある、クリム=アナトーだけの事はあるわね」

 同時に、聞き覚えのある声が、上から響いてくる。……また、上から? 驚いて天井を見上げると、そこには、逆さづりの天使がいた。いや。いやいやいやいやいや。

「……女の人がその体勢は、ダメでしょう?」

 見えてます。色々と。

「ふーん。随分と余裕なのねー。うちのコを楽勝で倒したからかしら? それとも、タイムリミットに気付いていないだけかしら?」

 くるっ、と空中で一回転し、見事な着地を決めながら、意味深に彼女はそう言った。

「うちのコ? ……って事は、僕がやっつけたあの女の子は」

「私の妹よ。うちのコ、あれで結構やるのよ? 時期を担う、ホープだったのに」

 まぁ、こんな大物が二人も相手じゃ、そりゃあ勝てないだろうけどね。そう付け加えた所を見ると、案外、妹を猫可愛いがりしているだけの馬鹿ではないらしい。

「成程。それで敵討ちに来た、って訳か?」

――どーりで、昨日の追手の奴に声が似ている訳だ。

 確かに、言われてみれば、ちょっとキツそうな目といい、言葉遣いといい、どことなくあの天使に似ている……ような気がする。まぁ、妹の方はこんなに際どいミニスカートやら、それにはやや不釣り合いな、やたらごっついブーツなんざ、履いてはいなかったけど。

「まぁ、そういう事にしといてあげる」

 内心じゃ、妹を倒した敵と戦うのが楽しみで仕方ないのであろう。久々に強い敵に会った、という高揚感が彼女を包んでいるようだった。

 しかし、楽しませてやれるだけの時間は無い。俺はそれを無視して、話を進める。

「で、タイムリミットってのは?」

「あら? まさか本当に知らないの? 貴方達が探しているお姫様。あと二時間ももたないんじゃないかしら?」

『!?』

――やっぱり、そうだったか……。

「ま、でも、間に合ったからと言って、完全に元に戻る事はもう難しいだろうけどねー。無茶したら、あの娘消えちゃうしー」

 にやにや笑いながら、人を見下したように喋る彼女。言い方こそ頭にくるが、言っている事は正しい。つまり、あと二時間後にミイネは天使になってしまう。そして、一度天使から悪魔に、悪魔から天使になってしまった者は、二度とは元には戻れない。

 だから、俺達は一刻も早く、ミイネの元に行かなければならない!

「……ありがと、な」

「何が?」

「貴重な情報を、だ」

 そう言って、俺は自身の武器(えもの)である短刀を取り出す。

「……生きて、ここを通すとでも?」

 彼女も、先程矢をぶっぱなした代物であろう、バズーカ砲を構える。美しく長いストレートの金髪、丈の短いワンピース、スタッズ付きのごついブーツ、そして、手には、バズーカ……。そこそこきちんとした格好をしたら、目が覚めるほどの美人であろうに。本当、至極残念だ。出来れば夢であってほしい。

 とまぁ、冗談はともかく。

「あぁ、俺達は先へ行かせてもらうよ」

 相棒を構え直し、俺は彼女と対峙した。



「ちっ、あんなのアリかよ……」

 息も絶え絶えに、私は言う。

「まさか、本当に通っちまうなんてな……」

――あの時、あの魔族の坊ちゃんが刀を出した時、一応注意はしていたんだが。

 あの反則じみた力を思いだしながら、私は自分の行動を省みる。確かに、油断をしていた事は認める。聞き及んでいた悪行の数々とは裏腹に、彼が意外にも真面目そうな姿をしていたからだ。でも……。

「アレはないでしょー」

 壁にはりつけにされたまま、私は精一杯、強がって笑った。

「他人の武器吸収して自分の武器に出来るなんて、聞いてないよ」


 天使には弓矢を、悪魔には槍を。それが私達の、基本(せんとう)スタイル。原則として、それだけは守らなければならないルールだった。

 私のバズーカ砲にしたって、装填されているのは弾ではなく矢である。だから、彼の短刀も、何らかの形で槍としての戦いをする物のはず……。分かっていたはずだった。しかし、私はそれを見抜けなかった。

「あぁ、俺達は先へ行かせてもらうよ」

 その言葉を合図に、戦闘は始まった。先に仕掛けたのは、私である。だって、考えてもみてほしい。短刀とバズーカ。二人の距離、およそ七メートル。どう足掻いたって、短刀のリーチは届かない! まさか、一目見ただけで使いこんでいると分かる、美しい装飾の施された漆黒の短刀を、投げる訳もないだろう。だから私は、引き金を引いた。何の、躊躇いもなく。だが。

ドズゥン! ガシュッ。

 確かに、矢は発射された。それなのに! 矢は何処にもなかった。それどころか、彼達は一歩も動いていなかった。ただ、彼の短刀がシュウウゥという音と煙を立てながら、怪しく煌めいているだけ。私は、あの短刀で矢を後片もなく粉砕したのだと思った。彼の二つ名は“砕断人(さいだんにん)”、全てを破壊する者。噂でそう聞いていた事も、あったのかもしれない。

「じゃあ、これならどう!?」

 私は一気に、バズーカの最大装填数6本を撃ち込んだ。“()理羽(りは)()”、私の必殺技だった。

「仕方ない、か」

 彼はぼそっ、と呟くと、

(きょう)(めい)!」

と叫んだ。短刀がまばゆいばかりの輝きを放つ。そして、辺りが光に包まれたあと、矢は再び後片もなく消えていた。

「何でっ!?」

「ローワの前で物理的攻撃は無意味だよー」

「……ここを通してくれるかな?」

 ぞっとするような冷たい声。やはり、こんな見かけでも悪魔は悪魔。情け容赦は皆無らしい。それでも、私にも意地くらいは残っている。

「嫌だと言ったら?」

「お前をさばくだけ、だ」

「!? それって、私も粉砕するって事!?」

 先入観とは恐ろしいもので、この時私は本気で、彼に殺されると思ってしまった。

「……はぁ?」

「何言ってんの、このコ」

 緊迫していた空気が、一気に解ける。しかしそれにも気が付かないぐらいに、私は得体の知れないモノへの恐怖におびえていた。

「まぁ、いい。受けてみればわかるさ」

 彼は私に、その切っ先を向ける。

「やっぱり……!?」

――やばい、やられる!

 そう思って、身構えたのに……

(けい)(めい)。彼女にふさわしい罰を」

ヒュッ。タンタンタンッ。

磔刑(たっけい)、か」

 意味は、なかった。だって、彼は私の矢を粉砕していたのではなく、吸収していたのだから。私を(はりつけ)にしたのは他でもない、槍と化した私の矢だったのだ。つまり、彼の短刀は、他人の武器を吸収し、槍にして返す能力を秘めていたのである。反則を通り越してもはや異端過ぎる力ではあるが、それよりも。

「あの少年、まさか私の矢を受け止めるとはね。しかも、一歩も動かず」

 彼自身の力の方が、私には恐ろしく感じられる。最初の攻撃の時もそうだったが、“羽理羽理”を受けた時だって、彼は微動だにしなかった。ただ、腕の動きだけで、私の攻撃を受けきったのだ。

「本当、“裁断人(さいだんにん)”の名はダテじゃないもんだねぇ。でも、天使が悪魔に裁かれてちゃ、ザマぁないわ」

 カッカッカッ、と快活に笑う声は、奇しくも登場と同じく、天井から響いていた。


設定とか技名とか人名とか、なんというか稚拙すぎるような気がしますが、お気になさらず。

ちなみに、もはやどうやって決めたのかすら覚えてないので、きっとあれらに意味なんてないと思います(笑)

さて、何はともあれ、ここから本格的にバトルスタートです。

果たして、ローワとクリムはミイネを奪還できるのか!? こうご期待(?)

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