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賢い彼らの見分け方

 クリムに連れられて何とか逃げ出せた俺達は、一旦俺のアジト、先程までいた廃ビル風の建物、へ来ていた。

「んで、何でまたお前が出てきたんだよ、クリム。まだ服役中じゃなかったのか? はっ、まさか脱獄……」

「そんな訳ないじゃん!! 五年前に無実だって証明されてるよ!」

「あ、ああ、そうだっけ? 忘れてた」

「もう、酷いなぁ~」

 頬をぷくーっと膨らませ、手を腰に当てて怒っている姿は、その本質を知らなければ、とても可愛い。小柄で童顔なのと相まって、ますます愛らしい。くりくりとした深紅の眼、流れるような栗色の髪、だぼだぼのコート、胸の辺りについたリボン、編上げのブーツ。どれをとっても愛おしくなる。

 ただし、それはこいつが少女であるならば、だ。

「全く、大体なんで僕が捕まったか覚えてないの!?」

「ははははは……。すまん」

「分かればよろしい」

 そう、クリムはれっきとした男だ。しかも、確か俺より○(ピー)歳上。まぁ、悪魔には年齢はない、というが……。

 “ん? どうした?”と首をかしげるクリム。これは……詐欺だ。

「で、本当に、何でお前が来たんだよ。今まで顔も見せなかったくせに」

「ローワに会いたくなったから☆」

「……」

「っていうのは冗談で、本当はノルマ終わって帰ろうとしたら、下の方にローワと女の人が暗ーい路地裏にいるのが見えたからね。しかも、結界まで張って、さらにその外側を四人の女の人で囲んでいたからね。心配になって、ちょいと手を出したのさ。……襲われてるのかと思って★」

「……」

「でも、まさかローワが、ミーネちゃん探そうとしてるなんてね……」

 やはり、こいつはどうもやりづらい。ふざけているのかと思いきや、いきなり核心をつくような発言をしてきたりする。喰えない奴だ。

「何だよ、俺らしくないってか?」

 妹を助けようと思うのがそんなに悪いか! とむきになって反論する。ところが。

「いや、むしろ逆。今までやろうとしなかった事が、不思議なぐらいさ」

 ……こいつには何でもお見通しなのだろうか。予想とかけ離れた答えに拍子抜けした俺は、つい本音をもらしかける。

「あー、まぁ色々あってな……」

 しかし、気まずそうに眼を泳がせる俺を見て、何か抜き差しならない事情があると悟ってくれたのだろう。特に追究しようともせず、彼は話を続ける。

「ふーん。それにしても、ローワにしては、ちょーっと浅はかだったね」

「? 何がだ?」

 きょとんとしている俺の顔を見て、はぁ、と溜息をつくクリム。本当にこの子はおバカさんだなぁ、と言わんばかりに、子どもを諭すように話し始める。

「天使に捕まって、自分も天使にされてから、彼女を探そうとしている所。確かに、僕達ならちょっとやそっとじゃ浄化されないけど、もし向こうが、僕達が幹部クラスの特級悪魔だって知ったら、やばかったんじゃない?」

――確かに。でも

「クリムはともかく、俺は表に出る事は少ないからな。面は割れてないはず。ばれる可能性は、低かったと思うぜ?」

 自信満々に言う俺に対し、クリムははぁ~、と今度は長い溜息をつきながら、首を横に振った。そして

「ん」

と自分の首の辺り、そして胸元を指差した。嗚呼、成程。

「……そりゃ、まぬけだよなぁ」

 さっきの天使が気がつかなかった事が、奇跡なぐらいである。反省している俺を見て、クリムは満足そうに、こう言った。

「だから、さ。本気で探すなら、まずは準備しないと、ねっ」

 この笑顔とウィンクに、果たして何人の男が騙されるんだろう、と思ってしまった俺がいた。


 悪魔と天使を見分ける方法は、意外と簡単だ。羽の形、服装、烙印等。違いは色々あるが、最も特徴的なのは、色だ。天使は白く、悪魔は黒い。だから、天使が悪魔を、悪魔が天使を、取り間違える事はない。

 が、悪魔にも天使にも階級があって、それを見分けるにはちとコツが要る。まぁ、慣れてしまえば大した事はないのだが。見分け方の一つは、服装だ。下級メンバーは決まりきった服装(制服、とでも呼ぶべきだろうか)しか出来ないが、幹部クラスになると、ある程度の節度を守れば、好きな服装が出来る。そしてその連中は、必ず自分達の紋章を象った、金属製のアクセサリーを身につけている。何故か。それは、烙印を押す為だ。先述した天使を悪魔に、そして悪魔を天使にする方法の一つが、これなのだ。

 “火”と“水”というのは、古来より聖なる物とされている。だから、対象者を天使にしたい場合は聖水に、悪魔にしたい場合は血(何の血かは聞くな)に、一時間から十日間浸す(この時間は階級によって決まる)。そして、意識朦朧としている所に、千度に熱した烙印を押しつける。まぁ、大抵の場合は液体に浸けこんでおけばそれだけで良いのだが、区別しやすくする為に止めをさすのだ。で、その作業は幹部がやるという決まりがあるので、皆肌身離さず持っている、という訳。

 んで、ここからは俺達にしかない特徴の話。俺達はちょいと特別、というかある意味異端児なので、更に見分けやすくなっている。まず、瞳の色が違う。俺は藍色。クリムは赤褐色。次に服。俺達は必ず、白と黒の両方の色を混ぜて着るよう、指示がなされている。他にも、烙印が他のとは異なり、特殊なものだったりする。

 というのも、俺とクリムは悪魔と天使の間に生まれた子供なのである。一応断っておくが、兄弟という訳では決してない。まぁ、より正確に言うならば、俺は生粋の悪魔であり、悪側の統率者である邪神を父に、穢されて悪魔になった下級天使を母に持つ。それに対し、クリムは天使共の長を母に、浄化された一級悪魔を父に持つ。だから、俺は天使の影響はそれほど受けずに済んだ。せいぜい、黒眼黒髪が蒼眼紺髪になった程度。だが、クリムは金眼金髪の天使には有り得ない、深紅の瞳と栗色の髪、おまけに根元の黒い、灰色がかった白い羽を持って生まれてきてしまった。その為、天界では生きてゆけず、俺の父さんが拾ってきたらしい。

 ……説明が長くなった。

「まぁ、よーするに、上記の点をどーにかこーにか隠し、改ざんし、“悪魔”から“天使”となった者、を装って侵入すれば良いって事だろ?」

「ご明察。……“上記の点”って所がよく分かんないけど」

「気にするな。……それより、服はどうにかなるにしても、烙印は……」

「だーいじょーぶ。僕の烙印は首と背中だし、ローワのは腕と足……だっけ? だから、余裕で隠せるよ」

「それもそうか」

 さっきクリムが言っていたのは、あくまでも今の服装だったらばれていた、という話だ。烙印というのはそう見せびらかすものでもないから、比較的目立たない場所に押される事が多い。隠そうと思えば、いくらでも隠せるのだ。

「じゃあ、いつにする?」

 これで心配事は無くなったのだろう。彼の方から、むしろノリノリで聞いてきた。

「そうだな……明後日。明後日までには、侵入したい」

「分かった。準備しとく」

「頼んだ」

 ひゅっ、と瞬く間に闇に消えるクリム。

 何故こんなに協力的なのだろう、とも少し疑ったが、そういえばあいつはこういう危ない橋を渡るのが好きだったな、と思い出す。だから捕まったんだし。

――しかし、大丈夫かな……? まぁいいや。あいつに任せるとしよう。

 普段はふざけた奴ではあるが、一度作戦参謀となればその手腕をいかんなく発揮し、常に味方の安全を保障しつつ勝利を収める。クリムはそういう奴だった。

 そう考え、俺はコンクリートむき出しの床に寝そべる。安心したら、疲れがどっと出てきた。少し休もう……。

 霞みゆく視界の中、夕焼けで茜に染まった空が、綺麗だった。


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