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1-24:ウフフフ。死ぬときはいっしょですよ、マロック。

 それは攻撃というより、爆撃という名の蹂躙。

 巨大な氷柱が空から落ちてくるごとに地表はえぐられ、降り積もった雪は吹きあがるようにはじけ飛び、そのたびに視界は真っ白に染まっていきました。


 こうなると回避しようという考えは捨て去るほかなく、マロックは一心不乱に雪原を駆けまわります。

 彼は泣きじゃくりながら、わたしに向かって祈るように、


「無理無理無理死ぬ死ぬ死ぬ!!!! 赤ずきんちゃん早くなんとかしてえ!!」 

「待って待って待って、今やってますから!! うおっと――緋焰防御輪ボローニアス!!」


 眼前まで迫っていた氷柱を防ごうと、わたしはとっさに無詠唱で防御魔法を試みます。

 奇跡的に術の発動こそ成功したものの……火焔の傘を生みだしてもなお、激突の衝撃だけは殺しきれません。マロックが牽くそりは大きく宙を浮き、危うく雪原に叩きつけられてしまうところでした。


 いかに日頃の行いがよい赤ずきんちゃんとて、この幸運は長続きしないでしょう。

 防御があまり意味をなさないのであれば、強引に攻撃をやめさせるほかありません。


 しかしティンカーベルの銃口を向けてみたものの、はるか上空を舞う女王の姿は渦を巻く吹雪に包まれ、うまく照準を合わせることができません。

 それでも撃つべきか逡巡したのち、わたしは弾が二発しかないことを危惧して、別の手段を選択します。

 雪原を疾駆するそりに揺らされながらもガサゴソと手を動かし、マロックの背中にこう言いました。


「こんなこともあろうかとっ!! 実はそりの中にも武器を隠しておいたのですっ!! しかもこれ、ロッジに置いてあった猟師さん秘蔵の一品ですよ!!」

「……ええ!? そんなものがあるならどうして、遺跡に持っていかなかったの!?」

「理由は単純。かさばるから持ち運びに不向きなのと、屋内で使うには危険すぎるから。逆に言えば――それだけの火力があるということです!!」


 そこで再び、無数の氷柱が上空から飛来してきました。

 雪原のいたるところで地表が爆散し、降り積もっていた雪が飛沫をあげるように激しく舞いあがります。

 マロックが牽くそりは轟音が響くごとにぽんぽんと宙を跳ね、しかし降りそそぐ氷柱の隙間を縫うようにして、上空からの爆撃を巧みに回避していきます。


 一方のわたしはバラバラに収納しておいた武器のパーツをガシャコンガシャコンと、手早く組み立てていきます。


 一見すると先端に突起がついた棍棒のようですが、発射用の引き金がついていることからティンカーベルと同じ銃器のたぐいだとわかります。

 しかし巷に出回っている銃器のほとんどが、古代の技術で作られたものなのに対し……猟師さんのロッジに眠っていたこの武器は、なんとさらに珍しい、ネバー・ネバーとは異なる世界の技術を用いて作られた一品なのでした。


「天上から喚ばれし幼き七人の勇者たち――彼らのひとりが愛用していたという、由緒正しき破壊の権化。その名もグレネードランチャーですっ!!」

 

 わたしは高らかにそう叫び、はるか上空を舞う蛾の女王めがけてランチャーを発射します。

 なにせ猟師さんのところで修行していたころに一度だけ見せてもらっただけなので、組み立ての手順はおろか、どっちが前なのかすらうろ覚え。

 しかし幸いにも記憶は間違っていなかったらしく、瓶のような先端部分が煙をあげてすっ飛んでいきました。


 そして見事――着弾。

 ティンカーベルをぶっ放したときと同じかそれ以上の凄まじい火花があがると、爆風が渦を巻いていた雲を吹き飛ばし、その中心にいた女王は黒々とした煙に包まれていきました。

 

 ずっと前だけを見ていたマロックも氷柱の雨が止んだことに気づいてか、そりの速度をわずかに落とし、期待に満ちた声でわたしに問いかけました。


「もしかして、今ので倒せた?」

「いえ、グレネードランチャーも物理攻撃ですから、魔法の結界で遮断されてしまいますよ。それでもあれだけの威力があれば、まったくの無傷というわけにはいかないでしょうけど」

「うへえ……ほんとに卑怯だよね、あいつ」

「最低でも羽の一枚くらいは吹っ飛ばしたでしょうし、攻撃が止んでいる今のうちに体勢を整えなくては」


 ところが……わたしの楽観的分析をあざ笑うように、役目を終えたグレネードランチャーを雪原に投げ捨てた直後、空からゴロゴロと嫌な音が響いてきます。

 上空を見れば蛾の女王はとくにダメージを受けた様子もなく、爆風で散ってしまった暗雲を平然と呼び戻しているようでした。


「ああ、もう……まったく、とんでもない相手にケンカを売ってしまいましたね」

「今からでも謝ったら許してくれないのかな? かな?」


 マロックがそりを牽きながら弱音を吐いたので、わたしは銀色の毛に包まれたお尻をティンカーベルの銃口で小突いてやります。

 最強で可愛い赤ずきんちゃんの辞書に「謝罪」とか「反省」という二文字はありませんし、そもそも必ず女王をぶちのめすと、ヴァージニアさんに誓ったのです。

 だからわたしはこう言いました。

 

「ティンカーベルを盛大にぶちかましてやりたいところなのですが……困ったことに吹雪が邪魔でうまく照準がつけられないのです。もうこうなったら、わたしたちも空を飛ぶほかないでしょう」

「え、そんなことできるの?」

「魔法の力を借りれば、なんとかなるかもしれません。さすがに試したことはないですけど」

「へえ……。赤ずきんちゃんはやっぱりすごいなあ……」

「というわけで思いっきり崖からダイブしてください」

「よしきた!! いっちょやってやるさ!!」


 頼れる相棒くんはそう息巻いて、そりの速度をぐんとあげます。

 しかし直後に間の抜けた声を出して、


「……え?」

「ウフフフ。死ぬときはいっしょですよ、マロック」

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