第43話 新女神の誕生とわくわくブッフェ
第43話
超巨大闘技場クルーズ船の内部は、港から見上げた外観以上に、常識を逸脱していた。
白亜と金属で構成された回廊は、ただ広いだけではない。天井は高く、光はどこからともなく満ち、まるで船というより神殿都市の内部を歩いているかのようだった。
そのとき、不意に――空気が、わずかに揺れた。
「……神様、いえ、ハゲ。あれ?どっちだっけ。
まあどっちでもいいや。とにかく、ハゲ神様、今の感じましたか?」
足を止めた女神こずえが、胸元に手を当てる。
視線は、天井でも壁でもなく、もっと“遠く”を見ていた。
「いや、あのね……これ儂のせいじゃなくて、人間が持つ神のイメージだからね?どっちでも良いって……
とにかく、感じたよ。ちいと遠いな」
神様は顎に手をやり、目を細める。
「この船の中ではない。……いや、儂が知る世界ですらないかもしれん」
「女神だけが持つ、神聖力、でしょうね」
女神メタスが小さく息を吸い、確かめるように言った。
「でも……不思議です。なにか、質が、私の力と少し似ていた気がします」
「こずえ先輩に似てる?」
女神エアリスが首を傾げる。
「うん。でも、一部はエアリスの持つ、力強さみたいなのも感じた。距離が遠すぎる。反響だけが、かすかに届いている感じで……」
神様はしばらく黙考し、それから軽く笑った。
「ほっほっほ、こんな船だ。何があっても不思議じゃない。後で調べるとしよう。今日は――」
「そうですね、バカンスでしたね」
女神こずえが微笑む。
「バカンスにしゅっぱーつ!」
話はそこで区切られ、一行はチェックインカウンターへと向かった。
――準備されていた部屋は二つ……結果から言えば、このクルーズ船で一番の部屋。
超が付くスイートルームだった。
しかも“スイート”という言葉の定義がおかしい。
リビングだけで普通の家一軒分はあり、バルコニーの先には外洋が広がっている。
そして本日の部屋割りは―――
銀髪の少女とメイド、そして女神こずえと女神エアリス、女神メタスの女性五人。
「ウヒヒ、お姫様と同じ部屋」
「あら、素敵な部屋ね。お嬢様、よろしくお願いします」
「このキングベッドはお嬢様と私で使いますので」
「やだやだ、私がお姫様と一緒に寝るの!」
「こずえ先輩、ボクが一緒に寝てあげますから」
そして、神様とレン、配信ドローンの視聴者組。
「……神様、レンと申します。よろしくお願いします」
「ほっほっほ、君の事は儂も応援してるよ」
『レンというか、俺たちも神様と同室か』
「レン君に変なことしないでくださいよ神様」
女神エアリスが冗談っぽく言った。
荷物を置き、軽く身支度を整えたところで、廊下の向こうから聞き慣れた声がした。
「お、いたいた!」
勇者土呂野を先頭に、僧侶サマンサ、魔法使いニーシャ、戦士ダレン――異世界ガイアで共に戦った勇者パーティーの一行だった。
「レン君、ちょうど今からご飯に行くところなんだ。一緒にどうだい?」
「地球の神様、お会いできて光栄です。ガイアの司祭のサマンサと申します。私の願いを聞いて下さり、皆様を私たちの世界に派遣してくださったのですね」
僧侶サマンサが、敬愛する神様に近づき、その美しい手でそっとハゲ頭を撫であげる。
「なぜもっと早く、声を聞いてくださらなかったのです?」
「ひ、ひいい。すまん、儂の担当じゃなかったんよ。あそこは儂じゃなくて精霊が担当しておっての」
「本当に感謝しております、神よ」
僧侶サマンサは神の前に跪き、感謝の言葉を述べる。
「そんなハゲに礼なんか言わなくても良いわよ、さっ早く行きましょ」
「ブッフェだそうですよ」
「うわーボクめっちゃ楽しみ」
こうして自然な流れで、二つの一行は合流し、メインダイニングへと向かった。
ブッフェ会場は、もはや“食堂”という規模ではなかった。
円形に広がる空間の中央には噴水のような装飾があり、その周囲を取り囲むように、世界各地――いや、世界を超えた料理が並んでいる。
香りが、まず凄い。
焼き立ての肉の脂、香草と柑橘を合わせた爽やかな匂い、甘く香る焼き菓子。
「え、これが全部……食べ放題ですか?」
レンが真顔が唾を飲む。
「よし、ボクは全種類食べるぞ!」
「あまり食べすぎると水着が着られなくなるわよ」
「へえ、すごく豪華ね」
「ほっほっほ、儂もこんなにわくわくするのは久しぶりじゃのう」
「お嬢様、少しずつ色んな味を楽しみましょう」
「ラーメンもある?」
「お嬢様、あちらにビーフシチューもございますよ」
巨大なローストビーストは、表面が香ばしく、中は信じられないほど柔らかい。
ナイフを入れれば、肉汁が静かに溢れ、特製のソースと絡む。
隣には海の幸のコーナー。
透明感のある白身魚のカルパッチョ、貝類を香草で蒸したもの、異世界産らしい色鮮やかな海藻のマリネ。
「お寿司は、好きな物をその場で握ってくれるみたいですね」
「サマンサはお寿司が好きだね」
「あら、私たちの世界の料理もけっこうあるわね」
「俺は刺身を食いまくるぞ」
異世界ガイアの勇者パーティーも興奮を隠せない様子。
パンの種類も異常だった。
外は硬く中はもっちりしたもの、甘い果実を練り込んだもの、チーズがとろけ出す小ぶりなパン。
デザートに至っては、もはや宝石箱だ。
果実のタルト、光を反射するゼリー、温かいチョコレートソースをかけると完成するケーキ。
「これはさすがに、食べきれないわね」
「でもほら、食事は明日も食べますから」
「毎日メニューが変わるそうですよ」
「バフをかけてくれ、いっぱい食べられるようになるやつ」
「これは……もう戦いです、負けられない戦いよ」
配信ドローン越しに、視聴者のコメントも流れ続けていた。
『飯テロすぎる』
『ここ住めるだろ』
『神様も並んで皿持ってるの草』
『ここ、普通のバイキングの何倍ある?』
『これでメニューが毎日変わるだと!?』
満腹と満足が、ゆっくりと全員を包む。
「この後、夜のショーがあるそうですよ」
メイドが予定表を確認しながら言った。
「ほう、それは楽しみですな」
神様が目を細める。
「しかし、この船で“夜のショー”か。ちと嫌な予感もするがな」
だが、その表情はどこか楽しそうだった。
白亜の船は、静かに外洋へと進み始めていた。
ときめきTS女神転生な死霊
主人公のTS女神が、死者を蘇生させるという奇跡を見せました。神界の方々はその力を感じ取ったようです。
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