第42話 宇宙最大級闘技場クルーズの就航【挿絵あり】
第42話
女神こずえの、ほんの軽い一言がすべての始まりだった。
「……たまには、クルーズ船でバカンスでも楽しみたいわね。お姫様と一緒にゆっくりしたいな」
「クルーズ船?バカンス?」
紅茶を飲みながら、気まぐれにした世間話にすぎなかったのだが。
――それを聞いたメイドが執事に相談。
お嬢様が大変に興味を持たれている事を知り、関係者を集めての緊急会議が開かれる。
そして一時間後、世界を揺るがす決定が下された。
週末闘技場大会を企画・運営する巨大組織――
闘技興行管理機構
代表は、銀髪のお嬢様。
全ての事業はお嬢様のためだけに行われる。
実務統括は執事。
予算、調整、交渉、国家間折衝、神格間契約――
すべてを淡々と処理する影の中枢。
企画・現場責任者を務めるのが――
かつて邪神と恐れられ、今は改心した下級神。
ゼラリスである。
「お嬢様が“クルーズ船でバカンス”をご所望です」
「せっかくだし闘技場も載せましょう。
どうせなら宇宙最大級のクルーズ船を作りましょう」
そして日本の造船史上、前例のない注文が出される。
――クルーズ船兼、週末闘技場大会用移動要塞の建造。
注文を受けたのは、日本の全ての造船会社だけでなく、あらゆる分野の企業と関係者。
加えて、建設系・空間系・防御系・概念干渉系といった
チート級スキル保持者たち。
まさに――
日本の全総力を挙げての建造計画だった。
しかも工期は、常識を完全に無視していた。
理由は単純。
チートスキルと執事の全面的な協力があったからである。
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完成したそれは、もはや「船」という言葉では足りなかった。
カタログに書かれたスペック見てもそれは一目瞭然だった。軽くまとめてみる。
全長は、現代世界最大級クルーズ船の約十倍。
幅も高さも規格外。
甲板の上には街があり、空があり、森があった。
収容人数は、
乗客最大 40,000人 (最大50,000人 )
従業員 20,000人
合計60,000人
完全自立型・海上都市要塞。
船体は多層構造。
外殻は、
物理攻撃、魔法攻撃、呪い、概念干渉すら耐える
複合装甲と多重結界で覆われている。
船体の先端部には、この船の象徴とも言える施設が存在する。
――完全独立型・全周囲結界闘技場。
可動式天井。
観客席40,000人規模。
結界は段階制御式で、
あらゆる戦いに対応。
闘技場で何が起きようと、
船体・乗客・世界そのものに影響は及ばない。
だが、この船の異常性はそれだけではない。
ヤマトは、通常の海を航行するだけの存在ではない。
この船は――
地球の海
異世界ガイアの外洋
その狭間に存在する中間海域
を自由に行き来できる。
クルーズ船でありながら、
世界を跨ぐ移動拠点なのである。
上層部には、
異世界ガイア由来の世界樹の苗を中核とした
《ワールドツリー・ガーデン》。
空間拡張によって森一つ分の広さを持ち、船内に大自然が広がる。
王族、貴族専用区画
神々のみが入室可能なラウンジ
深海と異世界海底を覗くことのできる窓。
各世界への帰還用転移ゲート
まで完備。
もちろん、娯楽施設も常軌を逸している。
カジノ、劇場、映画館。
異世界料理から地球料理まで揃うレストラン街。
温泉街区、巨大ショッピングモール。
空中庭園、魔導遊園地、イベント用エリア。
そして本日。
この日本の夢の結晶は、ついに就航の日を迎えた。
正式名称――
《グランド・アリーナ・ヤマト》
通称、ヤマト。
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処女航海
港に浮かぶそれは、もはや船という言葉を拒絶していた。
鋼と白亜で構成された超巨大船体は、まるで都市そのものを海面へ押し付けるかのように鎮座し、波すら遠慮がちに砕けている。
視界に収まりきらないその輪郭は、見る者の感覚を少しずつ狂わせ、周囲の空気までもが張り詰めていた。
タラップの手前で、銀髪の少女は足を止め、静かに目を細める。
「……クルーズ船でバカンス。楽しみ」
お嬢様の言葉には期待が混じっていた。
「お嬢様、こちらでございます」
すかさずメイドが一礼し、進路を示す。
「いや、これ……本当に凄すぎですよ。
日本企業頑張りましたね」
レンは船体を見上げ、苦笑いする。
「きゃー、すごいの作ったわねぇ!
めっちゃ楽しみなんだけど!」
女神こずえは完全にテンションが振り切れていた。
「ボク、この日のために新しい水着買いました。
けっこう大胆なやつ」
女神エアリスが挑発的にポーズをとる。
もちろんその光景は、すでに配信ドローンを通じて世界中へ中継されていた。
映像だけでなく、風、潮の匂い、魔力の揺らぎまでもが伝わる6D配信。
視聴者のコメントが、洪水のように流れ始める。
『うひゃあ、これ本当に船か?』
『いや、完全に都市だろ』
『世界中のVIPが集まってるってマジ?』
『俺、部屋から処女航海に立ち会ってるんだが』
『6Dに切り替えた? 海の匂いがする!』
『魔力まで感じるんだけど……』
『俺のPCじゃ5Dが限界だ……』
『そもそも、これ何で浮いてるの?』
浮いている――それだけで、十分すぎるほどの“異常”だった。
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「ハゲー、じゃなくて神様とメタスー。早くー!こっちこっちー!」
雑踏の中から、女神こずえの無遠慮な声が響く。
「はは、儂まで招待してもらって悪いね」
そう言って現れた神様は、どこかくつろいだ様子だった。
その背後には、天界の同僚女神――メタスの姿もある。
「久しぶりのバカンスね」
メタスが微笑むと、周囲の空気が一瞬だけ柔らいだ。
天界からの来賓だけではない。
この処女航海には、あらゆる世界、あらゆる立場の存在が招かれていた。
勇者パーティー。
勇者・土呂野と、その恋人である僧侶サマンサ。
魔法使いニーシャ、戦士ダレン。
異世界ガイアからは、
獣王、ドワーフ王、ハイエルフ、そして人族の王族とその関係者たち。
かつて地球から召喚され、
異世界ガイアのために戦った召喚戦士たちも、当然のように名を連ねている。
週末闘技場大会の関係者も顔ぶれは濃い。
ロードミノタウロス、ロードリッチ、ダンジョンマスター――
地球ダンジョンで知己を得た“友人たち”。
悪霊の貞美やよしお君。
肝試し大会で名を馳せた邪神ボズズと、その周囲の悪霊たち。
さらには、邪龍ファブニーズの誘いで集まった面々――
女装男子キュウちゃん、おとこの娘カオル、JKエリカ、阿倍野ハルアキまでが、
当然の顔をしてタラップに並んでいる。
有名インフルエンサーとなった女装男子、悪魔王サタンも招待されていた。
こうして、
人、魔、神、霊、英雄、王――
ありとあらゆる存在を乗せ、
超巨大闘技場クルーズ
**《グランド・アリーナ・ヤマト》**は、
いま、静かに港を離れようとしている。
もっと巨大なクルーズ船を描きたかったのですが、とりあえず完成したこれを貼っておきます。
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