第38話 美少女と 今日から始める SNS 【挿絵あり】
第38話
スキー場からの帰り道。
身体に残る心地よい疲労を引きずりながら、いつものメンバーはサービスエリアのカフェに立ち寄っていた。
窓際の大きなテーブル。
外はまだ白い雪が残っているが、店内は暖かく、甘い匂いが漂っている。
「はぁ……生き返りますね」
そう言って、僧侶サマンサはカップを両手で包み込んだ。
「ボクはホットココアが好き」
女神エアリスが気の抜けた声で言う。
メイドは黙って紅茶を飲み、
レンは椅子にもたれてスマートフォンをいじっていた。
そして、テーブルの中央。
銀髪の少女――“お嬢様”は、目の前のパフェをじっと見つめている。
「……そろそろ食べる」
誰に向けたとも分からない一言。
その様子を見て、女神こずえがニヤリと笑った。
「ねえねえ。せっかくだしさ」
こずえはスマートフォンを掲げる。
「お姫様もSNS、始めてみない?」
一瞬、間が空いた。
「……えす、えぬ、えす?」
お嬢様が小首を傾げる。
「写真とか動画を上げるやつなの。今の世界じゃ、みんなやってるから」
「ふむ……国のリーダー達もやっていますね」
メイドがスマホで大統領のSNSを確認する。
「難しい事は考えず、ただ日常の一コマを投稿すればいいんですよ」
レンが自身のSNSを見せる。
「でもさ」
女神こずえはお嬢様を見て、確信したように言う。
「お姫様なら、絶対バズるよ」
「いつもドローン先輩で配信してますが、世界中の人達からメッセージを受け取れるのはすごいですよね」
お嬢様は少し考え、そして静かに頷いた。
「じゃ、やってみる……」
「決まり!」
こずえは立ち上がり、カメラを構える。
「じゃ、最初は記念写真ね。自然体で、パフェと一緒に」
まだ写真に慣れていないお嬢様は困った顔をする。
こずえは手早くアカウントを作り、写真をアップロードする。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
今からパフェを食べます
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「はい、投稿っと」
「……これで、いい?」
「最初はシンプルでいいの」
数秒後。
「……ん?」
こずえの表情が変わる。
「あ、きたきた」
画面の数字が、あり得ない速度で跳ね上がっていた。
♡ 100
♡ 1000
♡ 1万
♡ 10万
コメント欄が、滝のように流れ出す。
・「お嬢様!?」
・「お嬢様インスタート始めたの?」
・「好きです好きです」
・「空気が高貴すぎる」
・「お嬢様と抹茶パフェ」
・「このカフェどこ」
・「フォローしました」
・「パフェになりたいです」
・「このお方が銀髪のお嬢様」
・「パフェ イッショ タベタイ」
・「余も見ておりますぞ」
・「今日を記念してお嬢様初投稿祭りを開催する」
・「お嬢様巡礼に加えねば」
・「お嬢様はパフェがお好きなのか」
・「銀髪きれー」
・「またガイアにもいらっしゃってほしい」
・「確か大判焼きもお好きだぞ」
「ちょ、ちょっと勢いがすごいですね……」
レンが覗き込み、目を見開く。
「フォロワー増加速度、バグってる」
「……皆さま、落ち着いてください」
サマンサは言いつつ、自分もスマホを握りしめていた。
お嬢様は、状況がよく分からないまま画面を見つめる。
『レンの配信チャンネルで俺らはいつも会えるけど、仕事中で見られない人もいるからな』
『お嬢様を知らない地球人なんていないだろうけど』
『困った顔も素敵』
『いいね1000個くらい付けたい』
『ここに広告出せるなら何十億でもだすわ』
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
このSNS――インスタートグラムには、
既にAI追尾型配信ドローンであるドローン先輩からの指示で、彼女専用の特別な運営システムが組み込まれている。
悪意、嘲笑、侮辱。
お嬢様を不快にさせる可能性のある言葉は、
投稿される前に、すべて消される。
投稿しようとした瞬間に、
書き手のアカウントごと、静かに――消える。
だが。
その完璧な世界に、
ほんの小さなノイズが混じった。
・「……意外と、普通のお嬢様なんですね」
ギリギリ。
本当に、ぎりぎりの一文。
そのコメントを書き込んだ天才ハッカーは、
次の瞬間、背筋が凍った。
――背後に、誰かがいる。直接、心臓を鷲掴みにされているようなプレッシャーを感じる。
恐る恐る振り向くと、
そこには笑顔の黒服の執事が立っていた。
無言。
笑顔のまま、ピクリとも動かず、ただパソコンの画面を覗いている。
慌てて、ハッカーは文字を打ち始めた。
・「普通というのは完成度が高いという意味で」
・「飾らないのに品があって」
・「つまりお嬢様の魅力を最大限に引き出していて、
そういう最高の褒め言葉としての普通というか」
送信。
送信。
送信。
執事は、しばらくそれを見つめ――
満足したように、小さく一礼した。
そして、消えた。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「……?」
何も知らない少女は、
パフェのスプーンを手に取って首を傾げる。
「すごいお姫様、コメントがどんどん増えていく」
「ボクも始めてみようかな」
「ガイアからのコメントもたくさん来てますね」
「炎上など私がさせません」
また人間界に理解を深める銀髪の少女であった。
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