第21話 邪神と週末闘技大会
第21話―――異世界編④
闘技場に、熱気が満ちていた。
勇者チームと邪神――神の一柱との戦いが、始まった。
通常、人間の武器では神に傷ひとつ与えられない。
だが、トロの剣と霊刀富士山だけは別だった。
神性に干渉する特攻効果を持つその刃は、確かに邪神の肉体を捉え、ダメージを与えていた。
「効いてる、効いてるぞ! 邪神に対して勇者パーティーが攻め立てる!」
リングアナ兼実況が、興奮しながら戦いの様子を全世界に実況する。
観客席の大歓声と視聴者欄のコメントが洪水のように流れる。
《そこだレンいけー!》
《魔法使いの詠唱きれい!》
《ヨイパーティデスネ》
『邪神とは言え相手は神。人間では傷つける事は叶わぬはずだが』
『ぼくのあばどんでじゃしんなんていっぱつなのに』
『デバフかけろデバフ』
『魔法使いの人好みだわ』
戦士ダレンにも対邪神のバフがかけられ、邪神を切り裂く。かつて破壊神すらも圧倒した魔法使いニーシャの大魔法が炸裂する。
僧侶サマンサは一瞬も手を止めず、バフ、デバフ、回復を完璧なタイミングで回していた。
レンは即席パーティーにも関わらず、前に出過ぎず、連携を優先するように立ち回っていた。
「この戦いをどう見ますか、解説の館長さん」
「美しい連携ですね。これぞかつて破壊神を倒した伝説のパーティーです。そしてそれに付いて行くレン君も素晴らしいの一言」
解説席の館長さんの言葉どおり、邪神の攻撃はすべてが即死級にもかかわらず、誰ひとり倒れない。
霊刀富士山による耐久バフ、サマンサのバフが、邪神という神の攻撃を防いでいた。
試合開始前に執事から「見せる戦い」をするように厳命されていた両者は、まるでプロレスのように相手の全てを受け止めた。
「いくぞ邪神よ、これが受けられるか!」
「その技は!!いいだろう、見せてみよ!」
土呂野勇者が大技を放つ際、隙だらけになるという短所があるが、邪神は両手を広げて待ち構える。
「見事だ、勇者パーティーよ、次はこちらの番。この一撃、受けてみよ」
邪神が両手をクロスし、力を溜める。
「邪神が何かやってくるつもりだぞ、勇者パーティーは耐えられるのか!?」
『む、いかんあの技は!?』
『見る見る邪神の攻撃力が上がっていく!』
『ねえ、いまのうちにこうげきしちゃだめなの?』
勇者パーティも全身全霊を持って、構え、邪神の攻撃を受けて立つ。
互角の戦いが続く。
―――
その頃、闘技場の王族専用の特別観覧席で、少女は、メイドに給仕された焼きそばを口にしながら、優雅に戦いを眺めている。
執事が丁寧に説明を添える。
「ご心配なくお嬢様。先程お嬢様に貸していただいた、きてぃさんのぬいぐるみを使わせていただき、この闘技場全体にバフをかけておきましたゆえ」
「うん、ありがと」
―――
その時、ついに戦いが動いた。
邪神の渾身の一撃が、戦士ダレンの胸を貫いた。
「ダレン!」「いやあああ」
叫び声が上がる――が。
「……ん?」
ダレンは、何事もなかったかのように立っていた。
「おおっと、自動蘇生のバフか!? 」
実況が即座に説明する。
「えー、執事様からの情報によりますと、この闘技場には皆さんの安全の為の処置や、自動蘇生バフ等がかけられている、との事です」
「ですから皆さん、安心してご家族でご覧下さい」
「それは安心ですね、しかしそうなると、勝敗はポイント制でしょうか」
続いて、勇者パーティーの合体技、ミナデアウトが邪神の胸を貫く。
「ぐはあ、ば、バカな!」
「やったか!? 」
邪神は崩れ落ち――そして、同じように自動蘇生された。
場内にどよめきが走る。
「勇者パーティーの決定打が入りましたが、邪神にも自動復活は適応される仕様のようだーー!」
「これはお子様も安心して見られますね」
『ボスまで蘇生ワロタw』
『じゃあこれいつ、どうやって終わるの?』
『配慮に感謝だよ、今子供と見てるからさ』
『解説がポイント制とか話してなかった?』
―――
勇者パーティ、邪神、互いに全てを出しあって戦いは続いた。
邪神にとっても、これほどの強者と戦うのは初めての経験であった。
戦いの途中、邪神が僧侶サマンサに話しかける。
「そこの女僧侶よ、なぜお前はそのように楽しそうに戦っているのだ」
「こうやって、皆でもう一度、一緒に戦えるのが嬉しいんです、貴方だって、どこか楽しそうに見えますよ」
「そうか」
邪神はレンの攻撃をギリギリのところで躱しながら、いつの間にか物思いにふけっていた。
何故かあの女僧侶を見ていると、同じようによく笑っていた彼女の事を思い出す。
かつて、邪神がまだ下級の神だった頃。 同じ下級の女神を愛した。しかし彼女は卑劣な人間と魔族の罠にかかり殺された。
その悲しみと絶望から逃げるために、彼は狂った。
彼には、狂うしか方法がなかった。
―――
空中からの勇者の必殺の一撃を受け、邪神は闘技場に叩きつけられた。
もう、力が出ない。
先程の勇者の攻撃、あれは本当に見事だった。レンという少年の華麗な技の数々、蘇生バフがなければ、とうの昔に終わっていたはずだ。
「……もうよい。
俺は疲れた。勇者よ、トドメを刺せ。
執事様……どうか蘇生はしないで頂きたい」
邪神は数百年ぶりに、かつて愛した女性を思い出してしまったせいで、そして、彼女の顔を、鮮明に頭に描いてしまった時点で、もう戦意は無くなっていた。
忘れていたはずの、愛した人。
もし彼女が、今の、この情けない自分の姿を見たらどう思うだろうか。
愛した女性の死に目を背け、ただひたすらに狂った男の末路、
真の勇ある者に討たれるのなら、それも本望。
「勇者よ、頼む。もう、終わらせてくれ」
「……」
邪神は目を閉じたまま、静かに終わりを待った。
「キミ、起きろよ」
勇者の声ではない。
それは数百年ぶりの声。
死の直前に脳が聞かせた幻聴か。
邪神は目を開ける。
そこには、
―――はるか昔に死んだはずの、愛した女性が立っていた。
邪神ははっとする。
元勇者パーティーのメンバーも記憶を元に蘇生したと―――
邪神が何か声を発しようとした時、
突然、その美しい女性は―――邪神を殴った。
「このバカヤロー」
「ボクは、キミに……堕ちてほしくなんて……」
「なんで堕ちた、どうして……うう、キミは」
「キミが、ボクは、ボクはそんなこと……」
「なぜ、なぜ堕天した、このバカ」
「愛した女が殺されたから?」
「ボクの死から逃げたのか! 」
「なぜ堕ちた、答えろこの大バカヤロウ」
「………」
美しい下級女神は、赤子のように泣きじゃくりながら、目の前の、神から堕ちた男を殴り続けた。
男も涙を流し、ただ黙って殴られ続けた。
―――
「あの女神、ボクっk…」
観客席のメガネが何か言いかけたが、隣にいた人に首を絞められて落とされた。
勇者パーティーの誰も、観客の誰も、一言も発せず、闘技場の中央で、泣きじゃくりながら男を殴り続ける美しい女性を、眺めていた。
―――
「お嬢様はお優しい」
執事が、敬愛する主人をちらりと見る。
少女は美味しそうに抹茶チョコレートパフェを食べていた。
常にお嬢様の側に仕え、片時も離れないあのメイドも、そしてお父上である御館様すらも、お嬢様の持つ本当の力には気がついていない。
おそらく、
お嬢様には―――視えている。
お嬢様、やはり貴方様は……
そこまで考えて執事は頭を振る。
私はお嬢様の下僕。それだけで良い。
―――――
「素晴らしい戦いでした」
闘技場に執事が現れ、健闘した闘士達に拍手を送る。
「お嬢様は大変ご満足なされた」
「この勝負は勇者パーティーの勝ちとする」
「そして敗者である邪神殿の処遇と…」
ちらりと、泣き腫らした下級女神を見る。
「そちらの可憐な女神様についてだが…」
女神は、土下座のように頭を下げる。
「償います、このバカな男と一緒に、償わせてください」
「この男がしでかしたこと、ボクも一生をかけて償います」
「お願いします、どうか、ご慈悲を」
「この男が今まで奪ってきたすべてに、ボクも一緒に償います」
殴られすぎて顔が腫れ上がった―――かつて下級の神であったゼラリスも執事へ、会場の観客席へ、そして配信カメラへ向かって頭を下げる。
「私に…償わせてください」
執事はふむ、と顎を触る
「人間界で今流行っている、お嬢様もお好きなアニメーション、があってね」
「神々と人間の英雄が闘技場で戦うという、そういう物語」
「私はこの闘技場で、毎週末にそのような戦いを開催しようと考えている、お嬢様の為に」
「そのための闘士を探さなければならない」
「もちろん神側の闘士もね」
「お二人には、ぜひ最初の闘士になってもらいたい」
「ちなみに、拒否権は…ない」
顔を腫らした男と、泣き腫れた顔の女は、ただ静かに頭を下げた。
この決定に不満を唱えられる者などいなかった。
そして―――大歓声。
『よっしゃああ』
『俺も参加するぞ』
『ぼくはあばどんのせんしになる!』
『ワタシノヴァンパイアカデ、ナリアガル!』
そこへ、最近すっかり姿を見せなかったこずえ――現在は女神こずえが現れる。
「あの、お話し中すみません。良かったらそちらの女神ちゃんには、私の仕事も少し手伝ってもらいたいなーと。
あと、さっき気が付いたんですが、地球と、この星―――ガイアが繋がっちゃってるんです、その、新幹線で。
きっとお嬢様がやったのかなーって」
「ふむ」
執事は少し思案するような仕草をする
「ひ、ひぃ。い、いえ、大丈夫です。ここと地球で行き来しやすくなるし」
「女神こずえ様にはご苦労をおかけしますが、貴方様の上司の方にも話は通して置きますのでご心配なく」
そう言ってから執事は、この催しの、閉会の言葉を述べた。
―――
「勇者様、本当に帰っちゃうんですか」
「俺はもう、あちらの人間だからね」
「また、絶対に来てくれますよね? 」
「週末に来るよ。片道二時間だからね」
「レン君も色々とありがとう」
「サマンサさん、ニーシャさん、ダレンさん、また来週、会いに来ますね」
―――そんな、あまりにも軽い別れの言葉とともに。
一行は別れた。
日常編に戻る。
異世界編は全4話になりましたが、一応ハッピーエンドで終わりです。
次話からまた日常編に戻るつもりです。
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