第19話 獣人国と地球人無双
第19話―――異世界編②
邪神の軍勢に奪われた獣人の首都に、もはやかつての面影はなかった。地上は焼き払われ、建物は瓦礫と化し、空気には血と煤の匂いが染みついている。
かつて子どもたちの笑い声が響いていた広場は、今では処刑場として使われている。
生き残った獣人たちは、地下へと追いやられていた。
暗く、湿った坑道。
光の届かない地の底で、彼らは奴隷として働かされていた。
倒れた者に助けはない。
動かなくなった者は、そのまま放置される。
ともだちが、近所のおじさんたちが次々と死んでいく。
―――次はじぶんだろう。
まだ幼さの残る獣人の少女は、痩せ細った腕で妹を抱いていた。
妹の呼吸は浅く、今にも消えそうだった。
「……だれか……」
声を出す力も、もう残っていない。
「私は……どうなってもいい……」
震える唇で、少女は祈る。
「……妹だけは……おねがい、たすけて……」
助けなど来ない。
かつて無敵を誇った獣人国騎士団は、とうの昔に壊滅している。
ここは、何の希望も抱いてはならない場所。
少女の視界が、ゆっくりと暗くなっていく。
―――
その少し前
獣人、エルフ、ドワーフ、人間――
生き残っている各種族の代表が一堂に会していた。
獣王。
ハイエルフ。
ドワーフ王。
人間の王。
そして、大司祭サマンサ。
その背後には、元勇者・土呂野ヨシヒト、レン。
少女、メイド、女神こずえはこの場にはいなかった。
宙には、AI追尾型配信ドローン。
その光景は、地球の視聴者たちにもリアルタイムで共有されていた。
「……本当に、その男が勇者トロなのか?」
ドワーフ王が、疑わしげに土呂野を見つめる。
「たしかに、凄まじい力は感じるが……」
獣王も腕を組み、同じく視線を向ける。
二人の視線は、自然と土呂野の持つ剣へと吸い寄せられていた。
―――明らかに、桁違いの業物。
見るからに、危険な気配を放っている。
「……隣の坊やも、強者ね」
ハイエルフが、静かに言った。
その視線は、レンとその手に持つ霊刀富士山に向けられている。
土呂野は、軽く肩をすくめた。
「まあ……百聞は一見にしかず、だ」
次の瞬間。
―――力が、解放された。
空気が震え、周囲の者たちは息を呑む。
「……これは……」
ドワーフ王の目が見開かれる。
「こちらに来てから、どうやら全盛期の力を取り戻したみたいだ」
「おお、なんと……」
ドワーフ王は、感嘆の息を漏らす。
「今はお主は、土呂野というのか……ならば――
土呂野勇者だな」
作戦は、決まった。
まずは、邪神四天王に奪われた獣人の首都を奪還する。
土呂野勇者を先頭に、レン、そして各種族の精鋭の進撃が始まった。この星の未来をかけて。
―――
「サマンサちゃん、私を召喚して」
「……はい、わかりました。よろしくお願いします」
サマンサは、深く息を吸う。
「ワシイチ、カナエさんを召喚」
光が弾ける。
配信ドローンのレンズから一人の女性が現れる。
「スキル――
タイ――スリー、ユージは、ソンリッツ、キッキジターイ!」
現れた女性が呪文を詠唱し、スキルを使用する。
突如、どこからともなく、謎の軍勢が現れた。
規律正しく、迷いなく、統制された、圧倒的な動きで――
この地を理不尽に奪い、獣人達の楽園を踏み荒らした憎き邪神の手下、モンスター、悪魔たちが、次々と謎の軍勢に屠られていく。
「……サマンサさん、次は僕を呼び出すんだ」
「はい。獣人達の国を、いえ、この星のために、お願いします。オオカワ、シンペイさんを召喚!」
召喚されたのは、金属製の棒のような物を持った、異様に背の高い屈強な男性。
大男は軽やかに走り出すと、手に持つ金属製の棒のような物で次々と邪神の手下達を撲殺して行った。
―――
サマンサは驚愕していた。
あまりにも、この人達は強すぎる。
あの恐ろしい邪神の手下達が手も足も出ないまま、次々と片付けられていく。
悪魔のように恐ろしい上級モンスターが、今も金属製の棒のような物を持った大男に追いかけられ、悲鳴にも似た絶叫をあげていた。
サマンサは手に持つ謎の人形に目を向ける。
進軍の途中、姿が見えなかった例の美少女がサマンサの元へ現れ、この謎の人形を渡してくれた。
「これ、イオニで買った人形なの、これでみんなを呼び寄せて」
意味はよくわからなかったが、人形を手に取りそっと念じてみる。
頭の中に突然情報が溢れ出す。
スキル―――地球人召喚を使用可能。
同時召喚可能人数200人。
所持召喚地球人一覧。
―――28,794,367人
『 ――― ――― 』検索
―――
異世界に来た者がチートスキルやチート能力を得るのは、テンプレだった。
そしてその恩恵は、配信ドローンを通じて視聴している地球の視聴者たちにも及んでいた。
『俺のスキル強奪だわ』『俺のは火魔法( 極 )』
『私のは回復魔法』『わしのはネットでお買い物』
『ワタシノハヴァンパイアカデスネ』
『ぼくのは、ちょうめつきょくだいせんめつまほう、あばどん?なんかへんなのー 』『私のは、おいしい料理だ』『拙者は超アイテムボックスですな』
少女がショッピングモールで買った、謎の人形。
それを掲げることで、サマンサは地球人召喚という謎のスキルを使えるようになっていた。
「サマンサ殿、次は私を」
「はい……どうかお願いします。タダノ、クタビレタサラリーマンタナカさんを召喚」
ドローンのレンズから、スーツ姿のくたびれた中年の男が現れる。
「スキル、社畜」
発動した瞬間。
モンスターと悪魔たちが、突然うずくまり始めた。
「もう……嫌だ……」
「帰りたい……」
「働きたくない……」
「ブツブツ、ウフフ」
モンスターや悪魔達の精神が、崩壊していく。
「今のうちに、囚われている獣人の皆さんを助けましょう!」
タナカさんが叫んだ。
―――
「そういえばレン君は何かスキルを得たのかい?」
「はい、僕のは自動販売機召喚でした、何か飲みますか?」
「そ、そうか、じゃあ冷たいコーヒーをもらおう」
「土呂野さんは何でしたか?」
「俺は新しく持久力アップ( 中 )をもらったよ」
「あー結構良さそうですねそれ、あ、そろそろ終わったみたいですね」
レンと土呂野勇者は特に出番も無く、無双を続ける召喚地球人の後をついて行った。
―――
獣人の首都奪還が目前に迫った、そのときだった。
空気が――歪んだ。
大地の裂け目から、黒い霧が噴き上がる。
「……ほう」
低く、不快な声。
霧の中から現れたのは、異様な存在だった。
人型ではあるが、背丈は三メートルを超え、背中からは黒曜石のような翼。
顔は仮面のように歪み、眼孔の奥で赤い光が揺らめいている。
「我は邪神軍の四天王が一人――
第四災厄・グラ・ヴァルゼオン」
その声だけで、周囲の兵士たちの足が竦む。
「この地を取り戻すだと?
愚かな……この星は、いずれ死ぬ」
獣王が歯を食いしばる。
「貴様……!」
「黙れ、獣。
我が主は、この星を“終わらせる”と決めた」
圧倒的な威圧。
空間そのものが、恐怖に染まっていく。
―――だが。
「こやつは、ちと厄介だな。サマンサおじょうちゃん、ワシを呼び出しなさい。」
「……あ、はい、お願いします。トオヤマノテンサン( 102 歳 )さん」
サマンサは目を見開いた。現れたのはどう見ても高齢の老人だったからだ。
しかしその背中には、何か宗教的なものだろうか。見事な神に見える人物が彫られていた。
邪神四天王グラなんとかは、動けなかった。
いや、体が動かなかった。
自分の前に立つ、一人の老人。
無言。
だが――異常な圧。
「……貴様は何者だ」
答えは、なかった。
次の瞬間。
ゴンッ、グシャッ
鈍い、嫌な音。
四天王グラさんの頭部が――
ひしゃげた。
「……え?」
獣王が、間の抜けた声を出す。
グラの背後から、高速で走ってきた大男、オオカワシンペイが、手に持つ金属製の棒のような物でグラの頭をぺしゃんこにした。
「皆さん、雑魚にかまっている場合じゃない。囚われの獣人がいるのでしょう、さ、急ぎましょう」
「ア、ウン、ソウダネ」
ハイエルフは、少し震えていた。
ドワーフ王は、しばらく固まった後、ぽつりと呟いた。
「地球の人、ちょっと怖いかもしれない」
――――――
―――地下に囚われていた奴隷の獣人少女は、物音で目を覚ました。
身体が、温かい。
毛布が、かけられていた。
「あ、おねえちゃん、目が覚めた」
顔を上げる。
そこには――
元気に飛び跳ねている、妹の姿があった。
「……え?」
信じられない。
死んだはずの妹。
死んだはずの仲間たちが。
―――全員、生きている、元気に走り回っている。
「目が覚めましたか、暖かいココアをどうぞ」
メイド姿の綺麗な女性が、優しげな笑みで飲み物をくれた。
一口飲んだだけで、涙が溢れそうになった。
こんなに甘いものが、世界にあったなんて。
きっとここは、天国なのだろう。
「あ、あの、こ、ここは天国で、貴女は天使様ですか?」
「違いますよ」
「で、でも、死んだはずの、妹や、みんながいる。
「そ、それに、こ、こんなに美味しい物も」
「それはホットココアです」
「あなたの妹さん達は、お嬢様が蘇生させました」
「え、そ、そせい? ええ?えええ? 」
「他にも亡くなった方がいたら、おっしゃってください。部分がひとつでもあれば再生できますから」
「欠片も無いのなら、記憶でも良いですよ」
少女は幸せそうに気絶した。
――――――
次々と、ワシイチ、カナエが的確な指示を出す。
獣人の首都は――
死者ゼロ。
どころか、生き返っている分、プラスで奪還された。
―――人類種の大勝利だった。
――――――
戦いの後。
「次では、これ使いたいなー」
土呂野勇者は、手にした“やばそうな剣”を見つめる。
「そういえば……今回、一回も戦ってないですね」
スキル自動販売機召喚で買ったコーラ( 有料 )を飲みながらレンが苦笑した。
―――まだ人類種の反撃は始まったばかりだった。
続く
どうしてもギャグに傾いてしまいます。
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