第16話 こたつとちゃんこ鍋
第16話
「世界中のみなさん、こんばんは。えー、というわけで、早速ですが」
レンとこずえの二人が並んで立ち、リポーターのようにマイクを手にして、配信ドローンへ向かって話し出す。
「本日は年末特別企画。
題して――美少女とこたつで忘年会・鍋パーティー企画配信です」
『きたああああああ』『忘年会!?』
『!?』『なおフラグ』『コタツダイスキデス』
画面の向こうでは、世界中の視聴者が一斉に湧き立った。
当初は、未知の存在への不安や畏れ、そして異常なまでの美しさゆえに、どこか遠い存在として見られていた少女。
しかしクリスマス配信を境に、その印象は一変し、今では完全に視聴者の心を掴んでいた。
「美しい我らがお嬢様に、ぜひ日本らしい体験をしていただきたい。
その思いから、本日は日本国政府の協力のもと、日本の伝統的な家屋からの配信となっております」
画面が切り替わり、古き良き日本家屋が映し出される。
木の温もりを感じさせる廊下、障子越しのやわらかな光、畳の香りが伝わってきそうな落ち着いた造りだ。
「お嬢様、メイドさん。靴はここで脱いでくださいね」
「日本の家では、靴を脱いで上がるんです」
「はい。お邪魔します」
「心得ております。お邪魔いたします」
二人はきちんと靴を揃え、丁寧に向きを整えてから家に上がった。
居間へ案内されると、そこには長方形の特注こたつが据えられ、中央にはすでに湯気を立てる鍋が用意されていた。
『こたつで鍋か』『いい雰囲気』
『今日はしんみり回?』
『ニッポンノコタツワサイコーデス』
「どうぞ、お座りください」
こたつの長辺側に少女とメイドが並び、向かいにレンとこずえ。
短辺側には配信ドローンが位置取りする。
まるで視聴者自身もこたつに入っているかのような構図だった。
こたつに入る銀髪の美少女。
距離が近くなったせいか、画面越しにも一気に親近感が増す。
「きゃあ……こうして近くで見ると、本当にお嬢様の顔って、綺麗……」
「日本では、こうやってこたつで鍋を囲むのが、冬の風物詩なんですよ」
『美少女とこたつ、絵になる』『肌が綺麗すぎる』
『今こっち見た!』『俺らも一緒に入ってる感じ』
『鍋うまそう』
「闇鍋にしようか、なんて案もありましたが……今日は王道です。
伝統的なちゃんこ鍋をご用意しました」
鍋の中では、鶏ガラ出汁の香りが立ちのぼり、白菜や長ねぎ、豆腐、肉団子が食欲を刺激する。
湯気とともに、冬の夜らしい温かさが部屋に満ちていった。
少女は鍋を覗き込み、少し首を傾ける。
「これが……鍋料理。美味しそう」
――――
「それでは恒例、鍋をつつきながらの特別企画です」
「視聴者さん質問コーナー、わーい、ぱちぱちー」
「答えられる範囲で構いませんので、ランダムに選ばれた視聴者さんが質問し、こちらの美少女お嬢様に答えていただくというものです。選ばれた方はマイクで質問してください」
「では最初の方――腹ぺこサラリーマンさん、どうぞ」
『うわ、え、僕!?
えっと……好きな人はいますか?』
「さあお嬢様、ビシッとお願いします」
「好きな人は……人間の皆さんです」
少女がカメラに向かって、にこりと微笑んだ。
『ヒャッハー』『何回殺せば気が済むんだ』
『幸せ』『アレワタシニイッタンデス』
「どんどん行きましょう。次はポケちゃんさん」
『趣味はなんですか?』
「読書が好きです。それから……旅行も」
「ありがとうございます。次は――あ、元勇者さん」
『単刀直入に聞きます。
貴方様はダンジョンを通って、別次元から来た存在なのですか?
そして、貴方様は何者なのですか?』
『今さらどうでもいいだろ』『元勇者ってなんだよ』
『我らの七次元的美少女お嬢様だろが!』
なぜか他の視聴者からブーイングが飛ぶ。
「その質問には、私がお答えいたしましょう」
メイドが静かにカメラを見据えた。
「あるお方より、ある程度まで話す許可を得ております。
ご指摘の通り、私どもは地球とは異なる、高次元の世界から参りました」
『並行宇宙のようなものでしょうか?』
「宇宙は広大です。
地球から観測できない領域は、数え切れぬほど存在します」
『どうやって移動を――』
「はーい、そこまで。
それ以上は色々ヤバいコードに引っかかります。次いきましょう、ペンペンちゃんさん」
『犬と猫、どっちが好きですか?』
その質問に少女の頬が、ほんのり赤く染まる。
「……猫です。
地球の猫のキャラクターが好きで……以前、イオニモールで買った“きてぃさん”が、とても気に入ってしまって……それでお父様にお願いして……」
普段はおっとりとした少女が、珍しく早口になる。
『めっさ早口w』『よっぽど好きなんだな』
『ワシは犬派じゃ』『実際きてぃさんは猫? 』
「ありがとうございます。次はアカリちゃんさん」
『メイドさんに質問です。メイドさんから見たお嬢様って、どんな方ですか?』
「そうですね……」
メイドは一瞬考え、そして語り出す。
「まずお嬢様は、全ての世界において最も可憐で、美しい存在です。
正直に申し上げますと――」
「現在の人類の魂や精神構造では、お嬢様の美しさをせいぜい二割程度しか認識できておりません」
「私の見ているお嬢様と、皆様がご覧になっているお嬢様の間には、決定的な隔たりがあり――」
そこから先は、難解な話とピー音の嵐だった。
「……お嬢様の美しさを理解するには、まず(ピー)していただき、霊的な(ピー)をさらに(ピー)で――」
慌ててこずえが話に割って入る。
「ごめんなさいね、あのー、色々とまだ地球では言ってはいけないことも話しておられますが、そこは適当にモザイクとピー音、よろしくー」
『要するに、人間にはお嬢様の本当の美しさが認識できてないってことか』
『お嬢様的可愛さは、超次元を超えた正義ってやつだな』
『どこかのオタクが言ってた、七次元的美少女ってやつが意外と答えに近かったな』
こうして、鍋をつつきながらの忘年会は、賑やかに過ぎていった。
なお、メイドはその後も延々と少女の美点を語り続けていた。
――――
「それでは次の企画を発表します。
こたつに鍋といえば、その次は――レン君!」
「はい。次は――みんなでゲーム大会です。
そして年末のゲームといえば……」
「――新柿太郎電鉄です――」
そして恐怖の夜が始まる。
――――第17話へ続く
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