第13話 霊刀富士山とスイーツ【挿絵あり】
第13話
翌日、午前8時
レンは配信ドローンと共に、池袋にあるCランクダンジョンの前に来ていた。
今日の予定は午後からスイーツ巡り。
ここを選んだ理由は単純で、午後の約束場所に近いからだ。
ダンジョンハンターとして腕が鈍っては命取りになるため、約束時間まで、軽めのダンジョンアタックを計画した。
「……よし、無理はしないようにしよう」
それともう一つの理由。
――昨日、温泉街の土産物屋で少女が選び、レンに渡した「富士山」と書かれた木刀。
これを振るいたくて仕方がなかった。
配信ドローンを起動させると、早速コメントが流れ始める。
『朝から配信助かる』『今日はレンひとりでダンジョンか?』『武器は木刀で行くの? 』『そういやこれダンジョン配信だったね』
「午後からはみんなでスイーツ巡りの予定ですが、午前はこの武器? を使って軽くダンジョンアタックをしようと思います」
ダンジョン内部。
通路に現れたモンスターたちは、レンの姿を認識した瞬間逃げ出した。
レン自身も戸惑いながら先へと進む。
そして、
カチャ。
床に刻まれた魔法陣が、淡く光る。
「あっ!?」
視界が白く反転し、音が消える。 重力感覚が失われ、次の瞬間、叩きつけられるように地面に落ちた。
転移罠。
『またこのパターンか』『お約束だよね』
『いや、これヤバくね? 』『前回これでロードミノタウロスに遭遇したからね』
転移した先は、広大で静かな空間。
玉座の上に、それはいた。
黒衣を纏った骸骨の王。
――S級モンスター《ロードリッチ》
数百年を生きる不死者の王。
ロードミノタウロスと同格、あるいはそれ以上の怪物。
都市一つを軽く滅ぼす存在。
「……ほう、人間か、久しいな」
ロードリッチの視線が、哀れな獲物を捉える。
『やっぱり出たS級ーー』『レン逃げろ』
『ハイハイお約束お約束』『お嬢様また助けてー』
「ここまで来られた褒美をくれてやろう。ダンジョンの管理者が人間について何やら言っていたが、余には関係ない。愚かなる人間など目障りだ、滅びよ」
突如戦闘が始まった。
ロードリッチが杖を掲げる。
空が、落ちる。
いや、そう錯覚するほどの大魔法だった。
ダンジョン内部に、疑似天体が形成される。
「極大殲滅魔法
《ネクロ・アポカリプス》」
都市壊滅級の極大魔法。
存在そのものを“死”へと塗り替える禁忌の魔法。
瞬時に己の死を覚悟したレンは最後の足掻きとばかりに
「うおおおーー」
巨大な死そのものへと立ち向かい、「富士山」と書かれた土産物屋の木刀を振るう。
パシュッという、場違いな音。
極大魔法は、霧のように霧散した。
ロードリッチが、固まる。
「……えー? 」
骸骨の目が、明らかに狼狽えている。
骸骨の顎が、カタカタと震える。
沈黙の後、真剣な声で。
「小僧、それをどこで手に入れた?」
「あの、実は昨日、温泉街の土産物屋で買ってもらって……富士山の近くにあるとこの」
鋭い眼光が、木刀に書かれている「富士山」という文字を睨みつける。
「小僧、それは霊峰富士の加護を持つ霊刀か? 」
「いや、しかしいくら富士の山の加護を持つとはいえ余の魔法を? 、いや、霊峰富士といえどそれらは“世界の内側”にある、この感じは外側からの、だが、理を断ち切る? 」
ロードリッチがぶつぶつと独り言を始める。
『考察始まったぞ』『富士の霊刀ワロタw』
『1300円の霊刀でーす』『S級モンスターに木刀で殴りかかるやつは世界初だぞ』
「神界? 世界樹を媒介に? だがなぜやつらが、いや、そもそも奴らでさえ理の内側に」
なおもぶつぶつと独り言を続けるロードリッチに、
レンは完全に困惑していた。
ふと木刀に書かれている「富士山」の文字が気になり、指でなぞってみる。突如、強力なバフがレンを包み込んだ。
状態異常無効
完全自動回復
完全自動蘇生( 一日99回)
即死無効
物理攻撃99%カット
魔法攻撃99%カット
etc
『霊刀富士山強ええー』『バフかかるのか』
『もう色々めちゃくちゃだよ』『あれうちにも同じのあるよ』
「ひぃ! こ、小僧、貴様何者だ! ええい、ふ、ふざけるなあー」
眷属召喚。A級モンスターデス。
不死兵団召喚。ダークスケルトンの群れ。
呪詛の嵐。死の呪文アバダケダブーレ。
ロードリッチの魔力は膨大だ。ダンジョン内であれば尽きる事はない。伊達にS級モンスターではない。
しかし、レンの傷は瞬時に塞がり、疲労すら残らない。リッチ自慢の必殺の即死魔法も全く効果が無い。
木刀を振るうたび、極大魔法は“存在ごと”消える。
両者一歩も譲らず均衡した(ように見える)戦いが続く。レンはリッチに付き合うように木刀を振るっていた。
時間だけが、過ぎていく。
「……すみません、今何時ですか!? 」
突然レンが配信ドローンに問いかける。
「小僧お、貴様この余を前に、なぜ時間などを気にする?」
レンは正直に答えた。
「実は午後に、ある女の子との約束があるんです」
レンは配信ドローンとスマホの映像をロードリッチに見せ、少女との今までの経緯や本日のスイーツ巡りについて説明した。
そして――
「……小僧、それすぐ行かなきゃだめなやつじゃん、なんでそんな大事な事、最初に言わないの? それ、余のせいで遅刻したら余もコロコロされちゃうもん」
ロードリッチは静かに杖を下ろし、スマホをレンに返した。
『理解が早い』 『いい骸骨? 』 『まだ80分あるぞ』
『ロードリッチ先生、命拾いしたな』
「遅刻しないようにこれを使いなさい、あと行く前にシャワーも浴びて、服も着替えて。入口の所に更衣室あるでしょ?」
ロードリッチがレンにあれこれ世話を焼き、骨の指にある指輪をさすると、床に転移陣が現れる。
「この転移陣で入口に行けるから、急いで。じゃあ、行ってらっしゃい、気をつけて」
「すみません、ありがとうございます!失礼します」
レンは深く頭を下げ、慌てて転移陣に飛び込んだ。
『S級モンスター優しすぎ』『ロードリッチ嫌いじゃない』『骸骨の顔もけっこう愛嬌あるなー』
―――――
午後。
スイーツ店。
主に女性に人気のある有名店。
甘い香りと、柔らかな空気。店内を見渡すとほとんどが若い女性達だ。
少女、こずえ、今日も同行しているメイド。
甘い店内で、女性たちのはしゃぐ声が聞こえる。
テーブルの隅、今しがた不死者の王ロードリッチと死闘を繰り広げたレンは、完全に場に浮いていた。
『温度差で風邪ひくw』『さっきまで死合ってたからね』 『平和っていいなー』『この雰囲気は陰の者にはきつい』
銀髪の少女がイチゴパフェを一口。
「……おいしい」
霊刀富士山は、レンの足元に立てかけられている。
その後、木刀は修学旅行生のお土産として鉄板となった。
――今日も世界は、平和に過ぎていく。
今でも木刀は売っていますか?
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