第12話 温泉とピンクの浴衣 【挿絵あり】
第12話
翌日。
世界中は、まだざわついていた。
少女の歌が引き起こした奇跡は日本国内に留まらず、海を越え、国境を越え、説明のつかない超常現象として世界各地で報告され続けている。
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「今日は温泉に行きます」
朝の配信でレンがそう告げた瞬間、コメント欄が爆発した。
『温泉!?!?』『これぞ日本文化!!!』
『待ってましたー!』『オー、オンセン、サイコーデス』
同時接続数は、もはやありえない数字。
世界中が、この配信を見ていた。
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東京駅。
配信ドローンが浮かぶ中、レン、こずえ、少女、そして新たに同行するメイドが姿を現す。
歳の頃は二十歳前後だろうか。
その佇まいには一切の隙がなく、深い忠誠心を宿した瞳は、終始主人である少女だけを追っている。
「本日は、わたくしがお嬢様の身の回りのお世話を担当いたします」
その一言に、コメント欄がざわついた。
『リアルメイド!?』『美女メイドきたー』
『このメイドも規格外のレベルだ』『ウツクシイメイドサン』
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初めて見る新幹線に、終始ご機嫌なお嬢様。
その様子を横目に、メイドは周囲を抜け目なく観察していた。
人間など、互いに争うしか能のない野蛮な種族だと思っていましたが、
〈この軸の〉人間は、なかなかに面白い。
やがて新幹線は、静かに動き出す。
心地よい揺れに身を任せ、少女は窓の外を飽きることなく見つめていた。
流れていく街並み、遠ざかるビル群、次第に増えていく緑。
「……きれい」
その呟きに、レンは嬉しさを隠せなかった。
「はーい、みなさん。新幹線といえばこれ!
朝ごはんに駅弁を準備しましたー。拍手♪」
今日もテンション高めのこずえが色とりどりの駅弁を広げると、車内は一気に和やいだ。
「貴方も〈ここ〉が好きなの?」
「ええ。〈ここ〉は、私のお気に入りなんです。本当に」
メイドとこずえが軽く言葉を交わす。
『新幹線に駅弁、そして美少女。最高の絵だな』
『修学旅行思い出す』『平和だねえ』
『いやいや、今世界中が見てるからね、これ』
『シンカンセンハトテモグッ』
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移動すること二時間。
日本でも屈指の温泉街に到着した。
超が付く高級旅館の前には、スタッフがずらりと並び、深々と頭を下げている。
「ようこそお越しくださいました」
温泉街の総力を挙げたおもてなし。
その本気が、ひしひしと伝わってきた。
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少女はメイドに付き添われ、少女のために専用に用意された貸切風呂へ。
レンとこずえは、それぞれの大浴場へ向かう。
「あーあ、私も美少女と一緒に入りたかったなー」
「日本の温泉の入浴マナーは、すべて心得ております。ご心配なく」
こずえは心底がっかりしたが、メイドに冷たくあしらわれ、退散するしかなかった。
下手なことをすれば、命が危ない。
そして我らが追跡型配信ドローンは――
当たり前のように、男湯へ向かうレンの後を追った。
『誰得だよこれ!!』『女湯行ってくれ!!!』
『今日地球が滅んでもいいからお嬢様のとこ映せ』
『レンさんのサービス回?』『ワタシタトゥーアル』
だがドローンは頑として、男湯に向かうレンだけを映し続ける。
「皆さん落ち着いてください。一応、宿の許可は取って、僕が男湯のリポートをするよう言われてまして……」
レンがそそくさと服を脱ぎ、腰にタオルを巻く。
「僕、一応ダンジョンハンターなんですけどね」
浴場の扉を開けると、開放感のある大浴場が広がり――
「よう、レン」
すでに湯に浸かっていたのは、Aランクハンター・藤堂ノブナガだった。
「ノブナガさん!? どうしてここに」
「お前らの護衛だよ。一昨日からずっとな。
せっかくの高級旅館だし、ま、特別出演ってことでよろしく頼むぜ、俗に言うコラボだな」
そう言ってノブナガは、逞しい筋肉をカメラに見せつける。
「視聴者にも、こういうサービスは必要だろ?」
『ノブナガ仕事しろ』
『目が、目が腐るー』『モザイク入れろ!』
『ワタクシ……ヒサシブリニ……キレチマッタヨ……』
配信ドローンは、嫌なものでも見てしまったかのように向きを変え、大浴場の窓の外に見える、雄大な富士山を映し出した。
『今のうちに洗濯してこよ』
『男湯いらねー』『さっさと上がれー』
『ひゃ、ひゃだあ』『イップクシテキマース』
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一部を除いて、特に需要もなさそうなので、ノブナガを残して早々に退散。
着替えて待合室で待っていると、入浴を終えたこずえもやってきた。
それから十数分後。
入浴を終え、浴衣に着替えたお嬢様が、静かに廊下を歩いてくる。
その姿に、レンもこずえも言葉を失った。
丁寧に整えられた髪。
湯気を残すような柔らかな気配。
うっすらと赤みが差した頬。
そして、
――浴衣の湯上がり美少女。
まるで、世界そのものが少し明るくなったかのようだった。
『ありがとうございますありがとうございます』
『ワシは世のすべての罪を許すぞー』
『潰れた目が癒される』『ユカタハサイコーデス』
あまりの少女の美しさに、完全に理性を失ったこずえが抱きつこうと突進するが、
メイドの音速を超えた手刀が炸裂し、即座に撃沈。
『おそろしく早いチョップ。ワシでなきゃ見逃しちゃうね……って、ごめん嘘、見えんかったわ』
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昼は懐石料理。
一品運ばれるたび、コメントが流れる。
一行は食の芸術に舌鼓を打った。
生ものは少し心配だったが、少女は刺身も美味しそうに口にする。
天ぷらを食べた時に見せた笑顔は、年相応の、可愛らしい女の子のものだった。
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食後は温泉街散策。
まず少女が興味を示したのは、射的だった。
レンがお手本を見せる。
弾は見事に人形の倒れやすいところを捉えたが、人形は弁慶のように微動だにしない。
――死んでも倒れぬ気迫。
次に、浴衣姿の可憐な美少女が銃を構える。
弾はわずかに外れた……が、
人形は「やられたー」と言わんばかりに派手に倒れた。
「おめでとうございます、いやぁ、お見事!」
『中に人入ってるだろw』
『空気読みすぎ』『もう慣れてきたな』
『コレワナンデスカー』
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土産物屋では、キーホルダーや小物を大量購入。
「お嬢様、それは?」
「爺やや、みんなにも」
少女はふと、よくある安物の、土産物の木刀を手に取り、何やら軽く口を動かしてレンに渡す。
「これ、あげる」
受け取った瞬間、レンは確信した。
――あ、これ、ヤバいやつだ。
これなら、あのロードミノタウロスとも戦える気がする。
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次に訪れたのは足湯。
少女は腰を下ろし、下駄を脱ぐ。
メイドが静かに裾を持ち上げ、その美しい素足を湯へ。
こずえの手が音速でレンの目を塞ぐ。
「見たら頃す」
一方で、こずえ自身は全能力、全スキルを総動員して、浴衣美少女が足湯を楽しむ様子を脳に収めていた。
配信ドローンは、ひたすら美しい富士の山を映している。
『ドローン先輩頼むー、見せてくれえ』
『後生だから』『今すぐそこに行くぞー』
『ドローンワショクニンサン』
湯気の向こうで、少女は穏やかに微笑んでいた。
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その後、温泉街をさらに散策。
この街の由来となった、なにがしかを祀る神社の前を通りかかると、少女が軽くそちらを見て微笑む。
メイドは静かに一礼した。
「お邪魔しております」
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屋台での食べ歩き。
たこ焼き、みたらし団子、湯気立つ甘味。
「ちょっとあつい」
「ふーふーしてから食べてください」
「あーんしたい、あーんしたい」
そんな何気ないやり取りを、世界は微笑ましく見守った。
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夕刻。
「お嬢様、そろそろお時間でございます」
「もう帰るの?」
「コンビニもご所望でしょう」
「……いく」
メイドが何かを唱えた次の瞬間、景色が歪み――
一行は東京駅にいた。
『瞬間移動便利すぎ』『もう驚かない』
『地上では使えない仕様なんだけどね』
『カエリシンカンセンナイ? 』
「抹茶味ロールケーキ買いに行こ」
「お好きですね抹茶味」
買い物を終え、この日は解散となった。
「それでは、みなさまご機嫌よう」
少女は浴衣のまま美しいカーテシーをし、馬車に乗り込む。
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温泉街。
「俺らは自力で帰る流れか」
護衛対象が消えたノブナガは、やれやれと肩をすくめた。
生成AIでイラストを描くのにハマってしまいましたが、本当に難しい。
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